霧が立ち込める森の中。
前方を歩いているはずのヒューズの後姿が、
時々霧で見えなくなりそうになり、ロイは
時々霞んでいく頭を振りながら、立ち止まった。
「・・・・・どこまで行くんだ?」
小さな声で呟くロイに、ヒューズは、ニヤリと
笑いながら、後ろを振り返る。
「どこって・・・・すぐそこだよ。もう、へばったのか?」
年は取りたくねーなーと、軽口を叩く、ヒューズに、
ロイは、目にも留まらぬ速さで、懐から小型ナイフを
取り出すと、目の前のヒューズに向けて放つ。
「あっぶねーなー!どうしたんだ・・・・・・。」
間一髪避けたヒューズは、ロイに文句を言う為に、
口を開くが、途中でその言葉は飲み込まれる。
自分の喉元に、ロイが剣を突き立てているからだ。
「そろそろこんな茶番は終わりにしよう。ヒューズ。
いや・・・・【真理の森の管理人】。」
ロイの言葉に、ヒューズは、呆気に取られた。
「はあ?管理人?何言ってんだ?」
肩を竦ませるヒューズに、ロイはクスリと笑う。
「化ける人間を間違えたな。ヒューズは、最後まで
私が王座に着くのを、反対していたのだよ。
リザと共に。」
母が処刑され、半ば監禁状態の自分の元に、
王座奪回を唆す人間が、後を絶たなかった。
今から思えば、その話に乗ってこないロイに
見切りをつけて、ブラッドレイにロイの首を差し
出して、保身を図ろうという馬鹿な人間が、
自分の暗殺を企てたのかもしれない。
それを、長年父親が黒幕だと、思い込んでいた
自分が情けない。ロイは、じっとヒューズを
見据えながら、静かに剣を下ろす。
「・・・・なるほど、【鋼姫】恋しさに、頭に血が
昇っているのかと思っていたが、案外冷静で
驚いた。」
【真理の森の管理人】は、ヒューズの姿から、
ゆっくりと姿を変え、今度は全身緑色のインコ、
ホオミドリトガリオへと変化する。
「・・・・・それが正体か?」
ハボックとウィンリィが【管理人】の子孫という
から、人型かと思っていただけに、ショックを
隠し切れない。だが、そんなロイに、【管理人】は、
笑い飛ばす。
「いや?元はちゃんとした人型だったさ。だが、
長い間1人だと、空しくて、自分の姿を忘れて
しまう。この森は、鳥が多数生息しいて、この
姿の方が、落ち着くのだ。飛べるから、森の
管理も楽だしな。」
別に他意はないと言う【管理人】に、ロイは悲しそうな
顔をする。
「・・・そんなに気の毒そうな顔をするな。別に
不幸でもないのだから。」
【管理人】は、パタパタと羽を羽ばたかせる。
「ところで、本気なのか?【扉】を封印すると
いうのは?」
【管理人】の言葉に、ロイは重々しく頷く。
「まっ、俺はどちらでもいいんだがな。【扉】が
【封印】されれば、俺は【扉】の向こうに帰る
事が出来る・・・・・。」
【管理人】は、手近な枝に飛び移ると、ロイを
見下ろす。
「だが、【扉】を【封印】するのは、至難の業だぞ。」
「ホーエンハイム王の日記には、【鍵】を見つければ
と書かれていたが・・・・・。」
ロイの言葉に、【管理人】は、面白そうに笑う。
「そう!まさにその【鍵】がやっかいなんだ!」
「・・・・・見つけにくいものなのか?」
眉を顰めるロイに、【管理人】は、頭を振る。
「ある意味、見つけにくいものではあるな。
【鍵】を持っているのは、初代【鋼姫】アストレイア姫
なのさ。」
「アストレイア姫だと!?」
何百年も前に亡くなった姫の名前に、ロイは
ガックリと膝をつく。
「何てことだ!エディに掛かっている【鋼姫】の
呪いは、解けないというのか!?黙って
見ていろと!?」
拳を握って、何度も地面を叩くロイに、【管理人】は、
ロイの頭にフワリと飛び移ると、嘴で突っつく。
「こら!勝手に自己完結すんな!【鍵】と言った
だろ?この世にいないものを【鍵】と言うわけ
ないだろうがっ!!」
ツンツンツンと、【管理人】は、更にロイに嘴攻撃を
行う。それに慌てて、ロイは【管理人】の嘴攻撃
から頭を守るべく、【管理人】を捕まえようとするが、
スルリと交わされ、【管理人】は、再び枝の上に
飛び上がる。
「キーワードが同じだったんだよ。」
「キーワード?」
何の事かと、首を傾げるロイに、【管理人】は、
深い溜息をつく。
「ホーエンハイム王の日記を読んだんだろ?
