「ったく!しっつこいぞ!!【スカー】!!」
茫然としたままのエドに、舌打ちをすると、
【フェイス】は、エドを抱き上げて、屋敷の外へと
走り出す。
後ろでは、木々が倒されているところから、
【スカー】が破壊しながらこちらを追いかけている
のだろう。
「くっそー!!何が【神の代理人】だっ!!いつ、
神が自然破壊をしていいって言ったんだ!!
だいたい、あいつは昔から・・・・。」
【スカー】から逃げつつ、【フェイス】は見当ハズレな
文句を言っていた。
「【フェイス】・・・・。」
くぐもった声に気づいた【フェイス】は、腕の中のエドに、
声を掛ける。
「すまん!エド、もう少ししたら・・・・。」
「いいから。」
エドはそう呟くと、キッと【フェイス】の顔を見上げる。
その穢れなき瞳に、一瞬【フェイス】は見惚れる。
そして、それが一瞬の隙を生み、エドはパンと両手を
胸の前で叩くと、【フェイス】の服に手を当てる。
「うわぁあああ!!」
【フェイス】の身につけていた白いエプロンが、練成光の
後、【フェイス】の身体に襲い掛かり、蓑虫のように
グルグル巻きとなった【フェイス】は、地面に倒れ込む。
「・・・・・ごめん。・・・・ロード。動かないで。」
「!!」
突然、【真名】を言われ、【フェイス】の顔が青褪める。
イシュヴァール人にとって、【真名】はとても重要な意味を
持つ。もう捨てたはずの【イシュヴァール人】としての
過去の自分が蘇り、【フェイス】は動揺を隠し切れない。
そんな【フェイス】に、エドは涙を流しながら、優しく微笑む。
「エド・・・お前・・・・。」
【あの時】と同じ、儚いエドの微笑みに、【フェイス】は、
唖然となる。【あの時】、自分はエドを止める事が出来ずに、
最悪の状態を引き起こしてしまった。【フェイス】は、
まるで【あの時】の再現のような、エドの様子に、
必死に懇願する。
「・・・・エド。行くな。」
脂汗を流しながら、【フェイス】は、地面を這うように、
エドに近づこうとするが、その前に、エドは身を翻す。
「エドーーーーーッ!!」
深い森の中で、【フェイス】の絶叫が響き渡った。
「エディが・・・・エドワード・エルリック・・・だと?」
その頃、一人取り残されたロイは、クククと低く
笑い出す。
「・・・・・・そんな馬鹿な・・・・・。」
ロイは、空ろな目を窓の外へと向ける。深い森の
至る所で響き渡る、爆発音と練成光に、ロイは、
まるで誘われるように、フラフラと窓に近づく。
「・・・・・・・確かめなければ。」
ロイはギュッと唇を噛み締めると、踵を返して部屋を
出て行こうとするが、背中に当てられた硬い金属の
感触に、眉を顰める。
「・・・・・・誰だ。」
己の副官からいつも受けている行為だが、気配は
副官ではない。その上、自分が簡単に背中を取られた
事に、ロイは内心舌打ちする。
「マスタング准将、お迎えに上がりました。」
その声に、ロイは、更に目を細める。
自分の記憶が確かなら、自分に銃を突きつけている人物は、
エドワードの副官のはずだ。それに、自分の階級が上がっている
事に、ロイは言い知れぬ不安を覚える。
「・・・・・私はまだ大佐なのだが?」
警戒しながら、ゆっくりと後ろを振り返ると、やはりそこには、
エドワードの副官が銃を構えており、ロイは更に目を細める。
「それに、上官に対して、銃を突きつけるとは・・・・。」
どういうことだ?と詰問するロイに、エドワードの副官、マリア・ロスは、
醒めた目を向ける。
「申し訳ございません。大総統命令により、もしもマスタング准将が
セントラルの帰還を拒否するようならば、銃で脅してでも、帰還させる
ようにと命じられていましたので。」
「帰還を拒否?そんな事、あるわけがない。・・・・それよりも、何故
私を【准将】と?」
探るように目を細めるロイに、マリアは、左手に持っている封筒を
