「・・・・・・で?何か申し開きはあるか?エディ?」
自分を見下ろす、冷たい表情と冷たい声のロイを前に、エドワードは一瞬、
ビクリと肩を震わせたが、俯いていた顔を毅然と上げ、キッパリと言い放った。
「ない!!」
「エドワードちゃん!!」
緊迫した空気の中、事の成り行きを内心ハラハラと伺っていたホークアイは、
慌ててエドに駆け寄ろうとするが、その間をロイが立ち塞がる。
邪魔されてムッとするホークアイを無視すると、ロイは目の前のエドワードを
睨みつけながら、ため息をつく。
「エディ・・・・・・君には学習能力がないのか?」
「学習能力?アンタ、何言ってんだよ。全然関係ないだろ?」
ムーッと頬を膨らませるエドを、ロイは思いっきり抱きしめる。
「何故だ!何故私を頼ってくれない!!私だけを頼ると、約束してくれたでは
ないか!!それなのに!!大総統の視察についていくなど・・・・そんなに旅行に
行きたいのならば、言ってくれれば、いくらでも旅行に連れて行ってやるぞ!!」
「何馬鹿な事言ってんだ!軍の命令なんだから、仕方ねぇだろうが!!」
バコーンとエドはロイの頭を叩く。
「その通りです。准将。エドワードちゃんに何の落ち度も見当たりません。
おかしな難癖をつける前に、ご自分の仕事にお戻りを。第一、旅行できるほど、
纏まった休暇が取れる訳ないでしょう!」
ホークアイまでも、殴られてもエドを放さないロイの後頭部に、グリグリと銃を
押し付けながら、冷たい視線を向ける。
いつもならホークアイに銃を向けられただけで、すごすごと大人しく執務に
戻るのだが、エドしか目に入っていないロイは、興奮状態のまま、エドに
詰め寄る。
「軍命だと!?どういうことだ?!エディは私の妻!准将夫人が、何故、
大総統の我儘に付き合わねばならんのだ!」
「・・・・だって、俺・・・・。」
途端、エドの視線がキョロキョロと彷徨い始める。
「・・・・エディ?一体君は何を隠しているんだね?」
私達は夫婦だろう?と少しスネ気味に、ロイはエドを見つめる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・国家錬金術師資格をまだ返上してない。」
テヘッと笑うエドの可愛さに、一瞬ロイは鼻の下が10センチは伸びた状態となったが、
言われた言葉の意味に、スッと目を細める。
「エディ・・・・。結婚と同時に資格を返上すると言ったね?」
「そ・・・・そんな事言った事もあったか・・・も・・・?」
コテンと小首を傾げるエドの可愛らしさに、ロイの元々ない理性が暴走しそうになるも、
内容が内容なだけに、はぁあああああああと深いため息をついて気分を落ち着かせると、
エドの手を取って、自分の執務机へと、ツカツカ歩いていく。
「ロイ?どうしたんだ?」
自分の手を握ってまま、無言で机を漁るロイに、エドは恐る恐る声を掛けるが、
ロイはエドの言葉に答えずに、やがて机の奥底から一枚の紙を取り出すと、
エドの目の前に置く。
「これにサインしたまえ。」
一緒に万年筆も渡され、エドは不審そうな顔で紙を覗き込むと、さっと顔を強張らせた。
「な・・なんだよ・・・。これ・・・・。」
ブルブルと震えるエドに、ロイは冷たい目を向ける。
「君には失望したよ。最初からこうすれば良かったんだ。」
ロイの言葉に、部屋の中にいたホークアイ以下ロイの古参の部下たちが、お互いの
顔を見合わせた。
「おい!?」
「・・・・ま・・・まさか!?」
「離婚届け・・・・・!?」
ありえないことはありえない・・・・そんな言葉が脳裏に浮かぶも、まさかという思いと共に、
再びハボック達の視線がエド達に向かうのと、エドが差し出された紙をビリビリに破るのは
同時だった。
「エディ!!」
「これにサインしたら、ロイの傍には・・・俺は・・・俺は・・・絶対に
サインなんてしないから!!!」
「待って!!エドワードちゃん!!」
うわあああああああんと泣きながら部屋を飛び出すエドに、慌ててホークアイが続く。
「・・・・准将・・・。」
後に残されたハボック達は、非難の意味を含めた目をロイに向けるが、それ以上に不機嫌な
ロイの視線を受けて、思わず固まる。
「・・・・・門を閉鎖しろ。誰一人外へ出すな。それから、中央司令部全軍をもって、エドワードを
捕獲し、私の前に連れて来い。・・・・・命令だ。」
地を這うようなロイの声に、ハボック達は震え上がる。息を呑むハボック達に、ロイのイライラと
した罵声が向けられた。
「グズグズするな!消し炭になりたいか!!」
「「「「イ・・・・イエッサー!!」」」」
慌てて敬礼すると、ハボック達は各部署に通達する為、方々に散って行った。
「エディ・・・・・。絶対にサインしてもらうからな・・・・。」
机の上には、先ほどエドがビリビリに破いた紙片がいくつか残っていた。
その中にある【離】という文字が辛うじて読める紙片を、ロイは力いっぱい握り潰すと、
クルリと身体の向きを変え、窓の外を見ながら、ロイはフフフフ・・・・と不気味に笑うのだった。
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あ・・・甘々はどこに・・・・?