ドーーーーン
ドーーーーン
夜空にはデッカイ花火。
海上で停泊している船からは、人々の歓声と軽快な音楽が
流れている。
そう、船の中では、世継ぎの王子の誕生日パーティが
開かれていたのだ。
「はぁあああああ。やってられないわ。」
華やかな雰囲気に、些か眉を顰めると、金の髪を結い上げ、
豪華なドレスを見に纏った女性は、人知れず甲板へと
上がる。王子の誕生日パーティと銘打ったお見合い会場に、
嫌気が差したのだ。
「何故、私まで参加しなければならないのかしら。」
ブツブツ文句を言いながら、テクテクと甲板を歩いていくと、
どこからか、美しい歌声が聞こえ、女性は、ハッと足を止める。
「なんて綺麗な声なの・・・・・・。一体どこから・・・・。」
キョロキョロと辺りを見回すが、それらしき人物はいない。
不審に思って、何の気なしに、船の下を除いてみると、
その光景に、女性は息をするのも忘れるほど魅入ってしまった。
まるで太陽の如く輝く黄金の髪。
触ったらきっと絹の如く滑らかそうな白い肌。
じっと食い入るように月を眺めている黄金の瞳。
そして、可憐な歌声に合わせるかのように、揺れる尾ひれ。
岩場に座っている可憐な少女は、伝説の生き物とされている
人魚であった。その事に驚きつつも、女性は人魚から目が離せない。
船の上からじっと見られているとも思わず、人魚は、目をキラキラ
させて、食い入るように月を見ていた。
「何て可愛いのかしら!ああ!着飾らせたい!!」
女性は、もっと人魚を見ようと、思わず身を乗り出すように
手すりに手をかける。
「誰?」
視線に気づいた人魚と眼が合った女性は、慌てて声をかける。
怯えて海の中にでも入られたら大変だ。
女性は、努めて優しく微笑みながら、穏やかに声をかける。
「怯えさせてごめんなさい。とても素晴らしい歌声が聞こえた
ものだから・・・・。私はゼノタイム王国の第一王女、
リザよ。あなたは?」
「へ?俺・・・?えっと・・・・・俺はエドワード。」
キョトンとリザを見上げながら、エドはシドロモドロに答える。
突然の事に、頭が付いていけず、ポカンとしているエドの
様子に、リザはシメシメと思いながら、更に言葉を続ける。
何としてもこの少女と親しくならなければと、リザは燃えに燃えて
いた。
「そう!とても可愛らしい名前ね!!」
ニコニコと微笑むリザに、エドの警戒心も解けてきたのか、
ニッコリと微笑み返す。
”可愛い!是非私の妹にしたい!!”
昔からリザは妹が欲しかったのだ。
だが、実際には、性格がひねた第一王子と性格の大人しい
第二王子しかおらず、日々この満たされない思いを、
持て余していたのだ。最も、王子たちにしてみれば、
物心つく前から、リザに着せ替え人形のごとく
ドレスを着せられ続けてきたのだから、そりゃあ、性格も
捻くれたり、大人しくもなるというものだ。だが、そんな
事とは気づかないリザは、自分の弟のくせに
可愛くないと不服だ。せめても、自分の眼鏡に適う義妹候補が
いるかもと、第一王子のお見合いパーティーに少し期待して
出席したのだが、リザの気に入る姫が居なかったため、
更に機嫌を損ねていた。しかし、ここで運命の出会いを
果たしたリザは、機嫌は最高潮に達していた。
「ねえ、ねえ、今日は何でこんなに賑やかなんだ?」
最初は恐がっていた花火の音だったが、夜空に浮かび上がる
花火と船から流れる明るい曲に、エドは何だかとても楽しく
なり、丁度あった岩場に腰を降ろして歌っていたのだ。
好奇心に勝てず、事情を知っているであろうリザに、
エドは眼をキラキラさせて尋ねる。
「それは、今日はラッセル・・・私の弟の誕生日だからよ。
今、パーティーを開いているの。」
騒がしくてごめんなさいね。と謝るリザに、エドは、
好奇心一杯の目を向ける。
「誕生日!?俺と一緒!!」
「まあ!そうなの!?お誕生日おめでとう!!」
ビバ!よくぞ一緒の誕生日になってくれた!
と心の中でリザはラッセルに礼を言う。これで会話も弾むと
いうものだ。
「ありがとう。ところで弟って、いくつ?俺今日で16歳になったんだ!」
ニコニコと笑うエドに、リザもニコニコと笑う。
「あら。では一歳年下になるのね。」
「じゃあ、アルと同じだ!」
ポンと手を叩くエドに、リザの目が光る。
「アル?」
「うん!俺の弟!俺の一歳下なんだ〜。」
とっても可愛いんだよとへにゃあ〜と笑うエドに、リザは
慎重に言葉を選ぶ。
「そう。是非逢ってみたいわ。さぞや素敵な子なんでしょうね。
弟はもう一人いて、その子は14歳なの。きっと話も合うと
思うわ。」
「リザさんて、三人兄弟なの?俺のとこ二人なんだ〜。」
羨ましいというエドに、リザは今だ!と眼を光らせる。
「うふふ。弟二人は、可愛いけど・・・・・。」
そこで言葉を切ると、リザはじっとエドを見つめる。
”ここでヘマをする訳にはいかない。”
一世一代のこの場面に、リザは気合を入れる。
「本当は、妹も欲しかったのよ・・・・・。」
フッと憂いを帯びた顔をするリザに、エドは、一瞬キョトンと
なるが、直ぐに華も綻ぶ笑顔を向ける。
「そうなんだ〜。俺はお姉さんが欲しかったんだ。」
その言葉に、リザの脳裏には高らかに祝福の鐘が鳴り響く。
”ターゲットゲットオン!!”