アストレイア姫の恋の話をさ。」
頷くロイに、【管理人】は、目を細める。
「アンタとエドワード姫の出会いと、あまりにも酷似
している。」
その言葉に、ロイは激昂する。
「失礼な!私はエディを愛している!!彼女を
捨てたりはしていない!!むしろ、私の方が
捨てられそうなんだ!!」
【管理人】は、溜息をつきながら、首を横に振る。
「着眼点は、そこじゃない。あんたが、今まで行ってきた事だ。
フルメタル王国を侵略した、フレイム王国の、国王陛下。」
その言葉に、ロイの顔がサッと青ざめる。
「・・・・その事が、闇の中でまどろんでいた、【鋼姫】、
アストレイア姫の魂を起こしてしまったんだよ。」
「・・・・どういう事だ?」
目を細めるロイに、【管理人】は、溜息をつく。
「代々の【鋼姫】は、【王】によって、幽閉を
余儀なくされた。錬金術を使える【世界】を、つまり、
フルメタル王国の繁栄を守る為、【王】は、
【鋼姫】を逃がさないように、監禁した。」
そこで、【管理人】は、ゆっくりと顔をロイに向ける。
「だが、例外が起った。」
「ホーエンハイム王か・・・・。」
ロイの言葉に、【管理人】は、大きく頷く。
「ホーエンハイム王は、本当に我が子を愛していた。
この頃になると、【鋼姫】は、他の国では、脅威の
【魔女姫】と、恐れられていた。そんな悪意ある
視線に我が子が晒されるのを嫌ったホーエンハイム王
は、国内外で、身近な側近以外に、エドワード姫が
【鋼姫】であることを隠し、万が一【鋼姫】であることが
露呈されてしまった場合を考え、病弱と偽り、【真理の森】に
ある城に姫を隠した。いつの日か、本当に姫を愛する者が
現れ、姫の【呪い】を断ち切れる事を祈っていた。
しかし・・・姫はお前と出会ってしまった。」
その言葉に、ロイは息を呑む。
「私では駄目なのか!?他国の人間だからか?」
激昂するロイに、【管理人】は、首を横に振る。
「違う。そうじゃない。大事なのは、その時に、エドワード
姫が、アンタに【真の名前】を教えてしまった。そして、
それが、アストレイア姫の魂を起こすきっかけになって
しまったんだよ。」
「【真の名前】・・・?」
そう言えば、エドと初めて出会った時、誰にも教えては
いけないと言う、【本当の名前】を教えてもらったと、
ロイは思い出す。
「もともとエルリック王家では、【言霊】が信じられていた。
言葉には、力があり【名前】を知られる事は、その相手の
支配を受けると信じられていた。だから、【真の名前】は、
誰にも知られてはならないものとされていた。そして、
それが転じて、王家の姫は、自分の【真の名前】を伴侶と
なる男に告げる事が、婚約の代わりとなっていた。」
その言葉に、ロイは目を見開く。
「つ・・・・つまり・・・・あの時、私はエディから、熱烈な
プロポーズを受けていたと・・・?ああ!何たる失態!!
知っていれば、持ち帰って・・・・・。」
「だーっ!!勝手に妄想を暴走させるな!!話が進まない
だろうがっ!!」
【管理人】は、ロイの耳朶を咥えると、思いっきり引っ張る。
「痛いではないかっ!!」
半分涙目で抗議するロイに、【管理人】は、大丈夫か?
コイツ・・・と、呆れた目を向ける。
「と・・兎に角、話を元に戻すぞ!!いいか、アンタは、
姫から【真の名前】を聞いたのも関わらず、数年後、
フルメタル王国を侵略した。つまり、同じなんだよ。
アストレイア姫の時と、状況が・・・・・。」
【管理人】は、ショックのあまり茫然となるロイに、
溜息をつくと、ロイの肩から枝へと飛び移る。。
「もともと、【扉】は、アストレイア姫の絶望が呼び寄せた
ものだ。その【扉】を消すには、アストレイア姫の心を
救わなければならない。・・・・・・アンタに出来るか?」
【管理人】は、何もかも見透かすような瞳に、ロイは
重々しく頷く。
「闇に染まったのは、何もアストレイア姫だけではない。」
キッパリと言い切るロイに、【管理人】は、満足そうに
頷くと、視線を、前方に向ける。その視線に釣られるように、
ロイも視線を向けると、蔦に絡まれた城の前にいることに、
気づいた。
「もう、あと間もなく、エドワード姫は、完全なる【鋼姫】と
なる。」
その言葉に、ロイは身体を揺らす。
「救って欲しい。アストレイア姫の孤独な魂と・・・・1人の
可哀想な男を・・・・。」
「男?」
聞きとがめるロイに答えず、【管理人】は、ゆっくりと羽を
広げると、大空に飛び立つ。
「頑張れよ!」
【管理人】の声だけが、辺りに響き渡る。
「・・・・行くか。」
ロイは、深呼吸をすると、蔦で固く閉ざされた扉に、
手を伸ばす。途端、触れてもいないのに、ゆっくりと
扉は開かれた。
闇の中、エドワードは、ボンヤリと漂っていた。
大好きな父や母、そして弟のアルフォンス。
幼馴染で乳姉妹のウィンリィ。
兄のように慕うハボック。
皆、一様にエドを蔑みの目で見つめると、無言で
