「うわあああああああ!!溺れる!溺れる!!」
【真理の森の管理人】は、羽をバタつかせながら
大騒ぎする。人間体ならば、泳げるのに、今の自分は
インコ。ああ、こんな事ならば、水鳥にでも変化して
おけば良かった・・・・・。いや、今からでも遅くないかも!と
漸くパニックから脱した【真理の森の管理人】は、
そこで、自分が全く濡れていない事と、異様なまでの
静けさに気づいて、恐る恐る辺りを見回す。
「時間を止めたのか。」
水に飲まれる寸前で、動きが止まっているのを見て、
安堵のため息を洩らす。だが、直ぐに誰が時間を止めたのか
気づき、慌てて鏡から元の【世界】へと戻ろうとするが、
鏡の向こう側にいる人物と眼があってしまい、固まってしまう。
癖の無い、黒い艶やかな長い髪に、黄金の瞳。
紅を刷いたように、紅い唇と対称的に、白雪のように
白い肌の女性。
100人居れば、100人美女と答えるであろう、その女性に、
【真理の森の管理人】は、嫌そうな顔を向ける。
「・・・・・何してるのかしら?【文曲】?」
金の瞳を細めて、クスクス笑う美女に、【真理の森の管理人】
ーーー【文曲】は、挙動不審に視線を彷徨わせながら、
何とか言い訳を考えようとするが、どうせ全部、知られているのだ。
だったら、開き直るしかないと、思い直した。
「よお!【破軍】!ありがとうな!お陰で助かったぜ!」
「流石に同僚が無様に溺れるのを見るのは、私も心苦しいもの。」
にっこりと微笑む姿は、聖女そのもの。
しかし、【文曲】は知っている。
この女は自分の遊びの為には、非情になることを。
どんな無理難題を吹っかけられるか分かったものではない。
何とか誤魔化せないかと、【文曲】が考え込んでいると、【破軍】は、
ふと無表情で【文曲】を見据える。
「桜。」
いきなり何を言い出すのかと、【文曲】が唖然となっていると、
【破軍】は、言葉を続ける。
「白。」
「おい?【破軍】?」
「シルバー。」
「おーい。【破軍】さーん?どーしたー?」
「シナモン。」
「おい!【破軍】!!何だって言うんだよ!」
無表情で、桜だの白だのシルバーだのシナモンだの言われても、
【文曲】には、何が何だか分からない。憤慨する【文曲】に、
【破軍】は一言告げる。
「選んで。」
「何を選べって?」
どうしてこの女は、極端に言葉を省略するんだろう。
それが重要であればあるほど、この女は言葉を惜しむ癖がある。
それによって、相手が誤解しても、誤解した方が悪いと一刀両断に
するほど、性格がひん曲がっている。
”さて、どう答えたらいいか・・・・。”
悩んでも四択しかないのだから、悩みだけ無駄なのかもしれない。
しかし、せめてそれが何なのか知っていれば、一番被害が少ないのを
選択できるのに。
【文曲】は、恨みがましそうな眼を【破軍】に向ける。そんな【文曲】に、
【破軍】は、妖艶に微笑む。
「簡単なことでしょ?桜と白とシルバーとシナモン。どれでも好きな
物を選べばいいのよ。」
早く選びなさい。時間が勿体無いわ!と腰に手を当てて急かす
【破軍】に、【文曲】は、ガックリと肩を落とす。
”一体、何だって言うんだ。桜?桜餅早食いでもさせる気か?
シルバーは何だ?老人の姿にでもなれと?シナモンは、
ニッキで・・・・日記でもつけさせる気なのか?俺、日記苦手だし。
となると、白?だが、白って一体何をやらされるんだ?”
うーわからん!とグルグル床に転げまわる【文曲】に、流石の
【破軍】もイライラしてきた。
「いいから!さっさと決めろ!!」
ガーッと吼える【破軍】に、【文曲】は、ヤケッパチで叫ぶ。
「それじゃあ、白だ!!」
叫んだ瞬間、【破軍】がニヤリと笑う。その表情に、【文曲】は、
己は大変な過ちをしたと直感した。
”なんだ!?白が一番の貧乏くじだったのか!?”
