「はぁああああああ。」
中央司令部のロイの執務室。
ロイ不在の今、急遽、エドワード親衛隊本部と化していた。
ロイの席に座り、朝から溜息をついているのは、
エドワード親衛隊隊長、アルフォンス・エルリック。
回転椅子をクルクル回しては、手持ちぶたさに、ホークアイ達の
仕事を眺めている。
「アルフォンス隊長、どうかしましたか?」
沈んだ顔のアルフォンスに気づいて声をかけたのは、
エドワード親衛隊中央(セントラル)支部長こと、リザ・ホークアイ。
ロイに出し抜かれた恨みに、旅行から帰ってきたロイに
させる大量の書類作成を、嬉々としてやっていたのだった。
「顔色も悪いが、大丈夫かね?」
ちなみに、ホークアイの隣では、親衛隊ヒラ隊員である、
大総統、キング・ブラットレイが、自分の雑用もついでに
ロイにさせようと、ホークアイの作成している書類に、
ちゃっかり自分の仕事分を紛れ込ませている。
「今頃、兄さんどうしているかなと思って・・・・。」
はぁああああ。と、再び溜息をつくアルに、丁度所用で
部屋を留守にしていたハボックが、一枚の手紙を持って
戻ってきた。
「隊長〜。大将から手紙です。」
その言葉に、アルはガタンと椅子から立ち上がると、瞬間移動か!?
とも言える速さでハボックの傍に寄ると、手紙を引っ手繰る。
「兄さん〜。」
スリスリと手紙に頬擦りするアルに、ハボックは苦笑する。
”こりゃ〜重症だなぁ。”
「隊長、エドワード君はなんと?」
手紙の内容を早く知りたいホークアイは、アルをせっつく。
「えっと〜。『親愛なるアルフォンスへ。元気か?いきなり
旅行に行ってしまってごめんな。ロイから聞いたけど、
お前が旅行を勧めてくれたんだってな。ありがとう・・・・・』
ってええええええ!!!」
アルの絶叫が執務室に木霊する。
「そんな訳ないじゃないか、兄さん〜。」
エグエグと泣き出すアルに、ホークアイは優しく肩を抱き締める。
「准将にしてやられましたね。ブレタ中尉、ファルマン少尉、
各部署へ通達。雑用を全てここへ持ってくるように!!」
「「イエッサー!!」」
大事なアルフォンスを泣かせた罪は重い。ホークアイは、
ロイに回す仕事を更に増やす為、各部署から雑用を持ってくる
ように命じる。
「隊長、それであとは何と?」
何とか落ち着いたアルに、手紙の続きを促す。
「『一ヶ月も休みを取らせる為に、ホークアイ大尉を始め、
みんながロイの仕事を肩代わりしてくれているなんて、
本当にみんな、親切な人達ばかりで、俺はすごく嬉しい・・・。』」
「准将の仕事を肩代わり・・・・・・・。」
勝手に休みを取っただけでは飽き足らず、自分達に仕事を
押し付けようとしたのかと、ホークアイの静かな怒りが
部屋を満たしていく。その中で、アルフォンスの手紙を読み
声が続けられる。
「『でも、みんなにそこまでしてもらうのに、俺は何も返せない。』
あぁ、なんて兄さんは謙虚なんだろう・・・。流石ボクの兄さん・・・。」
うっとりとアルは溜息をつく。
「えっと・・・『それでは等価交換の原則に反する。何かないかと
悩んでいたら、ロイが・・・・・・・。』」
「アルフォンス君・・・?」
最初は声に出して手紙を読んでいたアルだったが、あるところまでくると、
目だけで読み進めていき、だんだんとその表情が険しくなる。そんな
アルを心配したホークアイは声をかけるが、アルは全てを読み終えると、
無言で手紙をホークアイに渡す。ホークアイは、続きを読み上げる。
「『何かないかと悩んでいたら、ロイが自分達が幸せになることが、
最大の等価交換だと言ったんだ。そうか。そうだよな。みんな、
俺達の幸せの為に力を貸してくれたのだから、俺とロイが
幸せにならなくっちゃな!でも、今以上に幸せって、どうすれば
いいんだろう?そしたら、ロイはみんながいつでも私達の
幸せを確認できるように、いついかなる所でも、惜しみない
愛をエディに与えるよって、言い出して俺はすごく恥ずかしくなった。』」
その言葉に、ハボックがウゲッと顔を引きつらせる。
「まだ俺達に見せ付ける気ですか、准将は!!」
もうこれ以上は胸焼けを起こします。勘弁して下さい〜と、
ハボックは涙目になる。
「・・・・・全く、准将は私達をだしに、よくもまぁ、抜け抜けと・・・・。」
ホークアイの身体から、黒いオーラが漂う。
「『でも、等価交換だから、俺も頑張ってロイが好きだって気持ちを、
いつでもみんなに見てもらって安心してもらう!!頑張るよ。
俺は!!』ですって!!いけないわ!これは!!」
手紙を破かんばかりに、興奮したホークアイは、ガサゴソと
自分の机の中からレターセットを取り出すと、アルフォンスに、
渡す。
「さあ、アルフォンス君、早く返事を書いて、准将の野望を
阻止しましょう!!」
鬼気迫るホークアイに、アルも無言で頷く。
「わかりました。兄さんの行動を止めなくては!!」
エドワード親衛隊幹部は、お互い頷き合うと、いかに効果的に
准将の暴走を止めようかと、密談をしながら返事を書き始める。
「やはり、エドワード君の笑顔だけが、一番の等価交換という
事を強調しなくてはね。」
「そうですね、ついでに准将のいう事を真に受けちゃ駄目だと
少し釘をさしておきましょうか。」
などと、黒い笑みを浮かべながら、アルとホークアイの共同
作業は続く。だが、二人は知らない。彼らの手紙がロイによって
握りつぶされる運命にあることを。
「なぁ、そろそろ手紙がアルのところに届いたかなぁ?」
アルとホークアイが手紙を作成している、丁度その頃、
列車の個室では、ロイとエドが甘い空間と作っていた。先程から
エドは、ロイの膝の上に乗りながら、食後のデザートのメロンを
口一杯に頬張っていた。
「これ、おいしいよ?ロイも食べる?」
はい、あーんと食べさせようとしているエドの手をやんわりと
押し留めると、ロイは微笑みながらエドの顎を捉え、
深く口付ける。
「・・・んっ・・・・はぁ・・・・・。」
器用に舌を使って、ロイはエドの口から直接メロンの欠片を
取り出すと、租借する。
「美味しいよ。エディ・・・・。」
「や・・ん・・・・・。」
耳元で囁かれ、エドは擽ったそうに身を捩る。
「愛しているよ。エディ・・・・。」
再び唇を重ねあわせるロイに、エドは幸せそうに微笑むと、
ギュッとロイの首に腕を回した。
FIN
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相変わらずの馬鹿っぷる。
それに振り回されるエドワード親衛隊のお話。