月の裏側

              〜 Love Phantom 〜

            

 

                       第17話

  

 

                   「・・・・・・アナタモ・・・・ナノ・・・・?」
                   その声に、闇の中、ゆっくりとエドワードの意識が
                   浮上する。
                   「誰・・・・・・・?」
                   既に体全部を硬化されたはずだったのだが、すんなりと
                   出てきた声に、エドは驚いて目を開ける。
                   「ここ・・・・は・・・・・?」
                   目の前に広がる闇に、エドは思わず息を呑む。
                   「・・・・アナタモ・・・・私ト・・・同ジ・・・・ナノネ・・・・。」
                   今度は真後ろから聞こえるその声に、エドは、
                   反射的に振り返った。
                   「・・・・・・あなた・・・は・・・・まさか・・・・・。」
                   自分と同じ黄金の髪と黄金の瞳を持つ同じくらいの歳の
                   少女。
                   そして何よりも、エドが驚いたのは、目の前にいる少女は、
                   身体の硬化が始まってから直ぐ、何度も夢の中で見たのに、
                   気づいたからだ。
                   エドは、本能的に、一歩後ろに下がる。
                   「アナタナラ、同ジ始マリデモ、【違ウ未来】ヲ
                   私ニ見セテクレルト思ッタノニ・・・・・。」
                   一歩下がるごとに、少女がエドに一歩近づく。
                   「どうして・・・・あなたが・・・・・。」
                   恐怖でガタガタ震えるエドを、少女は悲しそうな顔で
                   見つめる。
                   「ソレガ【契約】ダカラ・・・・・。」
                   「【契約】?」
                   戸惑うエドに、少女はコクリと頷く。
                   「【世界】ト初代フルメタル王国ノ【国王】ガ交ワシタ【契約】。」
                   少女は、流れるような速さで、素早くエドの懐に飛び込むと、
                   その手をエド心臓がある所に触れる。
                   「!!」
                   慌てて少女から離れようとするが、まるで足が地に根を張った
                   ように、エドはその場から動く事が出来ない。
                   「なっ!!」
                   焦るエドに、少女は妖艶に微笑む。
                   「コレハ、【王家の罪】。」
                   少女の手が、まるでエドの中に溶け込むように、その形を
                   変える。
                   「【賢者の石】ハ、【鋼姫】ノ絶望ガ形ニナッタモノ・・・・。」
                   少女は、身体をエドに溶け込ませながら、エドの耳元で
                   囁く。
                   「アナタノ【絶望】ハ、ドンナカシラ・・・・・・。」
                   「いやぁあああああああああああ!!」
                   少女がエドの身体に吸収された途端、エドの脳には、
                   膨大な量の【記憶】が一気に押し寄せて、エドは、
                   苦しさのあまり、その場にのた打ち回る。
                   剥き出しのままの【記憶】と【感情】に、エドは自分の自我が
                   保てなくなり、意識がだんだんと保てなくなる。
                   「ロ・・・ロイ・・・・・・・。」
                   エドは、救いを求めて、手を闇に伸ばす。
                   だが、その手は空しく宙を切っただけだった・・・・・・。







                  真実の奥の奥。
                  今、【鋼姫】の【真実】が、エドの前に示されようとしていた。
                  全ての【始まり】であり、
                  全ての【終わり】。
                  歴代の【鋼姫】の【絶望】が、
                  エドに何を与え、
                  何を奪うのか。
                  【絶望】を打ち破り、
                  闇の先にある【光】に辿りつけるのか。
                  それとも・・・・・・・。
                  









                  「私は今まで、【愛する事】を知らずにいた・・・・。」
                  ブラッドレイと対峙しながら、ロイは静かな口調で
                  語り始める。
                  ”エディ・・・・・。”
                  脳裏に浮かぶのは、自分に【愛する事】を教えて
                  くれたエド。
                  彼女の為にも、自分を信じここまできた。
                  ロイは一歩前に出ると、発火布を嵌めた右腕を、
                  ゆっくりとブラッドレイに向けた。
                  「・・・・・・・・・私は・・・・あなたが・・・・・。」
                  ロイの言葉に、ブラッドレイは、観念したように、
                  ゆっくりと瞳を閉じた。