去っていく姿が、目の前に現れる。だが、【鋼姫】という
【運命】を甘受したエドには、それは悲しい事だったが、
酷く心が騒ぐことはなく、ただ静かに受け止めていた。
「エディ・・・・・。」
しかし、ロイの声が聞こえた途端、エドの心に波風が
立ち、動揺する。ハッと我に返ったエドは、目の前に、
立っているロイに、思わず手を伸ばしかけるが、
そんなエドを後ろから拘束して、耳元で囁く者が
いた。
【アノ、男ハ、アナタヲ利用シタダケ・・・・・。】
謳うように囁かれ、エドは知らずに身体を硬直させる。
「違う!ロイは、そんな人間じゃ・・・・。」
必死になって首を横に振り続けるエドに、背後で
小さく笑う。
【ソウ?デハ、何故、彼ハ、アナタノ国ヲ攻メタノ?】
「それは・・・・・。」
【アナタニ、愛ヲ囁イタノニ、何故、別ノ女性ト結婚スルノ?】
あざ笑う声に、エドは泣きながら、ロイを見ると、ロイは
エドを冷たく見つめていた。
「エドワード姫。私がお前のようなバケモノを、本気で
愛すると思っているのか?」
ロイの言葉に、エドの表情が凍りつく。
「私が愛する女性は、ただ1人。リザ・ホークアイ姫だけだ。」
ロイは、そう言うと、闇に向かって手を差し伸べる。その
手を取ったのは、ウエディング姿のホークアイだった。
2人は、微笑み合うと、エドの目の前で、口付けを
交わす。その2人の姿に、エドの心が悲鳴を上げた。
【辛イデショ?憎イデョ・・・・?】
両手で顔を覆い、泣き出すエドに、声は優しく囁き続ける。
【アンナ男ナンテ・・・・・殺セバ良イノヨ・・・・・。】
クククと笑う声に、エドはゆっくりと顔を上げると、毅然と
前を向く。
「・・・・・これは、俺が望んだ事なんだ。」
【!!】
ハッと息を飲む気配に、エドは涙を流しながら、自嘲した
笑みを浮かべる。
「ロイには・・・・リザ様と幸せになってほしい・・・・。
俺は、それしか、望まない・・・・・。」
そう言って、再び目を閉じるエドに、声は苛立ちを
隠せない。
【ドウシテ!!アナタハ!!】
だが、エドは何も答えない。
1人じっと闇の中で佇んでいた。
城の至る所まで、蔦は浸透し、城の中にいる人間すら
絡め取っており、人々は安らかに眠っていた。ロイは、
慎重に歩を進めていくと、一際蔦が絡まっている部屋を
見つける。ロイが、一歩近づくと、部屋を覆っていた蔦は、
見る見るうちに引いていき、ロイは労せず部屋の中に
入る事を成功する。
「さて・・・・・アストレイア姫を、どうやって捜せば・・・。」
顎に手を当てて考え込むロイの背後から、遠慮がちな
声が聞こえ、反射的に振り返った。
「ロ・・・イ・・・?」
「エディ!!」
そこには、恋焦がれていた最愛のエドが、不安そうな顔で
佇んでおり、ロイは嬉しそうに駆け寄った。
「エディ!!逢いたかった!!」
ロイは、そのまま抱きしめようとしたが、ふと違和感を感じ、
エドの両肩に手を置くと、顔を覗き込む。
「エディ・・・・?」
困惑するロイを無視して、エドはロイの腕に自分の腕を
絡ませると、青褪めた顔で、部屋の隅を指差す。
「ロイ!あそこにアストレイア姫が!!」
その言葉に、ロイが視線を向けると、顔の半分が焼け爛れた
少女が、部屋の隅に立ち尽くしていた。
「彼女が・・・・・アストレイア・・・姫・・・?」
ロイの言葉に、エドは、ますます身体をロイに密着させる。
「ああ。彼女を殺さない限り、俺の呪縛は解けないんだ・・・。」
エドは、潤んだ瞳でロイを見上げる。
「ロイは、俺を助けに来てくれたんだろ?だったら、早く
彼女を殺して!!」
エドの叫びに、ロイは無言で、ゆっくりと少女に近づく。そんな
ロイの姿に、エドはニヤリと笑うが、続くロイの行動に、
表情を強張らせた。
「迎えに来たよ・・・・・。エディ・・・・。」
きつく少女を抱きしめるロイに、エドは怒りを露に叫ぶ。
「何言ってんだ!ロイ!!エドワードは・・・・。」
「エディは、この子だよ。・・・・・君が、アストレイア姫だな?」
ロイは、後ろにいるエドを、鋭く睨みつける。
「・・・・どうして・・・!!」
青褪めるエドに、ロイは腕の中の少女を、愛しそうに頬を寄せる。
「エディは、例え自分の命が掛かっていても、簡単に
人を殺せと言う子じゃない。むしろ、自分を犠牲にする子なんだよ。」
ロイの言葉に、エドの顔をしたアストレイアは、悔しそうに
唇を噛み締めるが、直ぐに余裕の笑みを浮かべる。
「でも、もう遅いわ。マスタング王!彼女は【鋼姫】になる事を、
選んだ。【歴史】は繰り返すのよ!!」
高らかに笑うアストレイア姫の言葉に、ロイは慌てて腕の中にいる
エドを抱きしめる。
「エディ!!お願いだ!!【鋼姫】にならないでくれ!!」
だが、ロイの呼びかけも空しく、エドの身体から、どんどん生気が
失われていく。
”どうすればいいんだ!!エディを失いたくない!!”
