リトル・まぁあめ(豆)エド

                    第5話

 

 

            「何じゃこりゃあああああああああ!!」
            練成の光が収まり、自分の姿を見回していたエドは、
            悲鳴を上げる。
            イズミから人間の足を手に入れるには、それ相当の
            代価が必要だと言われたエドは、一瞬躊躇するが、
            それよりも人間の足を手に入れられるという甘い誘惑に
            勝てずに、練成を行ったのである。
            目が見えなくなったわけではない。
            耳が聞こえなくなったわけではない。
            声もちゃんと出る。
            腕もある。
            尾びれの変わりに人間の足。
            練成は成功した。
            そう喜んだのも束の間、エドは自分が命よりも大事なものが
            代価とされている事に気づき、絶叫を上げたのである。
            エドの命よりも大切なもの。
            すなわち、身長。
            只今、エドの身長は、一寸法師並に縮んでいた。
            「何で・・・。どうして・・・・・・。」
            エドは悲しくてシクシク泣き出します。
            確かに、多少のリスクは仕方がないと腹を括っていた
            エドだったが、それでもこれは代価の取り過ぎだろうと、
            またもや涙が溢れ出す。
            「どうしよう。これじゃあ、リザ姉様のトコに行けない・・・・。」
            こんな姿では、返ってリザに心配をかけてしまう。
            「そうだ!困ったときは、これを開けろって、言われたんだっけ!」
            唐突に、イズミから渡されたハマグリの事を思い出し、浜辺に
            置きっぱなしにしていたハマグリの所まで、エドは、歩き出そうと
            するが、生まれて初めてで歩けるはずもなく、2・3歩ヨロヨロと
            歩いたが、直ぐに倒れこんでしまった。
            「ふえっ・・・・・・。どうしよう・・・・・。」
            転んだままシクシク泣いていると、遠慮がちな声に、エドは顔を
            上げる。
            「エディ・・・?」
            見ると、以前会った事があったロイが、困惑した顔で佇んでいた。
            「エディ?その姿は・・・・・・。」
            「うわああああああああああん。ロイ〜!!」
            知り合いに出会えた喜びと自分の現状に、エドは壊れたように
            泣き出すのだった。





             「落ち着いたかい?エディ?」
             大泣きするエドを、ロイは壊れ物を扱うように、優しく手のひらに
             乗せると、労わるように訳を聞きだした。
             「つまり、人間になりたくて錬金術を行った結果、代価として
             身長を持っていかれてしまったと・・・・・。」
             ロイの言葉に、エドはクスンクスンと鼻を啜りながら、神妙な
             顔で何度も頷くエドの頭を、ロイは人差し指で優しく撫でる。
             「可哀想に・・・・。辛かったね。」
             「ふええええん。ろい〜。」
             ロイの優しい言葉に、エドはロイの人差し指に抱きつきながら、
             大声で泣き出す。再び泣き出したエドを慰めながら、チラリと
             ロイは練成陣を見る。
             ”なるほど・・・・・。期間限定で背を小さくするのか・・・・・。”
             これでも錬金術師。練成陣の内容を正確に把握したロイは、
             エドに気づかれないように、こっそりと笑みを浮かべる。
             当初の予定とは違ってしまったが、これはこれでオイシイ展開だと
             ロイは信じてもいない神に感謝したくなる。
             「そうだ!ロイ!そのハマグリを取ってくれ!」
             どうやってエドを城へ連れて行こうかと考えていたロイは、エドに
             声を掛けられて我に返ると、足元に転がっているハマグリを
             拾い上げる。
             「これかい?」
             「おう!サンキューな!師匠(せんせい)が、何か困った事が
             あれば、開けてみろって言ったんだ!きっと元に戻れる!!」
             嬉々としてハマグリを開けるエドとは対称的に、ロイはつまらなそうな
             顔をする。折角手のり文鳥サイズになったのだ。このまま有無を
             言わさずお持ち帰りしようかと本気で思った。
             「な・・・なんで・・・・・。」
             「ほう?これは、また用意周到な・・・・。」
             ハマグリを開けてガックリと肩を落とすエドに、追い討ちを掛けるように
             ロイはニヤリと笑う。ハマグリの中身は、縮んだエドの為の衣装が
             これでもかというくらいに、詰められていたのだった。
             「せ・・・師匠・・・。最初から知っていたんだな・・・・。」
             フルフルと肩を震わすエドに、ロイは今がチャンスとばかりに、
             話しかける。
             「それで、これから君はどうするつもりだい?」
             その言葉に、ピクンと肩を震わせると、エドは泣きそうな顔でロイを
             見上げる。その顔に、なんて可愛いんだと、内心悶えながら、
             表面上は優しく微笑みかける。
             「君さえ良かったら、私の城に来ないか?」
             「ロイの・・・?」
             迷惑じゃない?と可愛く首を傾げるエドに、ロイはとんでもない!と
             首を横に振る。
             「これでも、私は錬金術師でね。城には錬金術の資料が沢山ある。」
             その言葉に、エドの顔がぱぁああと明るくなる。
             「君を必ず戻してあげよう。だから、私と一緒に来るね?」
             最後は強制的だが、元の身体に戻れるかもしれないという可能性に、
             エドの目に焔が点った。
             「オレ!ロイの世話になる!!」
             「では、連れて行こう。我が城へ。」
   



             こうして、ロイは愛しい人魚姫のお持ち帰りに成功したのである。