フレイム王国の城に、可愛らしい声が響き渡った。 「お母様〜。お父様からのお手紙〜!!」 パタパタと音を立てて、城の中の図書室に、飛び込んできたのは、今年五歳になる、 この国の第一王女。普段ならその後ろに、女官達が付き従っているのだが、 今日は白梟一羽のお供だけだ。 王女の名前は、アルティナ・マスタングと言う。 母親譲りの金の髪が、走ったせいで少々乱れていたが、そんな事を 気にする余裕もなく、母の元へと急いでいた。 「ティ〜ナ?お行儀が悪いぞ?」 バタンと音を立てて入ってくる娘に、エドは読んでいた本から顔を上げると、 クスリと笑う。 「ごめんなさい。でも!!」 興奮気味の娘に、エドはパタンと本を閉じると、ギュッと飛び込んで来る娘を 抱き止めた。 「でもじゃないだろ?お前は王女なのだから、もう少しおしとやかに・・・。」 「お父様はこのままで良いって言ったわ!元気なのが一番だって!!」 娘の言葉に、エドはガックリと肩を落とすと、内心ここには居ない夫に 怒りを向ける。 ”あいつ〜!!だからあれほど甘やかすなと言っているのに!!” 最愛の妻と瓜二つの娘を、夫はそれはそれは、傍から見ても馬鹿としか 言いようがないくらい溺愛している。 生まれたばかりの娘に対して、一番先に言った言葉が、 【生まれてきてくれてありがとう】ではなく【絶対に嫁に出さん!!】だったのは、 それからの親馬鹿人生まっしぐらを象徴するような出来事だ。 「それに、カイル兄様も、元気一杯のティナが、世界で一番可愛いって!」 続く娘の言葉に、エドは更に脱力する。 ”全く!うちの男達ときたら!!” 兄にまで溺愛されているのだから、将来この娘はちゃんと 結婚出来るのかと、エドはかなり心配していたりする。 「でも、お母様とのお約束破ってごめんなさい。」 ティナは、シュンと項垂れると、深々と頭を下げた。その様子に、エドは ニッコリと微笑む。父親と兄から、異常なほどの愛情を一身に背負っているに しては、ティナは素直な性格をしている。自分の悪い所を素直に認め、謝罪する 娘に、こんな良い子なんだから、結婚できるよな!とやはり親馬鹿なエドは のほほんと思った。 「反省しているなら、それでいい。さぁ、お父様からのお手紙を読もうか?」 「うん!!」 ぱああっと明るく笑うティナに、エドはニッコリと微笑むと、ティナの足元で 毛づくろいをしている白梟に手を伸ばした。 場所を、図書室kらサンルームに移し、エドとティナは、白梟の足に 括りつけられていた手紙を、顔を寄せ合うように覗き込む。 「無事、着いたみたいだな。」 ティナに、視察へ向かったロイからの手紙を読み聞かせながら、エドは ホッとした顔で微笑んだ。 「お父様、無事?怪我とかしてない?」 心配そうなティナに、エドは安心させるように、大きく頷いた。 「ああ。仕事を終わらせて、早く帰ってくるって。いい子でお留守番していような?」 「はーい!!お父様が帰ってきたら、お帰りなさいって言うの!それから、 お茶を入れるの〜。」 指折り数えるティナに、エドは苦笑する。 「さて、そろそろお昼寝の時間だ。【鸞】を籠に戻して・・・・。」 「え〜。まだ寝たくない。」 もっとお話したいと可愛らしく首を傾げるティナに、エドは困ったように ため息をつく。 「ティナ?お父様ともお約束しただろ?」 「は・・・・い。」 白梟を籠に戻す母親の姿を見ながら、ティナは渋々頷く。 「そういえば、どうして【鸞】って名前なの?」 「は?」 突然の質問に、エドは驚いてティナを振り向く。 「お父様から聞いたの。【鸞】って、他の大陸にあるお国の文字だって。」 どうして?どうして?と好奇心も露に、キラキラと輝いた目を向けてくる ティナに、エドは天を仰ぐ。 ”ああ・・・・。ティナの【どうして?】が始まってしまった・・・・。” 誰に似たのか、昔から疑問に思った事を、トコトン追求しなければ 気が済まない性格をしていた。他愛のない質問から始まって、最終的には 答えられないような高度な質問までしてくるとあっては、流石に盲目的に 溺愛している父親や兄であっても、ティナの【どうして?】が始まると、 さっさと逃げ出してしまい、結局エド一人が対応する事になる。 「あ・・・この話は、もう少し大人になってから・・・・。」 別に隠す事でもないのだが、内容が内容なだけに、気恥ずかしさが 先に立ち、口ごもってしまう。 とりあえず、説得を試みようとするが、ティナはプクリと頬を膨らませて エドをじっと見つめていた。その一歩も引かないという目に、エドは まっ、仕方ないかとため息をつくと、ティナに椅子に座るように 促す。 「・・・・これは、まだお父様とお母様が結婚する前の話なんだ。」 そう言って、エドは幸せな笑みを浮かべながら語り始めた。 あれは、お父様がお母様に掛けられた【呪い】を解いてくれた時の お話・・・・・。 |