消え行くエドの魂を、留めるにはどうしたらよいか。
その時、ふと幼い頃のエドの顔が浮かび上がった。
「オレの本当の名前は、・・・・と言うの。」
【真理の森】の【管理人】は、一体何を言った?
【言葉】には、力がある。
それならば・・・・。
ロイは、エドの唇に、己の唇を重ね合わせる。
脳裏に浮かぶのは、幼い頃のエドワード。
彼女は自分に教えてくれたではないか。
【真の名前】を・・・・。
「お願いだ・・・。私の元に戻ってきてくれ・・・・。
エディ・・・・・。エディーシャ!!」
血を吐くような想いで、ロイはエドの身体をきつく
抱きしめると、エドの【真の名前】を叫んだ。
”エディーシャ・・・・・。”
”エディーシャ・・・・・。”
どこからか聞こえる声に、エドはぼんやりと反応する。
”誰・・・?母様?”
脳裏に浮かぶのは、優しかった母の面影。
”愛しい娘、エディーシャ・・・・・。”
母親の声に、エドは、ゆっくりと目を開ける。
”【真の名前】はとても大切なものなのよ。
だから、とても好きな人にだけ教えてあげなさい。”
「真の名前・・・・・。好きな人・・・・?」
ふと我に返ると、ロイが、必死になって自分の【真の名前】を
呼んでいる事に気づく。
”どうして・・・・ロイが・・・・?”
フレイム国にいるはずのロイが、何故ここにいるのだろうか。
これは、自分の願望が見せた夢?
「ロ・・・イ・・・・・。」
夢でもいい。
最後にもう一度だけ、ロイに会いたかったのだから。
エドは、震える指先で、ロイの腕を掴む。
「エディーシャ?エディ!!」
必死に名前を読んでいたロイは、弱々しく自分の腕を掴む
エドに気づくと、歓喜の声を上げる。
「エディ!エディーシャ!!良かった!!」
きつくエドを抱きしめるロイに、アストレイア姫は、信じられないと
首を横に振る。
「どうして!?何で!!」
「・・・・何故か・・・だと?」
ロイは、顔を上げると、じっとエドの顔をしたアストレイアを
見つめる。
「【言霊】だ。【真の名前】で命じられれば、無視できないだろ?」
ロイの言葉に、アストレイアは、悔しそうな顔をするが、直ぐに
ロイに、媚びた笑みを浮かべて、ゆっくりと近づく。
「そんな醜い娘など、放っておいたら?それよりも、私の方が
美しく、力だって・・・・。」
「私は、エディを誰よりも愛している。例え、エディが【鋼姫】であろう
とも、顔の半分が焼け爛れていようとも・・・・。」
ロイは、愛しそうに、エドの爛れた顔に口付ける。
「エディのいない世界など考えられない。そんな世界など、
いらない!!」
ロイは、エドを床に横たわらせると、ゆっくりと立ち上がる。
「な・・・何?本気で言っているの?」
一歩一歩ゆっくりと自分に近づいてくるロイに、アストレイアは、
一歩後ろに下がる。
「本気だとも。さあ、アストレイア姫。【鍵】を。この世界から錬金術を
消滅させる!」
ロイは、右手をアストレイアに差し出す。
「何を馬鹿な事を!錬金術さえ使えれば、あなたは、世界の王に
だってなれるのに!!」
「・・・・姫。」
ロイは、穏やかな眼差しでアストレイアを見つめる。
「言ったはずだ。私にエディ以上の価値あるものなど、
存在しないと。」
【鍵】を渡して欲しいというロイに、アストレイアは、ポロポロと
泣き出す。
「どうして!?私には何の価値もないの?あの人も・・・・
お父様も・・・・私を利用するだけ利用して・・・・・捨てて・・・・。」
アストレイアは、憎しみを込めた目を、眠っているエドに
向ける。
「・・・・どうして、お前だけが皆に愛される?同じ【鋼姫】なのに!