渡す。
「・・・・昨日付けで、【准将】へと昇進なされました。」
「馬鹿な!!」
その言葉に、ロイは引っ手繰るように封筒を受け取ると、慌てて中身を
確認する。
「・・・何故だ・・・・。」
確かに、大総統直筆の辞令なのだが、納得がいかない。
自分は、准将に昇格するほどの手柄を立てた覚えはない。
第一、空きがなかったはずだ。
「・・・・昨日付けで、エドワード・エルリック少将が、退役なされました。」
ロイの疑問を答えるように、マリアは淡々と述べる。
「退役だと!?」
どういう事だと詰め寄るロイに、マリアは、感情の篭らない目を、ゆっくりと
向ける。
「そしてエルリック少将は・・・・・・。」
「失礼します!!ロス中尉!エドワード・エルリックの捕獲準備が
整いました!!」
マリアの声を遮ったのは、同じくエドワードの部下である、デニー・ブロッシュ。
普段の飄々とした雰囲気は、なりを潜め、感情の篭らない目で、じっとマリアを
見つめるブロッシュに、ロイはぞくりと背筋に悪寒が走る。
何か自分が知らないところで、運命が最悪の方向へと動いているような
気がして、ロイは知らず息を飲み込む。
「では、私はこのままエドワード・エルリックの捕獲に向かいます。
軍曹は、私の代わりに、セントラルへ戻るマスタング准将の護衛を。」
そう言って、身を翻すマリアを、ロイは引き止める。
「待ちたまえ!!エルリック少将を捕獲するとは、どういうことだ!!」
仮にも少将の地位にいた者を、捕獲とは、穏やかではない。
「・・・・・・マスタング准将には、セントラルに戻り次第、ウィルグドからの
親善大使の警護の任につくようにと、大総統より命令が・・・・・。」
「そんな事を聞いているのではない!!」
マリアの言葉を遮ると、ロイはツカツカとマリアに近づく。
「マリア・ロス中尉。答えたまえ!何故エルリック少将を捕獲せねば
ならない?」
「・・・・それは、彼女が・・・【罪人(つみびと)】だからです。」
「罪人?」
眉を顰めるロイに、マリアは、チラリと肩越しに振り返る。
「結局、全てあなたの思うままになったのですよ。」
「なんだと?」
怒りを露にするロイに、マリアはクスリと笑う。
「エルリック少将を引き摺り下ろそうとしていたのでしょう?」
「なっ!!」
絶句するロイに、マリアは更に笑う。
「これであなたは、大総統の椅子へ一歩近づいた。良かったでは
ないですか。」
「・・・・・・口を慎めたまえ。」
怒りの為、ブルブル身体を震わせるロイに、マリアは笑いを納めると、
感情の篭らない目を向ける。
「口を慎んだところで、あなたがエドワード・エルリックにした行為が
消える訳ではない。」
マリアは、淡々と述べる。
「・・・・・・黙れ。」
ギリリと睨みつけるロイに、マリアは更に言葉を重ねる。
「今更罪悪感でも生じたとでも、おっしゃりたいのでしょうか?」
それこそ、笑えない冗談ですと、心底馬鹿にした眼を向けるマリアに、
カッとなったロイは、背を向けたままのマリアの肩を乱暴に掴むと、
無理矢理自分の方へ向かせる。
「貴様!!」
胸倉を掴むロイに、マリアは、辛そうな瞳を向ける。
「・・・・あなたが、エド姉との約束を守っていれば・・・・・。」
「マリア・ロス中尉?」
様子のおかしいマリアに、ロイは一瞬たじろぐ。
「いいえ、それよりも、あなたがエド姉と出会わなければ、エド姉は
【罪人】にならずにすんだのに・・・・・。」
「なっ・・・・・。」
マリアの言葉に絶句して、手から力が抜けるロイに、マリアは
何か言いたげに、口を開きかけるが、直ぐに首を横に振ると、
ゆっくりと自分の身体をロイから引き離す。
「・・・・軍曹。マスタング准将をセントラルへ。」
「イエス!マム!!」
ビシッと敬礼をするブロッシュに、マリアは重々しく頷くと、今度こそ振り返らずに
部屋を後にする。
