「分かった。それが君の答えなのだね。」
冷たい表情でじっと自分を見つめるロイに、
エドは瞬間身を竦ませる。
「・・・・・勝手にしたまえ。」
くるりと自分に背を向けるロイに、エドは
ヒャックリを上げながら、ロイの名前を呼ぶ。
「・・・ひっく。ロ・・・ロイ〜。」
トタトタと駆け寄って、エドはロイの背中に抱きつく。
「嫌だ〜。ヒック。ロイ〜。行っちゃ嫌だ〜。」
ますますきつくロイの背中にしがみ付くエドに、
ロイは苦笑すると、自分に回されているエドの
腕を少し緩めると、軽くターンをして、
正面からエドを腕の中に閉じ込める。
「全く・・・・。泣くほどの事なのかい?」
「だって・・・だって・・・ロイが俺を置いて行っちゃおうと
するんだもん!!」
涙で濡れる瞳でエドはロイの顔を見上げる。
「置いていかないよ。置いていくわけないじゃないか。
私の愛しいエディを・・・・・。」
「ひっく・・・ひっく・・・・本当・・・・に・・・?」
不安そうな顔のエドに、ロイは安心させるように、
にっこりと微笑むと、エドの頬に軽くキスを贈る。
「あぁ。離れろと言われても、絶対に離さないよ。
エディ・・・・・。」
「ロイ・・・・・・。」
カフェでの一角。先程から、延々とイチャつく馬鹿ップルに、
最初のうちは固まったように、目が釘付けになっていた
他の客及び店の店員だったが、やがて、フッと視線を
一斉に反らせると、心の中で思わず同時に呟いた。
”この、馬鹿ップル・・・・・。”
「泣き止んだかね?エディ。」
ロイに顔を覗き込まれ、エドは真っ赤になって頷く。
「さ、席につこうか。何時までも立ったままでは、
他の客に迷惑だ。」
そう言って、ロイは再びエドを席までエスコートする。
”いや!あんたらのイチャつきのほうが、
大迷惑なんだが・・・・・。”
その場にいた全員が心の中でツッコミを入れる。
「あの・・・でも・・・ロイ・・・・・。」
エドは困惑気に、ロイを上目遣いで見る。
「駄目だよ。エディ。全て君の為なんだ。」
苦笑しながらも、ロイは決して首を縦には振らない。
「でも〜。今度。今度必ず!!」
駄目?と可愛らしくおねだりをするエドに、瞬間ロイは
その場で押し倒したくなったが、一応昼間で他人の目が
あることが、なけなしの理性をどうにか保つ。
「この前も、そう言っていたね?」
にっこりと微笑む。
「でも・・・俺、どうしても嫌なんだよ・・・・・。」
しゅんとなるエドに、ロイは苦笑する。
「私が頼んでもかい?」
「ウッ・・・・!!」
悲しそうなロイの顔に、エドは言葉を失う。
「ごめん・・・・。ごめん、ロイ。ただの我侭だって
分かっている。でも!俺!!」
じんわりと涙を溢れさせるエドに、ロイは溜息をつく。
「そんなに・・・嫌なのかね?