いえ!私の方が力があるのに!!」
アストレイアは絶叫すると、エドに向かって技を繰り出す。
「エディ!!」
ロイは、間一髪エドを抱き抱えると横に飛ぶ。その後直ぐに、
エドが横になっていた場所を、突起物が貫く。
「・・・・・許さない!絶対に許さない!!」
怒り狂うアストレイアに、ロイは負けじと叫ぶ。
「姫!本当に、あなたを愛する者がいなかったと
いうのですか!!」
アストレイアは、絶叫する。
「ええ!いなかった!誰も私を愛してくれない!
誰も私を必要としてくれない!!」
「・・・・そうかな?」
ロイの言葉に、アストレイアは、キッと顔を上げる。
そんなアストレイアに、ロイは優しく語り掛ける。
「あなたを、ずっと愛し続けている人がいるはずです。
だから、あなたはずっと【ここ】に留まっている。
違いますか?」
ロイの言葉に、アストレイアは、一瞬絶句し、次の瞬間、
激しく頭を振る。
「いない!そんな人いない!!私は【契約】で、【ここ】に
縛られて!!」
「・・・・・代々の【鋼姫】に【契約】は移行している。
あなたが【ここ】に留まる理由には、ならない。」
「私は・・・私は・・・・・。」
ガタガタと震えるアストレイアを、ロイは諭すように
言う。
「あなたはずっと願っていた。自分と同じ境遇の人間が、
違う【道】を選ぶのを。そして、その時こそ、昔の呪縛から
解き放たれ、魂が【浄化】される。しかし、それと同時に、
浄化するのを拒んでいた。浄化すれば、愛する人と離れて
しまうから。だから、エディに対して、必要以上の攻撃を
行った。」
ロイは、スッと視線をアストレイアから横に逸らせると、
闇を凝視する。
「そして、【鋼姫の夫】、お前にも言いたいことがある。」
ロイの声に反応するように、闇の中から、1人の男が
姿を現す。
「・・・・・姫を愛しているのに、何故彼女を孤独のままに
している?」
咎めるようなロイの言葉に、アストレイアは、狂ったように
笑い出す。
「何を馬鹿な事を!その男は、私を【監視】する為に・・・。」
「・・・・何故、アストレイア姫を監視しなければならない?
【契約】は代々の鋼姫が請け負うもの。アストレイア姫は
そのきっかけに過ぎない。監視する必要性などない。」
ロイは、アストレイアの言葉を遮ると、じっと男を凝視する。
「ずっと不思議だった。ハボック家の当主に代々伝わって
いる事は、ただ一つ。【鋼姫の願いを叶える事】だけだ。
・・・・それは、あなたがアストレイア姫の願いを叶えたい
からではないのか?」
ロイの言葉に、アストレイアは、信じられないものを見る
ように、ジャックを凝視する。
「ジャック・・・・・。」
「お察しの通り、私はいつの間にか、アストレイア姫を
愛してしまった・・・・・。」
ジャックは、溜息をつくと、ゆっくりとフードを取る。
「!!」
ジャックの顔を一目見て、アストレイア姫は、声にならない
悲鳴を上げる。ジャックの両目が刀傷で塞がれて
いたからだ。
「どうし・・て・・・・。ジャック・・・・。」
アストレイアは、泣きそうな顔でジャックに近づくと、
震える指で、ジャックの瞼に触る。
「あなたが、自分の顔の火傷を気にしていたからだ。
私がいくら言葉を重ねても、あなたに私の声は届か
なかった。だから・・・・目を潰した。これが、私があなた
だけを想っている証。」
あなた以外を見ないという、自分の想い。
どうか伝わって欲しいと、何度願った事か・・・・。
ジャックは、ゆっくりとアストレイアの身体を抱きしめる。
「あなたを・・・・愛しています。」
「ジャック・・・・・・。」
ポロリと一筋の涙が流れ、アストレイアの顔が穏やかなものに
変わる。暫くジャックの腕の中で大人しくしていたアストレイアは、
やがて微笑むと、悲しそうな顔で、ジャックを見上げた。
「ごめんなさい・・・・。本当は知っていたの。でも、私には
勇気がなかった・・・・・。また同じ事が繰り返すんじゃないかって
ずっと恐かった・・・・・。」
「愛しています。・・・・・一緒に私の世界に行きましょう。もう二度と
あなたに悲しい想いはさせません。」
ジャックの言葉に、アストレイアは、泣きながら抱きつく。
「よぉ!漸く決着がついたか。」
抱きしめ合う2人に、窓の外から声が聞こえてきた。
見ると、【真理の森】の【管理人】が、バタバタと羽を
バタつかせて、足で窓ガラスを叩いていた。
その様子に、ロイは慌てて窓を開けると、【管理人】は、勢い良く
中に入ると、室内を一周してから、ジャックの肩に止まる。
「じゃあ、帰ろうか。我々の世界に・・・・。アストレイア姫も。」
アストレイアは、コクンと頷くと、ジャックから離れて、壁の前に