「マスタング准将。こちらです。」
茫然となって固まるロイに、ブロッシュは声を掛ける。
「・・・ああ。わかった。案内をしてくれ。」
無表情のブロッシュに、ロイは茫然としたまま頷くと、先へ行くように
促す。
「ああ、そうだ。待ってくれ。」
ロイに背中を向けて数歩行きかけたブロッシュに、ロイは声をかける。
「何か・・・・・うっ!!」
振りかえようとするブロッシュだったが、後頭部を殴られ、そのまま床に
倒れ込む。
「・・・・すまないね。」
ロイは、床に倒れているブロッシュに小さく謝ると、先ほど【スカー】が
壊したバルコニーの窓から身を躍らせた。
そこは、見事としか言えないほど、美しい湖だった。
森の中に、突如として出現した湖は、鏡のように湖面が
凪いでおり、月の光を受けて、煌々と輝いていた。
「まるで、【真理の鏡】のようだな・・・・。」
エド達を追っていた【スカー】は、そのあまりの見事さに、
暫し時を忘れて佇む。
遥か古の昔より、イシュヴァールの民の間で語り継がれている
物語が脳裏を過ぎる。
男の自分は興味はなかったが、老いも若きも、女達は皆一様に目を
輝かせて、語り部の老人の言葉に、耳を傾けていた。
まだ、【世界】が、一つではなかった時代。
【真理の鏡】と呼ばれる大きな美しい湖で、【世界】は繋がっていた。
どんなに風が吹こうとも、波一つ立たない、凪いだその湖面を覗き込むと、
別の世界が見られるという。
そして、その湖は、代々【守護者】と呼ばれる、一人の神官によって
守られていた。
決して交わってはならない【世界】を守護すると同時に監視するために。
そんなある日の事、神官は、いつものように、結界を強化するため、
湖のほとりにいた。
その時、彼は出会ってしまったのだ。
【異世界】の【守護者】である巫女と。
まだ幼い少女ではあったが、纏う雰囲気は他の追随を許さぬほど、
凛としており、何よりも、赤い衣装に、金の髪が映え、巫女はとても
美しかった。
向こうも、湖の結界を強化するためなのか、湖面に映る巫女は、
祈るように、両手を胸の前でパンと合わせると、そのまま湖面へと
手を置く。すると、湖面全体が青白い光に包まれ、神官は茫然と
その美しい光景を見つめていた。
青白く輝く水面の向こう側に、満足気に微笑む巫女の姿に、
神官は一目で恋に落ちたのである。
そのまま、去っていく巫女に、神官は慌てて引き止めようと、
手を伸ばすが、神官を拒むように、湖から光が放たれ、神官を
傷つける。
それでも、神官は、巫女が立ち去った湖面を、暫くの間
見つめているのだった。
その日から、神官は湖に通うようになった。
ただ湖に映る巫女の姿を追い求め、
神官は、湖を静かに見据える。
【世界】の違う二人。
決して触れ合うことの出来ない愛しい人。
それでも、ただその姿を見れるだけで、
神官は良かったのだ。
しかし、本来の勤めを忘れ、湖に通う神官に、周囲の目が
冷たくなる。
そして、とうとう神官はその任を解かれる事となった。
【守護者】としての最後の夜、神官は最後に一目だけでもと、
湖へとやって来たのだが、そこで思っても見なかった光景に
驚愕に目を見開く。
湖の向こうでは、愛しい巫女が、蹲って泣いていたからだ。
いつもの巫女の装束ではなく、白いベールをつけ、真っ白な
ドレスを身に纏う巫女に、神官は戸惑いを隠しきれない。
巫女は纏っているドレスは、自分の世界では、婚礼衣装となるが、
果たして、向こうの世界でも同じなのだろうか。
もしも、同じというのならば、誰がこの巫女を手に入れるというのだ。
その考えに至った時、神官はカッと頭に血が上る。
例え向こうに自分の事を知られなくとも
例え触れ合うことがなくとも
自分は、その姿を見るだけで幸せだと思っていた。
しかし、だからといって、愛しい人が他の男のものになるのを、
どうして許せる?