リザは不敵な笑みを浮かべるが、遠目でエドは気づかない。
それをいい事に、リザは、さも今思いついたように、
両手を叩く。
「そうだわ!妹の欲しかった私と姉が欲しかったエドワードちゃんが
出会ったのも、何かの縁だわ。」
いや、それはないからというツッコミをする人間は、
この場にはいない。話はリザの思う通りに進んでいく。
「どうかしら。私の妹になってくれないかしら?」
「ほええええええええええ!?」
そりゃあ驚くだろう。
何せ、逢ったばかりだ。
思ってもみなかった事を言われ、エドは意味も無く
岩場の上であたふたしている。
「そんなに驚かなくても・・・・・。ただ、弟と同じ誕生日の
あなたが、なんだか妹のような気がして・・・・・。」
そして、そっとため息をつく。
勿論、演技だ。
「折角知り合えたのですもの。姉と妹のように、
仲良くして欲しくて・・・・・・。」
いきなりで驚かせてしまったのね。ごめんなさい。
神妙な顔で頭を下げるリザに、驚いたのはエドだった。
なんせ、海の仲間達から散々人間についての
悪口を聞かされていたからだ。
人間とは自分勝手で傲慢で、自分達以外の生物を
軽んじる傾向がある。それに、自然破壊を繰り返し、
同族同士殺しあっている。などなど、エドに地上への
興味を失くすように、皆が口を揃えて言い聞かせたのだ。
”そっか・・・人間にも良い人間と悪い人間がいるんだな。”
先入観で見てしまって、悪い事をしたと、罪悪感で一杯の
エドは、慌ててリザに話しかける。
「ごめん!別に嫌って訳じゃあ・・・・・・。」
「ならいいのね!!」
リザの嬉しそうな声に、エドはそれ以上言えず、恐る恐る
頷く。
「えっと・・・その、リザさん?」
「エドちゃん!姉と呼んでも良いのよ!」
私とあなたは既に姉妹なのだから!と嬉々として言うリザに、
多少引き攣りながらも、健気なエドは言い直す。
「えっと・・・リザ姉様・・・・・?」
「なぁに?エドちゃん!」
うふふふふふ。可愛い妹GET!と喜んでいるリザとは
対称的に、エドはどこか暗い。
「俺・・・・人魚なんだ。」
「ええ。知っているわ。それが何か?」
しっかり尾びれを見ているリザは、何を今更と首を傾げる。
「俺、海の中でしか生きられないし・・・リザ姉様と
あまり一緒にはいられないと・・・・・・。」
シュンとなるエドに、リザはブンブン首を横に振る。
冗談じゃない。折角理想の妹を見つけたのだ。
ここで逃がしてはならないと必死にエドを説得する。
「エドちゃん!そんな事なんの問題もないわ!
うちの城は、海と直接繋がっているから、何時でも
遊びに来てOKよ!それに!私はこう見えてもボートを
漕ぐのも泳ぎも得意なの。一緒に海でも遊べるわ!」
必死の形相のリザに、最初はションボリしていたエドだったが、
だんだんと笑みを浮かべてきた。
「ありがと・・・。リザ姉様。」
ニッコリと微笑むエドに、リザはホッと胸を撫で下ろす。
取り合えず、当面の危機は去って、リザは安堵のため息を洩らす。
「そうだわ。今からボートを下ろすから、待っててね。」
そうと決まれば、もっとエドに近づきたい。
そう思い、リザは踵を返そうとした。しかし、いきなり降りだした
雨に、困惑気味に空を見上げる。
「どうして?先程まであんなに天気が良かったのに。」
急に鳴り出した神鳴と立っていられない程の横殴りの雨に、
リザは慌てて手すりに捕まったが、とき既に遅く、大波に揺れた
船から、リザは暗い海へと投げ出された。
「リザ姉様!!」
エドは絶叫すると、慌ててリザを助けるべく、海に飛び込んだ。
「ああ!!エドワードはまだか?まだ戻らんのか!!」
海の底では、海王ホーエンハイムが心配のあまり、
玉座の前で、ウロウロしていた。
「大丈夫だ。先程海の上に嵐を呼んでおいた。
つまらなくなって、そろそろ戻ってくるだろう。」
心配げなホーエンハイムとは、対称的にイズミはニヤリと笑う。
そこへ、護衛として、影でエドを見守っているはずのブロッシュが
慌てて飛び込んできた。
「大変です!姫様が、海に落ちた人間を助けて、陸地へと
向かいました!!」
「何だと!!それで、場所は?ゼノタイムだろうな!
まさか、焔国ではあるまいな!!」
どうなんだ!とブロッシュの肩を揺さぶるホーエンハイムに、
イズミの容赦ない一撃が炸裂する。
「落ち着かんか!で?今エドはどこに?」
ギロリンとイズミに睨まれ、ブロッシュは涙ながらに答える。
「そ・・・それが見失いました。」
「な・・・なにぃぃぃぃぃいいいいいいいいい!!」
素早く復活したホーエンハイムは、キビキビと命令を出す。
「第一部隊はこの近辺を。第二部隊はゼノタイム付近を。
そして、第三から第五部隊は、焔国付近を徹底的に
捜すのだ!決してエドワードとあの王子を合わせてはならん!
場合によっては、戦闘になっても構わん!
いいか!エドワードを無事連れ戻すまで、誰一人として
帰ってくることはならんぞ!!」
吼えるホーエンハイムに、海の住人達は、一斉にオオーッと
拳を振り上げる。
我らが姫を取り戻す!
皆の瞳に焔が点った。
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リザさんの性格が変!
しかし、これくらいでないと、あの人に対抗できないんです・・・・・。
そして、次回はいよいよ・・・・・・。