「う・・・嘘だ・・・・・。嘘だ!!」
ロイは狂ったように、エドの身体を抱きしめたまま、
叫んだ。
「エド!エド!目を開けてくれ!!」
エドの身体を揺さぶるロイに、マルコーは、慌てて
ロイの身体を羽交い絞めする。
「お諦め下さい!陛下!!」
耳元で怒鳴られ、ロイはまるで糸の切れた人形のように、
エドを抱きしめたまま、ゆっくりと床に崩れ落ちる。
「何故だ・・・・。何故、こんな事になった・・・・・・。
私はまだ君に想いを伝えていないのに・・・・・。
全ては、これからなのに・・・・・。」
エドの乱れた前髪を直しながら、ロイは空ろな目で
じっとエドの顔を見つめる。
「エドが・・・【鋼姫】だと・・・・?」
ロイの瞳から涙が溢れ出す。
「私はこんな事、望んでなどいなかった・・・・・。」
”中にはいるんですよ。こんな事を望んではいなかったって。”
ふと脳裏に、鋼姫暗殺を命じた時の、ハボックの声が
蘇る。途端、ロイの中でハボックに対する言いようもない
怒りが込み上げてきた。
「・・・・・・・ホークアイ副隊長。何をしている?」
今だ惚けたような顔で、立ち尽くすホークアイに、ロイは
感情の篭らない目を向ける。
「ジャン・ハボックを探し出せと命じたはずだ。」
「・・・・陛下。これは何かの間違い・・・・・。」
青褪めたホークアイに、ロイは発火布を翳すと、足元に
小さな爆発を起こす。
「何かの間違いで、私のエドが死ぬのか・・・?」
ロイはエドを抱きしめたまま、ユラリと立ち上がる。
「急げ!全ての街道に検問所を設け、ハボックを
逃がすな。草の根を分けても探し出せ!!」
ロイの本気の怒りに、ホークアイはビクリと身体を震わせると、
涙を振り切るように、駆け出した。
「・・・・エド・・・・。エディ・・・・・・・。」
ロイはエドを抱き上げると、ゆっくりと部屋を出て行く。
「陛下!どちらへ!!」
その後を、慌ててマルコーが追いかける。
「・・・・・お願いだ。2人だけにしてくれ・・・・・。」
ロイは、自分を追いかけてくるマルコーに、そう呟くと、
ゆっくりと歩き出した。
「陛下・・・・・・。」
全てを拒絶しているロイの後姿に何も言えず、マルコーは、
俯いたまま、立ち尽くした。
ロイは、エドを自分の執務室へ運ぶと、長椅子に腰を降ろし、
エドを自分の膝の上に乗せる。
「エディ・・・。」
優しくエドの前髪を直すが、エドの瞳が開く事はない。
だんだんと冷たくなっていくエドの身体に、体温を分け与えようと
しているかのように、ロイはエドの身体をきつく抱きしめた。
「気づくのが遅すぎた。もっと早く自分の想いに気づいて
いたならば・・・・・。今頃、君は私の側で、笑ってくれていたかい?」
ロイは、エドの顔中に、キスの雨を降らしながら、エドの
顔を見つめる。
「もしも、物語ならば、君にキスをしたら、目が醒めるのに・・・。」
ロイは、ゆっくりとエドの唇を己の唇に重ね合わせる。
「・・・・エディ。愛している。」
ロイは、エドに再び口付ける。
「君は【鋼姫】なのだろう?何故【力】を使わなかった?」
ロイはエドの身体を抱きしめながら、優しくエドの髪を
撫でる。
「それとも、【鋼姫】の【力】は、物語だけの話なのか・・・?」
それなのに、自分はそんな御伽噺に踊らされて、最愛の人を
失ったのか?
ロイは己の失態に、唇を噛み締める。
「エディ・・・・私はどうしてこんなに愚かなのだろう。
君を傷つけてばかりだ・・・・・。」
涙を流しながら、息を引き取った時の、エドの悲痛な顔を
思い出し、ロイはエドの頬に、己の頬を摺り寄せる。
「許してくれ・・・・・。」
ロイは胸ポケットから、指輪を取り出すと、エドの左薬指に
嵌める。
「・・・・エディ。愛している。」
ロイは、エドの身体をきつく抱きしめたまま、ずっと離さなかった。
ホークアイは混乱していた。
あのハボックが、エドを殺害した?
そんな馬鹿な話などあるものかっ!!
あんなにエドを可愛がっていたのに?
何故?
何故なの?
どうして!!
ホークアイは、立ち止まると、流れ落ちる涙を乱暴に拭った。
今は自分の感傷に浸っている場合ではない。
今は一刻も早くハボックを捕まえなければ。
ロイよりも早く。
ホークアイは全ての鍵を握っているであろう、ハボックの
姿を求めて、廊下を走り出した。
「許さない。私からエディを奪った者など・・・・。」
闇の中、暗く澱んだ目をしたロイは、エドを抱きしめたまま、
低く呟いた。