かごめ かごめ
籠の中の鳥は
いついつ出やる
後ろの正面 誰・・・・・・・?
君がいる世界は、
全てが輝いて見えた。
君のいないこの世界は、
漆黒の夜へと変化する。
再び
夜は明けるのだろうか・・・・・・・。
全ては・・・・・・。
闇の中に・・・・・・・・。
「ジーン・・・・。」
闇の中、囁くような声に、それまでまどろんでいた
ジーンの意識は、ゆっくりと浮上する。
「ユージーン・・・・・。」
その事に気づいたのかのように、少しだけ声の
トーンが強くなり、ジーンの覚醒を促す。
「起きて・・・・。」
祈るように。
囁くように。
包み込むように。
光にも似た声が、ジーンの大切な少女と似ていなければ、
もう少し違う未来があったのかもしれない。
だが、ジーンは、声に導かれて【目覚め】てしまった。
「おはよう。ジーン。」
少し笑いを含む声に、ジーンは首を傾げる。
てっきり麻衣だと思っていたのだが、
どうやら違うらしい。
本来ならば、警戒するのだが、麻衣に似ている声に、
すっかり警戒心を無くしたジーンは、好奇心に勝てずに
見えない相手に問い掛ける。
「君は・・・・。」
誰だい?そう尋ねようとした瞬間、ジーンは首に違和感を
覚え、慌てて首に手を当てる。
「・・・・・・包帯・・・・?」
何故こんなものが?
「だって、怪我しているんですもの。」
ジーンの心を読んだかのようなタイミングで、背後から聞こえる
声に、ジーンは慌てて後ろを振り向いた。
「・・・・・・ま・・・・い・・・・・・・・?」
大切な少女によく似た、巫女装束をその身に纏う、5歳くらいの
女の子の姿を目の前に、ありえないと思いつつも、ジーンは
気づくと、この世で一番大切な少女の名前を呟いていた。
「なあに?」
肩のところで、綺麗に切り揃えられた、栗色の髪が、首を傾げると
同時に、さらりと音を立てて、前に流れる。
「君は・・・・麻衣なのか・・・・?」
もう一度そう問いかけると、女の子は、クスクス笑みを零す。
「半分当たって、半分間違いってとこかな?」
妙に大人びた言葉と笑みに、ジーンは瞬間、背筋に悪寒を感じ、
知らず一歩後ろに下がった。
「そんなに怖がらないで。別に危害を与えようなんて、思ってない
から。」
クスクス笑いながら、一気にジーンとの差を縮めるかのように、
胸に飛び込んでくるのを、慌ててジーンは受け止めた。
「ジーン。」
嬉しそうに自分を見上げる顔が、瞬間、幼女から少女へと変化するのを、
ジーンは半ば呆然と見つめた。
「私はね、【麻射(まい)】だよ。」
忘れちゃったの?と少し剥れたように、頬を膨らませる少女に、
ジーンは頭を払った。
「ごめん・・・・。そうだったね・・・・。麻射。」
まだ、どこか霞む頭を感じつつ、ジーンは素直に謝った。
大切な、とても大切な少女。
何故、自分は一時でも彼女を忘れていたのだろうか。
「大丈夫?ジーン。まだ怪我が治ってないんだから、
無理しちゃ駄目だよ?」
心配そうに、自分を見上げる少女に、ジーンは安心させるように
微笑む。
「大丈夫だよ。」
「もう!ジーンの【大丈夫】ほど、当てにならないものないんだよ。
本当だったら、今頃死んでいたんだからね!!」
麻射は、そう一気に叫ぶと、ギュッとジーンに抱きついた。
「あと少し、【私達】が駆けつけるのが遅かったら、ジーン、
車に撥ねられて死んでた。」
震える少女の肩を、ジーンは抱き締めた。
「僕は死んでいない。」
優しく、宥めるように、ジーンは少女に囁く。
「そう・・・・。あなたは【死んでいない】。【ずっと一緒】。
【私達を決して裏切らない】。」
麻射は射抜くように、何時の間にか黄金色に輝く瞳をジーンに
向けると、妖艶な笑みを浮かべる。
「疲れたでしょう?・・・・・・・そろそろ【眠り】なさい。」
そう囁き、ゆっくりと右手をジーンに翳すと、次の瞬間、
ジーンの姿が掻き消されて、代わりに少女の足元に、
ゆっくりと人形(ひとがた)が舞い落ちる。
「うふふふ。」
足元に落ちた人形を、ゆっくりとした動作で拾うと、
大切そうに胸元へ仕舞う。
「では、行きましょうか。【麻癒(まい)】を迎えに・・・・・・。」
ふわりと、舞うように麻射は踵を返す。
シャラ・・・・・・・・ン・・・・・・。
後には、静寂な空間だけが残った・・・・・・・・・。