牛乳を飲むのが・・・・・・。」
「牛から分泌された
白濁色の汁なんて、
飲めるか〜!!」
ロイの一言に、エドの絶叫が店内を駆け巡る。
えぐえぐと、本格的に泣き出すエドに、ロイはどうしたら
良いかと、思案気に目を伏せる。
「では、これならどうだ?」
「ロイ・・・・?」
溢れ出る涙を拭いながら、エドがロイを見ていると、
ロイは近くにいた店員に、追加注文を頼むと、
エドの目の前にある、エドの天敵である牛乳を、
ひょいっと引き寄せて、一気に3分の2ほど美味しそうに
飲み干す。
「お待たせしました。オレンジジュースです。」
店員が恐る恐るエドの方へオレンジジュースを
置こうとしたところ、ロイは自分の方だと言う。
「ロイ?何なの?」
いつもはコーヒーか紅茶しか飲まないロイが、
オレンジジュースを追加注文をした事に、
エドはあんぐりと目を見開く。
「まぁ、出来てからのお楽しみだな。」
唖然としているエドに、ロイはクスクス笑いながら、
テーブルに備え付けてある砂糖に手を伸ばす。
「本当は、上白糖がいいんだが・・・・・。」
ロイはグラニュー糖を、3分の1に減った牛乳の中に入れる。
「ちょ!ロイ!!」
驚くエドに、ロイは笑うだけで、手は止まろうとしない。
ロイは砂糖入りの牛乳に、あろうことか、オレンジジュースを
3分の2ほど入れると、ストローでかき混ぜる。
「さっ、エディ。飲んでごらん。」
「これを・・・・?」
一体どんな味がするのだろうかと、エドは嫌そうに顔を顰める。
「私を信じて、一口だけ飲んでごらん?」
ニコニコと笑うロイに、エドは恐る恐る一口飲み込む。
「どうだね?」
固まるエドに、ロイはにっこりと微笑む。
「・・・おいしい・・・・・。おいしい!これ!!」
途端、目をキラキラさせるエドに、ロイは幸せそうに微笑む。
「私もね、小さい時は牛乳が全く飲めなかったんだよ。」
「ロイも!?」
初めて知る意外な事実に、エドは驚きに目を瞠る。
「全く牛乳を飲もうとしない私に対する、母の苦肉の策だったんだ。」
「お義母さんの?」
エドの脳裏に、優しいロイの母親の顔が浮かび上がる。
「あぁ。最初私は牛乳が入っているのを、全く分からなくて、
それこそ、毎日のように飲んでいたよ。」
「へぇえ〜。ロイって、意外に抜けてるな。」
クスクス笑うエドに、ロイも釣られて苦笑する。
「仕方あるまい。最初は、牛乳1に対してオレンジジュース2の
割合から始まって、徐々に牛乳の割合を増やしていった
のだからな。ましてや、小さい子供のこと、分かるわけが
ないだろう?それに、割合が逆転する頃には、もう牛乳を
単独で飲めるようになったぞ。」
だから、エドも徐々に頑張ろうというロイの言葉に、
エドは嬉しそうに笑う。
「また作ってよ。ロイ。」
「あぁ、勿論だよ。エディ。」
ロイは立ち上がると、テーブル越しに、エドの顎を捉え、
深く口唇を重ね合わせる。
「愛しているよ。エディ。」
「愛している。ロイ・・・・・。」
そして、再び唇を重ねる。
その日のキスは、オレンジの味がした。
FIN
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今日の一言
公共の場でイチャつくのは、
止めましょう。
全く、旅先でも馬鹿ップルは留まる所を知りません。
旅の恥はかき捨てを、地でいっています。
さて、今回の牛乳とオレンジミックスは、上杉の子供の頃の
定番おやつでした。小さい頃、牛乳が全く飲めなかったにも
関わらず、背が人並みくらいだという事は、背と牛乳は
関係ないんだと思っていたのですが、結構後になって母から
実は小さい頃毎日飲んでいたジュースには、牛乳が
入っていたという、衝撃の事実を聞きまして、驚いた事を
覚えています。
ちなみに、最近になって母は未だに牛乳が飲めないという
事実に気づきました。しかも、母は背が低いです。
やっぱ、牛乳って偉大だ。
【上杉の30秒クッキング】
牛乳オレンジの作り方です。是非試してください。
牛乳嫌いな子でも、一発OK!経験者は語ります。
牛乳1に対して、オレンジジュースを2の割合でよくかき混ぜます。
出来れば、オレンジジュースは、果汁100%の方が美味しいです。
(ポ○ジュースがお勧め。)あとは、砂糖をお好みで。
グラニュー糖は試したことないです。うちはいつも上白糖を使って
ましたから。果汁100%に近ければ近いほど、砂糖を多めに入れると
良いでしょう。これは、好みなので、ちょっとづつ砂糖を入れて、
自分好みの甘さにして下さい。
後は飲むだけ。簡単でしょう?