華胥の夢      





                                   第六話



        
        「だってさぁ〜。その白猫、誰かさんにベーーーーーッタリだし、大人しそうに見えても、しっかりと
        自分の意見は通すし・・・・。誰かさんそっくりだな〜と思ったら、他の名前が浮かばなくって。」
        激昂する千鶴に、総司はニヤニヤと笑いながら言う。
        「わ・・・私は別に土方さんにベッタリしてる訳では・・・・・。」
        視線をキョトキョトと彷徨わせながら、シドロモドロに言う千鶴に、総司は更に笑みを深める。
        「僕は【誰かさん】としか言ってないよ?ふーん。やっぱり君、自覚あるんだね。」
        途端、真っ赤な顔で俯く千鶴に、見かねた斎藤が総司を咎める。
        「・・・・総司。いい加減にしないか。千鶴が困っている。」
        「ええ!僕一人悪者!?それはないんじゃないかなぁ〜。第一、最初に白猫を千鶴ちゃんに
        似ているって言い出したの、一君でしょ?」
        肩を竦ませる総司の言葉に、その場にいた全員の視線が斎藤に突き刺さる。
        「いや!俺は別に千鶴が副長にベッタリとか言った訳ではなく、あまりにも美しい猫だった
        ので、千鶴に似ていると言っただけだ!!」
        焦った斎藤の直球すぎる言葉に、千鶴は更に顔を赤くさせると、居たたまれないように身体を縮ませる。
        「・・・・・斎藤。千鶴を口説くな。」
        溜息をつく土方の言葉に、斎藤は更に慌てる。
        「お・・・俺は別に口説いてなど!!」
        「はいはいはい。一君。落ち着いて〜。」
        ポンポンと斎藤の肩を叩きながら、総司はニヤリと笑みを浮かべながら土方を意味深な目で
        見つめる。そんな総司に、土方は怪訝そうな目を向ける。
        「なんだ?」
        「い〜い〜え〜?別にぃ〜?さて、真相も分かった事だし、そろそろ朝餉にしませんか?
        僕、お腹空いたんですけど。」
        総司の言葉に、ハッと我に返った近藤と井上が立ちあがる。
        「・・・・そうだな。あまりにも遅いと永倉君達が騒ぎ出してしまうな。では、行くか。トシ、雪村君。
        本当にすまなかった。」
        近藤達はもう一度土方と雪村に頭を下げると、そのまま部屋を出て行った。
        「副長、それに、千鶴、申し訳ありませんでした。」
        スッと斎藤も頭を下げると立ち上がり、そのまま部屋を出ていく。
        「・・・・それでは、私もこれで。失礼いたします。」
        そのあとを山崎も追う。
        「あ・・・あの!私もこれで失礼します!!」
        次々と人がいなくなる中、我に返った千鶴も、慌ててペコリとお辞儀すると、そのまま部屋を出て
        行こうとするが、そんな千鶴に、未だ残ったままの総司が声を掛ける。
        「あれ?千鶴ちゃん、土方さんの着替えを手伝わないの?」
        「え!?き・・・着替えですか!?」
        真っ赤な顔で固まる千鶴に、総司はキョトンと首を傾げる。
        「だってさぁ、君、土方さんのお小姓でしょ?」
        何を今さらとばかりの総司に、千鶴は更に真っ赤な顔で、オロオロと土方と総司の顔を交互に
        見る。
        「えっ!?えっ!?き・・着替えって!?」
        混乱する千鶴に、土方は深いため息をつくと、片手を振る。
        「着替えを手伝う必要なんてねぇよ。それよりも、早く広間へ行け。おかずを新八に取られても
        俺は知らねぇぞ。」
        「は・・・はい!!それでは、失礼します!!」
        その言葉に、慌てて千鶴はペコリと頭を下げると、よほど混乱しているのか、普段では決して
        しない、廊下を走り去るという行動に出た。
        「ほ〜んと、千鶴ちゃんって、可愛いなぁ〜。」
        バタバタと駆けていく千鶴の後姿を、総司は愛おしむような優しい目で見つめた。そんな総司の
        様子に、土方は不機嫌そうに立ちあがると、吐き捨てるように言った。
        「おい。あまり千鶴を玩具にするなよ。」
        「・・・・それって、どういう意味ですか?千鶴ちゃんに近づく男は許さないって事ですか?
        嫌ですねぇ〜。嫉妬深い男っていうのは。」
        不敵な笑みを浮かべて総司は土方に視線を戻す。
        「そんなんじゃねぇよ・・・・・。いいから。お前もさっさと広間へ行きやがれ!俺はこれから
        着替えるんだからよ。」
        総司に背を向けて、着替えだす土方に、総司は肩を竦ませると、は〜いと気のない返事を
        しながら、立ち上がった。
        「そうそう。」
        部屋を出て行こうとして、総司は何かを思い出したかのように、立ち止まると、肩越しに
        土方の背を一瞥した。
        「以前、姉さんから手紙がきましてね。その中で、面白い事が書いてあったんですよ。」
        そこで一端言葉を切ると、総司はクルリと身体を土方に向き直ると、両腕を組む。
        「土方さん、白い猫を飼っているんですって?」
        その言葉に、ピクリと、土方の動きが止まる。
        「姉さん、土方さんの許嫁のお琴さんから、聞いたそうですよ?」
        「・・・・・総司。」
        低く呟かれる土方の声に、総司はクスリと笑う。
        「ああ。失礼。元、許嫁でしたね。」
        「・・・・・・・・・。」
        無言のままの土方に、総司はニッコリと笑いながら「それじゃあ、先に行っています」と、
        明るい声で言うと、障子を閉め、スタスタと広間に向かって歩き出した。
        「・・・・だから、【雪村千鶴】って名前なんですよ。」
        角を曲がる時、もう一度土方の部屋に顔を向けながら呟くと、そのまま何事もなかったように
        歩き出した。
 
        



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まさかの、シリアス展開!?
いえいえ。次回はほのぼのです。(多分←エッ!)