リトル・まぁあめ(豆)エド

                    第4話

 

 

             「おーい、エド姫。エド姫。」
             ホーエンハイムが部屋を出て行き、これでリザの所へ
             遊びに行けると、上機嫌のエドは、聞き覚えのある声に、
             後ろを振り返る。
             「ピットじゃねーか。どうしたんだ?」
             まるで何かから隠れるように、ピットは、物陰から顔だけ出すと、
             エドを手招きをしている。そんなピットに、エドは訝しげに
             思いつつも、側に寄ると、ピットを手の上に乗せる。
             「ピット?具合でも悪いのか?」
             どこか焦点の合っていないぼんやりしているピットに、エドは
             不安そうな顔で尋ねる。
             「あのさ、あのリザ姫のトコに、遊びに行くんだろ?」
             だがエドの心配をよそに、ピットは、無表情にエドに尋ねる。
             「あ・・ああ、そうだけど・・・・・・。」
             それがどうかしたのか?
             訝しげなエドに、ピットは、感情の篭らない目を向ける。
             「人間にならないのか?」
             「へっ?」
             ピットが何を言おうとしているのか、分からずエドはキョトンと
             首を傾げる。
             「人間になりさえすれば、リザ姫も喜びと思うぜ?」
             ピットの言葉に、エドの耳がピクピク動く。
             「リザ姉様が喜ぶ・・・?」
             「ああ。姫だって、折角地上に上がるんだ。人間になれば、移動するにも
             楽だし、何よりも、リザ姫とずっと一緒に居られるんだぞ。」
             ピットの言葉に、エドは思いつめたような顔で考え込む。
             そんなエドに、ピットは更に言葉を繋げた。
             「そんなに深刻に考えなくてもいいんじゃないか?例えば、
             期間限定で人間になれるとか、出来ないのか?」
             その言葉に、ハッとエドは顔を上げる。
             「そっか!地上にいる間だけ人間になればいいんだ!よし!
             オレ、師匠(せんせい)に聞いてくる!!」
             そう言って、部屋を飛び出すエドを、ピットはまるで人形のように
             魂の篭らない瞳で見送った。



             

             「エドが人間になりたがっているというのは、本当か!!」
             イズミの元に、ホーエンハイムが血相を変えてやってきた。
             「なんだ。情報が早いな。」
             対するイズミは、呆れたような顔でホーエンハイムを
             出迎える。
             「そんな!私のエドが!エドが!!」
             うろたえるホーエンハイムに、イズミの鉄拳が飛ぶ。
             「落ち着け。リザ姫の元に遊びに行っている間だけ、
             人間になるだけだ。」
             その言葉に、ホッとしつつも、直ぐに心配そうな顔で
             イズミに懇願する。
             「しかし、いくら期間限定でも、人間にでもなってしまったら、
             今度こそ、あのロイ王子がエドを浚ってしまうのでは?」
             きっと直ぐに孕まされて、そのまま強引に結婚へと持っていかれて
             しまう!!そうなっては、私は生きてはいけない!と、
             身悶えしながら、ホーエンハイムはイズミに訴える。そんな
             ホーエンハイムに、イズミはニヤリと笑う。
             「落ち着け。大丈夫だ。そんなこともあろうかと、ある仕掛けを
             施しておいた。例え、人間になったエドとロイ王子が出会っても、
             簡単には手出しできないようにな・・・・・。」
             フフフフ・・・・・・・。
             不敵に笑うイズミに、ホーエンハイムは、背筋が凍るのを感じた。
             





             夜明け前、エドとピットは、海の宮殿から抜け出すと、一路陸へと
             目指す。一度しか陸に上がった事がないエドは、ピットの案内で、
             大きな砂浜へと辿りついた。
             「あれ?ここって、ゼノタイム国なのか?この間の焔国の浜辺に
             似ているけど・・・・。」
             キョロキョロと辺りを見回すエドに、ピットはため息をつく。
             「浜辺なんて、どこも一緒だ。それよりも、さっさと始めようぜ。」
             ピットの言葉に、エドは持っていた大きな紙を浜辺にそっと置く。
             「なあ、ピット。みんなに黙って出てしまって、大丈夫だったのかなぁ。」
             心細そうに、エドはピットを見るが、ピットは無表情のまま答える。
             「人間になって、リザ姫を驚かせるんだろ?」
             「そりゃ・・・そうだけど・・・・・。ところで、ピット、どこか具合でも悪いのか?
             いつもと全然様子が違う・・・・・。」
             心配そうな顔のエドに、ピットは何も答えずに、イズミから渡された
             練成陣が書かれた紙を、砂浜に黙々と広げる。
             「ピット?」
             不気味なまでに淡々と紙を広げるピットに、エドは本能的に恐怖を感じ、
             思わず海に帰ろうと踵を返そうとするが、その前に、ピットの声が
             聞こえてきた。
             「ほら。敷いたぞ。」
             早くしろと急かすピットに、エドは怯えながら錬成陣の上に乗っかる。
             「よし!」
             これもリザと遊ぶためと、恐怖に震えながら、パンと両手を錬成陣の
             上に置いた。途端、錬成陣から放たれる青白い光に包まれたエドを、
             ピットはボンヤリとした目で眺めていた。