佇む。そして、両手を重ね合わせると、次に両手を壁に
つけると、眩い練成の光が部屋を照らし、壁には、
【扉】が出現した。
アストレイアは、【扉】を開けると、ゆっくりとジャックを
振り返った。目に涙を溜めて。
「さぁ、ジャック・・・・。」
「ああ。幸せになろう。姫。」
嬉しそうなジャックの手を取って、アストレイアは、扉へと
導く。そして、ジャックを先に扉の中へ入らせると、
自分は、外から扉に手をかけると、ゆっくりと扉を
閉め始めた。
「姫!?」
アストレイアの意図に気づいたジャックは、アストレイアを
抱き寄せようとするが、それよりも前に、アストレイアが、
扉を閉めるのが早かった。ほんの数センチの隙間から
見えるジャックに、アストレイアは泣きながら言った。
「ありがとう・・・。ジャック。その気持ちだけで十分。」
「姫!?」
ジャックは、扉を開けようとするが、ビクともしないので、
今度は、扉をドンドン叩きつける。
「姫!何故だ!姫!!」
「ジャック・・・。この扉は私の心・・・・。私だけが、
【封印】できる・・・・。」
その言葉に、ジャックは真っ青になる。
「愛しているわ。ジャック・・・・。」
アストレイアは、振り切るように、扉を完全に閉めると、
茫然と立っているロイを振り返る。
「私の弱い心が、この世界に【扉】を出現させ、あまつさえ、
開けてしまった・・・・・。そして、多くの人の命を奪ってしまった。
その罪は償わなければならないの。」
アストレイアは、穏やかに微笑む。
「マスタング王。【扉】の【鍵】とは、私自身なのです。」
「何だと!!」
驚くロイに、アストレイアは、ゆっくりと手を胸のところで組むと、
静かに呟いた。
「どうか、お願いします。【扉】に【鍵】を・・・・・。」
徐々に輪郭がぼやけ始めるアストレイアに、ロイは慌てて
駆け寄る。
「姫!!」
「マスタング王、エドワード姫に伝えて・・・・。ごめんなさい。
ありがとうって・・・・・。そして、2人で幸せ・・・に・・・・・。」
完全にアストレイアの姿が消えると、代わりにアストレイアが
立っていた場所に、一本の金色の鍵が落ちていた。
「アストレイア姫・・・・・。」
ロイは鍵を拾い上げると、泣くのを堪えるように、目を固く
瞑る。だが、やがて決意に満ちた顔を上げると、ゆっくりと
鍵穴に鍵を差し込む。
カチャリ。
鍵が閉まったと同時に、ロイの手の中にあった金色の鍵が
音もなく崩れ落ちる。そして、徐々に、【扉】もその姿を
消していった。そして、完全に【扉】が消えると、部屋を
多い尽くしていた蔦が消え、暖かな日差しが部屋の中に
満ちる。それは、まるで【鋼姫】の悲しい物語が終わりを
告げた事を象徴するかのようだった。
「エディ・・・・エディーシャ・・・・。」
ロイは、ゆっくりとエドに近づくと、その身体を助け起こす。
【鋼姫】の【呪縛】から解き放たれた今、エドワードの顔は
元通りとなり、静かに眠っていた。
「エディ・・・・お願いだ。目を開けてくれ・・・。」
そう言って、顔中にロイはキスをする。
「う・・・ん・・・・?」
やがて、瞼がピクピク動き、エドワードの目が開かれる。
「エディ!!」
まだ焦点があっていないエドは、どこかボンヤリしていたが、
自分がロイの腕の中にいる事に気づき、慌てて暴れだした。
「離せ!離せったら!!」
「嫌だ!絶対に離さない!前にそう言っただろ?」
ますますきつくエドを抱きしめるロイに、エドはウンザリ気味に
大人しくなる。
「何で、ロイがここにいるんだよ!国はどうした!」
悪態をつくエドに、ロイは大げさに肩を竦ませる。
「婚約者の危機を救うのは、当然の事だろ?」
「こ・・・婚約者だとぉおおお!!一体いつ!!」
真っ赤な顔になるエドに、ロイはクスリと笑う。
「初めて逢った時、君は私に【真の名前】を教えてくれた
だろ?エルリック王家の姫の婚約は、伴侶に己の
【真の名前】を示して成立するそうだね。エディ?」
ニコニコと上機嫌なロイに、エドは悲しそうに言う。
「でも・・・俺・・・・【鋼姫】だし・・・・・。」
そんなエドに、ロイは穏やかに微笑む。
「その事なら、心配無用だ。【扉】は封印され、
君は【鋼姫】の呪縛から解き放たれた。」
ロイの言葉に、エドは青褪める。
「何だって!!そんな・・・・どうして封印なんか
したんだ!!錬金術が使えなくなるんだぞ!!」
ロイの胸倉を掴むエドの手を、ロイは優しく握り締める。
「錬金術よりも、私にとっては、君が大切だ。」
エドは泣きながら、ロイの手を振り解く。
「でも!でも!!」
混乱するエドを、ロイはきつく抱きしめる。
「エディ!錬金術だけが全てではない。この世界には、
錬金術がなくても、皆幸せに暮らしているじゃないか!!
