大佐の結婚生活シリーズ番外編

          大佐の新婚旅行

 

 

               プロローグ

 

 

               「まだ、拗ねているのかね?エディ?」
               折角二人きりだというのに、顔も合わせてくれないとは、
               とても悲しいよと、悲しげに呟くロイに、エドは
               それまでじっと窓の外を眺めていた顔をチラリと
               ロイに向ける。
               「やっと向いてくれたね。」
               途端、嬉しそうな顔のロイに、エドはボッと顔を赤らめる。
               「ロ・・ロイがいけないんだぞ!!俺を騙すから!!」
               プクリと可愛らしい頬を膨らませるエドを、そっと
               抱き寄せると、その耳元で囁いた。
               「済まなかった・・・・・。エディを驚かせようと思ってしたこと
               だったのだが、結果的にエディを泣かせてしまったね。」
               夫失格だと、項垂れるロイに、エドはオロオロとし始める。
               「べ・・・別に俺は怒ってるんじゃねーぞ!ただ、ロイに
               隠し事をされて、ちょっと拗ねてるだけだから・・・・・。」
               真っ赤な顔で俯くエドを、ロイは思い切り抱き締める。
               「エディ!!」
               「ちょっ!!ロイ、こんな昼間から・・・・・。」
               「大丈夫、誰も来ないよ。」
               ゆっくりと服を脱がすロイの手から逃れようとする
               エドを許さず、ロイはエドの唇を強引に奪う。
               「んっ・・・・・。はっ・・・・・。」
               だんだんと深くなる口付けに、エドは酔ったように
               トロンとした目をロイに向ける。
               「愛しているよ。エディ・・・・。」
               「ロイ・・・・・・。」
               ゆっくりとロイはエドを抱き上げると、そっとベットの上に
               下ろして覆い被さる。
               そして、再び唇を重ねようとして、それは起こった。
               キキキキーッッ
               急停車する列車に、ロイとエドの二人は、そのまま
               もつれ合うように、ベットから転がり落ちる。
               「うわぁあああ!!」
               「エディ。大丈夫か!!」
               頭をぶつけたのか、頭を抱えるエドに、ロイは心配げに
               抱き寄せた。
               「んー。へーき。それより、どうしたんだろう。」
               事故にしては、何処か異常な停車の仕方に、
               長年のカンから、嫌な予感がヒシヒシと感じる
               二人を肯定するかのように、放送が流れ出す。
               「この列車は、只今より、人民開放軍”黒き疾風”が
               占拠した。」
               「うへぇえええ。またこのパターンかぁ!?」
               あまりにもお約束な展開に、エドはウンザリと顔を
               顰めた。
               「”黒き疾風”?ホークアイ大尉に知れたら、全員
               蜂の巣にされるな。」
               ホークアイ大尉の愛犬の名前は”ブラックハヤテ号”という。
               (略してブラハ)テロ組織が愛犬と同じ名前だと知れると、
               真っ先にホークアイが飛んできて、全員を射殺する
               事は、火を見るより明らかだ。ついでにアルフォンスも
               やってくるかもしれない。そう考えて、ロイは
               折角の二人だけの時間を邪魔されてなるものかと、
               立ち上がる。
               「ロイ?どこへ?」
               キョトンとするエドに、ロイは微笑みかける。
               「ん?彼らを捕獲しなければな。」
               「はぁ〜。やっぱな・・・・。仕方ない。急ごう。」
               立ち上がるエドを、ロイは慌てて止める。
               「エディは危ないから、ここで待っていなさい。」
               「冗談。俺の方が経験豊富だぜ。」
               一緒に行く気満々のエドに、ロイは頑として首を
               縦に振らない。
               「それは、機械鎧だったからだろ?今の君は
               生身なんだ。この君の美しい肌が傷ついたらと
               思うと・・・・・・。」
               エドを抱き締めるロイに、エドは苦笑する。
               「それを言うなら俺だって。もしもロイが怪我でも
               したら・・・・・。」
               俺、すごく悲しいよ。と呟くエドに、ロイは感極まって
               エドを抱き締める腕を強める。
               「エディ!!」
               「ロイ!!」
               そんな二人のラブラブな空間に、けたたましい音を立てて
               踏み込んだ、無粋極まりない男達がいた。
               テロ組織”黒き疾風”の面々である。
               「チッ。下がりたまえ!!」
               折角の甘い時間を邪魔されて、ロイは怒りをぶつけるべく、
               男達に向けて、何時の間に装着したのか、発火布で作られた
               手袋を翳し、パチンと指を鳴らす。
               「うわああああああああ!!」
               吹き飛ばされる集団に、止めとばかりにエドは両手を合わせると、
               床から突起物を出す。
               突起物に跳ね飛ばされ、男達は団子状態で、空の彼方へと
               消えていく。
               「おい!どうした!!」
               その騒ぎを聞きつけ、彼らの仲間がわらわらと集まってくる。
               「仕方ない。行くぞ。エディ。」
               「了解!ロイ!!」
               二人はニヤリと笑い合うと、戦闘を開始すべく、一歩前に
               踏み出した。