神官は、今だ蹲って泣いている巫女から、天空の月に視線を移す。
幸い今宵は満月。
【守護者】としての【力】が一番強くなる時。
神官は、ゆっくりと手を湖面に翳すと、パチンと指を鳴らす。
途端、湖面に赤い光が走り、それがゆっくりと湖全体を包み込む。
一瞬、脳裏に、結界を破る事によって生じる【世界】への影響が
浮かび怯んだのだが、その時、湖の異変に気づいた巫女が
顔を上げた。
交差する金と黒の瞳。
逃げられるかと懸念する神官の思いとは裏腹に、巫女は泣きながら
両手をパンと叩くと、そのまま神官に抱きつこうとするかのように、
その身を湖に躍らせる。
巫女の捨て身な行動に、神官も慌てて結界を破ると、同じように
湖の中に飛び込んでいく。
決して入る事の出来ない湖は、結界を破った事で、本来の姿を
現し、神官を優しく包み込む。
そして、ゆらりと姿を現した愛しい巫女を見つけると、神官は
慌てて手を伸ばす。
決して触れ合う事のない人に触れ合える。
神官の心には、ただ歓喜しかなかった。
巫女の伸ばされた手を掴むと、己に引き寄せ、固く抱きしめる。
想像していた通りの、柔らかい感触に、神官は嬉しさを隠し切れない。
早く巫女を己の【世界】へと連れて行かなければ。
神官は、巫女を抱き抱えると、力強い泳ぎで、水面を目指した。
岸に辿りついた神官は、そっと腕の中の巫女を、信じられない想いで
見つめた。結界を破るために、かなりの【力】を使ったのだろう。
ぐったりと己の腕の中で気を失っている巫女を、神官はきつく抱きしめた。
その時、ふと湖が視界に入ってきた。
結界を壊した事により、湖は不安定になっているのだろう。
普段なら、どんなに風が吹こうとも、波一つ立たない湖が、
まるで嵐の中にいるように、荒れ狂っている。
【守護者】として、事態を鎮めなければとは思うが、そうなれば、
腕の中の愛しい巫女を、元の世界へと帰さなければならない。
神官は、決意を込めた目で、じっと湖を睨みつけると、徐に
右手を湖に向ける。
パチン
神官が指を鳴らすと、再び湖に赤い光が縦横無尽に広がった。
だが、それは光ではなく、全てを焼き尽くす焔。
荒れ狂う水に、焔が襲い掛かる。
一瞬、水の力に、焔が消えたが、直ぐに更なる勢いを増した焔が
水を覆い隠す。
一進一退の攻防の末、焔が水を押さえ込み、【真理の鏡】は、
焔の力によって消滅した。
それにより、【世界】は一つになり、【神官】は、愛しい巫女を手に入れ、
幸せに暮らすのだった。
・・・・・物語は、そこで終わっている。
だが、それは【真実】ではないと言ったのは、イシュヴァールでも
最高位を誇る【預言者】であった者。
「我々は、それを見届けるために存在するんだ。」
そう、彼は言った。
それがいかなる意味を持つものなのか、
【スカー】は知らない。
しかし、その時の【予言者】の顔が、悲しみに満ちていた為、
自分なりにイシュヴェールの民は、【試練】を迎えるのだろうとは、
思っていたのだが・・・・・・・・。
まさか、あのような【結果】になるとは、思ってもみなかった。
「エドワード・エルリック・・・・・。」
【スカー】は、湖を見つめながら、唇を噛み締める。
全ての元凶であり、【罪人】。
「許さぬ。【鋼の錬金術師】・・・・・・・。」
【スカー】は、ゆっくりと後ろを振り返る。
「・・・・・・よく来た。【鋼の錬金術師】。」
振り返った先には、黒髪に黄金の瞳を持つ美女。
先ほどから自分が命を狙っている、エドワード・エルリックその人だった。
「・・・・・【スカー】。」
エドは、一歩前に出ると、真剣な表情で【スカー】を見据える。
「聞きたい事がある。」
ギュッと眉を寄せると、泣きそうな顔で【スカー】を見つめる。
「私にはない。」
【スカー】は、そう冷たく切り捨てると、エドに向かって駆け出そうとするが、
次の瞬間、顔から地面に突っ込むことになる。
「どうして!!俺の正体が分かったんだ!!俺の変装は完璧な
はずなのに!!」
「・・・・・・・は?」
思わず間抜けな顔で顔を上げると、そこには、手鏡を覗き込み、首を傾げて
いるエドの姿がある。
「おかしいなぁ。どうしてなんだろう。」
真剣に悩んでいるエドに、最初はポカンとしていた【スカー】だったが、
やがて、怒りの為、身体を小刻みに振るわせる。
”この大ボケは、わざとか?そうなんだな!!”