第一、錬金術は君を幸せにしたか?辛い宿命を
背負わせただけではないか!!だが、私なら君を
幸せに出来る!私と結婚してくれ!!」
そこで言葉を切ると、ロイはエドの顎に手をかけて、
じっとその黄金の瞳を覗き込む。
「君はもう【鋼姫】ではない・・・・。それを理由に
拒む事は許さない。」
「ロイ・・・・・・。」
ロイは、ゆっくりとエドの左手を取ると、その白い
手の甲に口付ける。
「エディーシャ・・・・。愛している。私の妻になって
欲しい・・・・・。」
「ロイ・・・俺・・・・・。」
その時、エドの脳裏に、ホークアイの言葉は蘇る。
ホークアイは、自分とロイの関係を兄と妹のような
関係だと、切々とエドに訴えていた。
「おねがい!陛下を信じてあげて!!」
耳に残るホークアイの言葉に、エドはじっとロイの
顔を見る。いつもは、余裕ある顔を崩しもしない
男が、心配そうに自分を見る余裕のなさに、
エドの心はドキドキし始める。
「エディ・・・・。君は私が嫌いかい?」
まるで捨てられた子犬のような顔に、エドは
意地を張っている自分が馬鹿馬鹿しくなり、
ギュッとロイに抱きついた。
「エディ!?」
「・・・・・・・・・・・・大好き。・・・・・・・ロイ・・・。
ずっとロイと一緒にいたい・・・・・。」
その言葉に、ロイはパッと明るく微笑むと、
エドを抱き上げて、部屋の中をくるくる回る。
「本当だな!エディ!!愛してる!!」
「ちょっ!!ロイ!!目が回る〜。」
ふにゃ〜となるエドに、ロイはクスリと笑うと、
一旦動きを止めて、エドに口付けを落とす。
ボーッとなるエドに、ロイは微笑みながら、
足はベットへと向かう。
「ロ・・・イ・・・・?」
不安そうなエドに、ロイは安心させるように、
額に口付ける。
「なに、折角想いが通じ合ったんだ。幸い、
ここにはベットがある。ここで、もっと
想いを確かめ合おうとだね・・・・・。」
「わーっ!!何言ってんだよ!!」
真っ赤な顔のエドに、ロイはゆっくりと
ベットに横たえる。
「愛している。エディ・・・・・。」
「・・・・ロイ・・・。」
静かに目を閉じるエドに、ロイはその可憐な
唇を堪能しようと、ゆっくりと顔を近づける。
「姉さん!!」
「エドちゃん!!」
「エドは無事!?」
「大丈夫か!エド!!」
「姫様〜!!」
キスまでの距離、あと数センチというところで、
アルを筆頭に、ホークアイ、ウィンリィ、ハボック、使用人
総出で、部屋の中に雪崩れ込んだ。
「お前ら〜〜〜!!」
だが、怒り心頭のロイなどお構いなしに、みな
エドの無事な姿に、我先にと、エドに抱きつく。
「・・・・・仕方がないな。」
嫉妬に狂いそうになるが、揉みくちゃにされても、
嬉しそうな笑顔のエドに、それ以上言えず、静かに
見守っているロイに、ホークアイが近づく。
「その様子では、無事成就したようですね・・・。」
「ああ。一ヵ月後、エディと挙式を行うぞ!盛大にな!」
ロイは、ホークアイに、嬉しそうに微笑んだ。
それから、1ヶ月後・・・・。フルメタル王国の一室では、
国王のアルフォンスが、姉姫エドワードに抱きついていた。
「姉さん・・・・・。」
真っ赤に泣き腫らした目で、最愛の姉を見上げるアルに、
エドは苦笑する。
「そんな目で見られても・・・・・・。」
「姉さん!辛い事があれば、いつでも帰ってきても
いいからね!!」
アルは、エドに抱きつくと、大声を出して泣き出す。
朝から続いている光景に、流石のエドも、苦笑せざるを
えない。
「それはありえんな。」
だが、次の瞬間、微笑ましい姉弟の抱擁に、水を差す
声が聞こえ、目の前の最愛の姉の姿が、忽然と
消えてしまい、焦るアルに、忍び笑いが聞こえてきた。
「ククク・・・・。君の姉上は、私が全身全霊を込めて、
一生幸せにするから、安心したまえ!」
そう、自信に満ちた声に、アルが顔を上げると、姉を
お姫様抱っこをしている、ここにはいないはずの人間を
見つけ、不機嫌そうな顔で睨みつける。
「これは、これは、マスタング王。どうしてここに?」