青褪める【文曲】とは対称的に、【破軍】はどこまでも明るい。
「うふふふ。では、この件が終了したら、【白文鳥】になって
貰うわね♪」
嬉々として言う【破軍】に、【文曲】は唖然となる。
「白文鳥・・・・?なんじゃそれは!!」
憤慨する【文曲】に、【破軍】は、それはそれは美しい笑顔を
向ける。
「だって、そろそろその姿も飽きてきた頃でしょ?」
「勝手に決めるな!俺は元の姿に戻るんだよ!」
バサバサと羽をバタつかせて、【文曲】は抗議するが、
【破軍】は、可笑しそうに笑うだけだ。
「さっき、助けてあげたでしょう?私に貸し一つあることを
忘れてもらっては困るわ。」
「だから、それと白文鳥とどう関係があるんだよ。」
ギロリと睨む【文曲】に、【破軍】は、肩を竦ませる。
「嫌だわ。自分で白文鳥になるって決めたのに。」
全く、【文曲】は我侭だわ!と唇を尖らせる【破軍】に、
【文曲】は、はぁ?と首を傾げる。
「桜は桜文鳥。白は白文鳥。シルバーはシルバー文鳥。
シナモンはシナモン文鳥。あなたは選んだわよね。
白を。」
ふふん!と勝ち誇る笑みを浮かべる【破軍】に、
【文曲】は、脱力する。
「どれを選んでも、文鳥かよ・・・・・。」
「だって、もう直ぐ10月24日ですもの♪【天枢】様も
それはそれは楽しみにしているのよ。」
【破軍】の言葉に、【文曲】はギョッとなる。
今、聞いてはいけない名前が出てきたような気がしたのだ。
「【天枢】様だって?うちのトップの?」
恐る恐る訊ねる【文曲】に、【破軍】は大きく頷く。
「それ以外に誰がいるっていうのよ。ちなみに、今回の事は、
【天枢】様が言い出された事よ。【文曲】の次の姿は文鳥に
するようにとね。」
本当は命令にしてもいいんだけど、それだと面白くないし〜と
笑う【破軍】に、一瞬殺意を覚える【文曲】だった。
「仕組まれたことってやつか?」
「まぁ、人聞きの悪い。私の罰ゲームにすれば、角が立たないでしょ?」
ニコニコと笑う【破軍】に、【文曲】は内心ため息をつく。
角が立つ云々より、ただ単に面白そうだと思っただけだろうと、
内心ツッコミを入れる。
「で?どうして文鳥なんだよ。」
こんなに手の込んだ事をしなくてもと、言外に含ませると、【破軍】は、
ニッコリと笑う。
「10月24日は、【文鳥の日】だからよ♪」
バッターンと【文曲】は後ろに引っくり返る。
「それだけの事でかーっ!!」
叫ぶ【文曲】に、【破軍】はニヤリと笑う。
「【天枢】様がどうしてもパーティを開きたいんですって。」
なんせ、娯楽が少ないしね〜。とケラケラ笑う【破軍】に、【文曲】は、
グッタリと肩を落とす。
「人を玩具にするなよ・・・・。」
「【文曲】と【文鳥】似たようなものじゃない。」
似てねーと騒ぐ【文曲】に、【破軍】は、スッと真顔になる。
「とまぁ、お楽しみはこれくらいにして、この件、どう収集するつもり?」
腕を組む【破軍】に、【文曲】は、不敵な笑みを浮かべる。
「勿論、ヤツを封印してだな!」
「そう、すんなりいくかしら?【ロイ】・マスタングの暴走も止めなければ
ならないのよ?」
全く、あの馬鹿ップルには、苦労するわねとため息をつく【破軍】に、
【文曲】も、全くだと大きく頷く。
「とりあえず、あなた達を安全な場所へ転送してあげるわ。」
「すまねぇ。出来れば、ウォルターの側にしてくれ。鋼姫、もとい、
エドワード姫が浚われたんだ。」
早く助けないとと言う【文曲】に、【破軍】は、一瞬辛そうな顔をする。
「・・・・エドワード・・・・・・。」
ギュッと唇を噛み締める【破軍】に、【文曲】は、言い辛そうに
訊ねる。
「そっちの件はどうなった?アイツ・・・エドワードは・・・・。」
「【文曲】。人のことより、自分の事を心配しなさい。うまく処理
しないと、罰ゲームはドンドン増えていくわよ。」
【破軍】は、【文曲】の言葉を遮ると、パンと両手を打ち鳴らす。
次の瞬間、【文曲】を始め、動きを止めたままのロイとイズミと
ハボック達は、光に包まれ、その姿を消す。それと同時に、
部屋に水が襲い掛かった。
「・・・・・どの【世界】でも、二人には【幸せ】になってほしい。
それだけなのにね。」
水に沈んでいく部屋を、鏡を通して見ていた【破軍】は、ゆっくりと
踵を返す。そして、二度と振り返らなかった。
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10月24日は、「文鳥の日」〜!!
文鳥大好き〜!!
今回のお話は、夏コミ発行の『Central dogma 〜Forever Love〜』を
購入された方しか分からない話です。ごめんなさい。
ぶっちゃけて言いますと、
全部【世界】はリンクしていて、それらを管理、或いは監視しているのが、
【文曲】達なんですという設定なんです。
分かりづらいですね。こういうことは、他のシリーズでも、
度々起こりますので、ご了承下さい。