なんなのだ!この緊張感の無さはっ!!こっちが馬鹿みたいではないかっ!!
【スカー】は、ゆっくりと身体を起こすと、今度こそ容赦はしないと
エドに向かおうとしたが、先ほどまで目の前にいたはずのエドの姿が
何処にもなかった。
「なっ!?」
驚いて立ち尽くす【スカー】の喉元に、ヒヤリと冷たい感触が当たる。
「エドワード・エルリック・・・・・。」
顔だけ後ろに反らせると、そこには、自称【変装】を解いたエドが、
ナイフを【スカー】に押し付けていた。元の黄金に戻った髪が、
月の光を受けて美しく光る。一瞬、先ほどまで思い描いていた
物語の【巫女】を思い出し、【スカー】は、魅入られたように、エドを
凝視した。
「・・・・・・・・・イシュヴァールの民の事で、お前に聞きたい事がある。」
低く呟かれるエドの声に、【スカー】は、ハッと我に返ると、慌てて
エドの手を振り払う。
「・・・・・俺は、イシュヴァールの人達に、何をしたんだ?」
思いつめた顔で尋ねるエドの姿に、【スカー】は驚きに目を見張る。
彼女は一体何を言っているのだ。
訝しげな【スカー】に、エドは更に言葉を繋げる。
「俺っ!あの戦いについての記憶があんまりないんだ!!」
「記憶にない・・・・だと・・・・?」
スッと目を細める【スカー】に、エドは真剣な表情で叫ぶ。
「だから、俺に教えてくれ!!」
頼むと頭を下げるエドに、ゆっくりと【スカー】は近づくと、右手を
大きく振りかぶる。
「許さん。・・・・・・・・貴様だけは絶対に許さん。イシュヴァールの
民達を、惨殺した事を忘れただと?」
【スカー】の言葉に、エドは反射的に顔を上げると、驚きに眼を見開く。
「なっ・・・・惨・・・・・殺・・・・・・?」
「死して、民達に詫びるが良い!!」
ショックのあまり動く事すら出来ないエドに、【スカー】は、容赦なく
攻撃を加えようと、振り上げた右手を下ろそうとしたが、その前に、
二人の間に焔が割って入る。
「何奴!!」
チッと舌打ちして振り返ると、黒髪の男が、冷たい表情でじっと
こちらを見据えていた。
「・・・私は、ロイ・マスタング。」
男の言葉に、【スカー】は、ピクリと反応する。
「ロイ・マスタング・・・・だと?【焔の錬金術師】か?」
【スカー】の問いかけに、ロイは頷くと、ゆっくりと二人に近づく。
「私にもその話を詳しく教えて頂こうか・・・・・・。」
ニヤリ。
口の端だけを上げて微笑むロイに、エドはゾクリと恐怖を覚え、
知らず自分の身体を自分で抱きしめた。