今頃は、自分の城にいるはずのロイの登場に、アルは
怒りを隠しきれない。
「勿論、最愛の花嫁を浚いに。どっかのシスコンが、エディを
手放さないのではと、心配でね。」
ギュッとエドを抱きしめるロイに、アルは、怒りに震える。
「・・・・出発は、明日のはずですが。」
「私としては、一分一秒でも離れたくない。このまま
国に連れて行く。」
そのまま、スタスタとエドを抱き上げたまま部屋を出ようと
するロイに、慌てたのは、アルだった。
「ちょっと待ってください!!まだ儀式が終わってはいません!!」
エドは王族の姫。隣の国へ嫁ぐのだ。普通の家の婚姻とは
訳が違う。それなりに、伝統に乗っ取ったしきたりというもの
がある。この後、先祖の霊廟に結婚の挨拶をする儀式やら、
この国での王位継承権の放棄の儀式やら、夜まで予定が
詰まっている。このまま姉をお持ち帰りされては困る。
焦るアルに、ロイはニヤリと笑う。
「・・・・・我が国王、ロイ・マスタング陛下は、一刻も早い
花嫁の到着を望んでおられる。・・・しかし、儀式の残っている
花嫁を拉致するほど、非常識な人間ではない。よって、
陛下の代わりに、近衛隊隊長である、私が姫の護衛を
仰せつかった。」
何か問題でも?と平然と尋ねるロイに、アルは地団駄を踏む。
「思いっきり、非常識じゃないですかっ!!」
「・・・・ロイ、ずっと一緒?」
怒るアルとは対称的に、エドは頬を紅く染めて、ロイを
見上げる。
「勿論だとも。君から離れる訳がないだろ?」
儀式の間中、ずっと君の側を離れないよと、耳元で囁くと、
エドは嬉しそうにロイの首に腕を絡ませて、ギュッとしがみ付く。
「嬉しい・・・・。オレ、儀式に慣れてないから、失敗するんじゃ
ないかって、すごく不安だったんだ・・・・。」
ロイが側にいるなら平気だと、ニッコリと微笑むエドに、ロイは
そのままエドを押し倒したくなるのだが、続く後頭部に当たる
冷たい金属の感触に、背中に冷や汗が流れる。
「隊長、どうしてここに?姫様の護衛には、私が任に着いて
いるはずですが?」
ニッコリ。
ホークアイが、笑顔でロイを脅す。
「あっ!!リザ姉様!!」
ホークアイに気づいたエドが、ロイの腕の中から飛び降りると、
ホークアイに抱きつく。
「わーい!リザ姉様だ〜!!」
「エドちゃん!逢いたかったわ!!」
ヒシッと抱きしめ合う、二人に、ロイのこめかみがピクピク
動く。
「儀式の間は、私がエドちゃんの警護に当たるから、安心
してね。勿論、ちゃんと儀式が滞りなく行えるように、万全の
体勢を整えているわ。」
「リザ姉様、大好き!!オレ、頑張る〜!!」
目をキラキラさせるエドに、ホークアイは優しく微笑む。
「さぁ、そろそろ着替えなくては。行きましょう。エドちゃん。」
「はーい!リザ姉様!」
そのまま、和気藹々と、部屋を出て行く二人に、ロイは
焦ったように、呼び止めようとするが、勝ち誇ったアルの
言葉がそれを止める。
「エディ!!」
「【隊長】。姉さんは、マスタング王に嫁ぐ身だということを、
お忘れなく。あらぬ噂を立てられて、困るのは姉さんなんですよ。」
つまり、【隊長】なのだから、必要以上エドに近づくなと
アルはでかい釘を刺す。
「・・・・では、御機嫌よう。【隊長】。」
はっはっはっと笑いながら部屋を出て行くアルに、ロイは
ギリリと歯軋りをする。
「このまま私が引き下がると思うのか。」
ロイは低く呟くと、部屋から出て行った。
早朝、今度は国王自らが、花嫁を迎えに来た事で、
出発前、義弟となるアルと一騒動持ち上がったのは、
別の話。
「愛しているよ。エディ。」
「オレも・・・愛してる。ロイ・・・・。」
エドにしがみ付くアルを押しのけ、エドを抱き上げたまま、
馬車に乗る隣国の王の姿に、政略結婚だと思い、エドの境遇に
影で涙を流していたフルメタル王国の民衆は、ロイが
エドワードを大切しているのが判り、漸く安堵したのだった。
そして、2人を乗せた馬車が見えなくなるまで、何時までも
民衆は歓声を上げ続けたのだった。