「なんか、目茶目茶あっけなかったと思わねぇ?」
手加減すれば良かったかも?と言う新妻エドワードに、
夫のロイは苦笑する。
「そうかな?エディとの大切な時間を潰されたんだ。
それ相当の代価を支払っただけだよ。」
実際、エドが戦う前に、ロイの指パッチン一つで
解決したのだ。折角暴れられると、内心喜んでいただけに、
エドはかなり不満顔だ。
「最近、身体が鈍ってる気がしてさぁ、折角解消出来ると
思っていたのに・・・・・・。」
プクッと頬を膨らませるエドに、ロイはおやおやと肩を
竦ませた。
「おや?それは失礼したね。毎晩可愛がっている
つもりだったのだが・・・・・そんなに欲求不満になっていた
とは・・・・・・。」
今晩から、念入りに可愛がってあげようと、黒い笑みを
浮かべるロイに、エドの顔が青くなる。
「いや!その・・・これは、言葉のあやってやつで・・・・。」
身の危険を感じて、エドは後ろに下がろうとしたのだが、
それより前に、ロイによって引き寄せられる。
「・・・・あの・・・・・。」
二人ラブラブ空間に、遠慮がちに声をかける者がいた。
車掌である。今後の処理について、ロイの指示を仰ぐ
必要があるので、声をかけたのだが、エドとのイチャつきを
邪魔にされたロイにとっては、害虫でしかない。
不機嫌そうな顔に、車掌は己の不運を呪った。
”に・・・・睨まないで下さいよ〜。これも業務なんですから〜。”
半泣き状態で、車掌は気丈にもロイに指示を仰ぐ。
「これから、中央司令部に連絡を・・・・・。」
「それはいかん!!」
車掌の言葉を遮って、ロイは声を荒げる。
「ロイ?」
いきなりのロイの豹変に、エドはキョトンとなる。
「あと一時間くらいで、南方司令部の管轄だ。
私達が駅を降りた後で、南方司令部へ連絡しろ。
いいな!」
くれぐれも、私達の事は、軍には内密にと、念を押す
ロイに、エドは首を傾げる。
「どうして?早く連絡して引き取ってもらった方がいいじゃん?」
「エディ。そうなれば、旅行は中止になってしまうんだよ?」
それでもいいのかい?と悲しそうなロイに、エドは目を丸くする。
「中止!?何で!?」
ロイは、そっとエドを抱き締める。
「君も知っているだろ?トレインジャックの事後処理の面倒さを。」
そう言われて、エドは納得する。
事情聴取と言われ、何時間も軍に足止めされた辛さを、エドは
嫌ってほど身に染みて分かっている。ましてや、ロイは中央司令部の
上層部だ。管轄地でトレインジャックが起こったとなると、
休日返上で、事後処理に当たらなければならないだろう。
騙されて連れて来られたとはいえ、初めてのロイとの旅行に、
エドは内心ワクワクしていたのだった。それを、こんなつまらない
事件で、潰されるのは、絶対に嫌だ。
「わかった。俺達は何も見なかったし、何もしなかった。
俺達が列車を降りた後に、事件が発生して、勇敢な車掌さんが
犯人を取り押さえた。・・・・・これでOK?」
「いい子だ。エディ。」
上目遣いで見るエドに、ロイは微笑むと柔らかな頬に、軽くキスを
する。
「・・・・・という訳だ。わかったな?」
鋭い眼差しで車掌を睨むロイの横では、ごめんね〜と、すまなそうな
エドがペコリと頭を下げる。
”そんなぁ〜。無茶なことを言わないで下さいよ〜。”
だが、二人の圧力に屈した車掌は、ロイの言うとおりにするしか
ない己を思いっきり呪った。
その後、話の食い違いで、長い間南方司令部に拘束される運命に
ある事を、この時はまだ知らない車掌だった。
「ここ・・・・?」
中央と南部の境に位置する町、ホトトギス。
どう見ても平凡な町並みに、エドはキョトンとなる。
「ああ。そうだよ。エディ。」
対するロイは、ニコニコと嬉しそうにエドを引き寄せる。
「俺、ここ初めてなんだけど、何か有名なの?」
もの珍しそうな顔で、キョロキョロと辺りを見回す。
だが、やはり平凡な町並みが広がり、観光客も自分達くらい
しか、いないような気がする。
「それは、後のお楽しみだ。」
さあ、行こうかロイはエドを促す。
「後って、いつ?」
早く教えろ〜と、喚くエドに、ロイは苦笑する。
「明日は、年に一度のお祭りなんだよ。」
「祭り?」
それにしては、特別祭りの用意とかしていない気がする。
「本当に明日、祭りなのか?」
困惑気味なエドに、ロイはにっこりと微笑む。
「それは、明日になれば分かるさ。」
「ロイがそう言うのなら・・・・・。」
まだ完全には納得いかないが、ロイの言う事に、
エドは素直に頷く。
「エディ、今夜は前夜祭だからね。」
眠らせないよと、耳元で囁くロイに、エドは真っ赤に
なる。
「なっ!!そんなの関係・・・・・。」
「あるんだよ。エディ。」
エドの言葉を遮ると、ロイは嬉々としてエドを抱き上げる。
「ちょっ!!ロイ!!」
往来の真ん中で、いきなりお姫様抱っこをされて、
真っ赤になるエドとは対照的に、ロイはあくまでも
平然としており、余裕の笑みまで浮かべる始末。
そんな二人に、町の人たちが声をかける。
「おや、お熱いねー。明日は祭りだ。ご利益あるぜ〜。」
「お幸せに〜。」
などなど、冷やかしではなく、心からのお祝いをされて、
エドは吃驚して、ロイを見上げる。
「ロイ〜。」
これってどういうこと?
首を傾げるエドにロイはそっと口付ける。
「明日は、恋人達の祭りなんだよ。」
「?バレンタインデーみたいなもん?」
俺、何も用意してないんだけど・・・・。
途端、しゅんとなるエドに、ロイは宥めるように
唇を合わせる。
「用意するものは一つだけだよ。」
「何?」
今からでも間に合う?と首を傾げるエドに、ロイは
にっこりと微笑む。
「エディは既に持っているよ。」
「えっ!?着の身着のままできたのに?」
ますます訳が分からないというエドの耳元で囁く。
「祭りに必要なものは、ただ一つ。
・・・・・最愛の人だけだ。」
途端、エドの顔がこれ以上にないくらいに、真っ赤になる。
「さぁ、そろそろ行こう。」
真っ赤な顔で大人しくなったエドを、ロイはこれ以上ないほど
幸せな笑みを浮かべながら、ホテルの方へと歩いていった。