「・・・・・なんですって?もう一度おっしゃってくださらない?」
ゴゴゴゴゴ・・・・・という地鳴りが聞こえてきそうなくらい、
超不機嫌な真っ黒なオーラを醸し出しながら、リザは
海の王国の使者に、凄んでみせる。
「あ・・・あの!その・・・・。」
ビビル使者に、リザはニッコリとまでに凶悪な笑みを浮かべながら
低く呟く。
「エドワードちゃんが、あの無能ロリコン王子に連れ去られたと
聞こえたのだけど・・・・・。」
私の気のせいよね?
フフフ・・・・と、愛銃をちらつかせながら、リザは凄んでみせる。
あのエドワードが自分の所へ遊びに来ると約束してくれてから、
既に1ヶ月が経っていた。怪我がそんなに酷いのかと
心配していたリザの元に舞い込んできたのは、一週間前から
エドが行方不明になっているという知らせだった。しかも、
エドを連れ去ったのは、隣国の王子、ロイ。
これでキレるなと言う方が酷と言うものだ。
「それで?どうしてあの水が弱点の王子が、エドワードちゃんを
連れ去る事が出来たのかしら?」
どう考えてもおかしいと言うリザに、使者には、シドロモドロに
事の成り行きを説明する。
「どうやら、我々の仲間の一人を、錬金術で操っていた
ようです。」
その言葉に、ピクリと反応する。
「もっと詳しく話して頂戴。」
殺気だった目に使者は、コクコクと頷くと、今までの経緯を
詳しく語って聞かせた。
最初にエドがいなくなったことに気づいたのは、教育係の
マリア・ロスだった。夜が明けてエドの元に訪れると、
ベットの中がものけの空になっていたのだ。
確かに、ここ数週間、エドはリザの所へ遊びに行きたがって
おり、それを許そうとしないホーエンハイムに軟禁されて
いたのだが、とうとうホーエンハイムが折れたことで、
和解が成立しているのだ。エドが勝手にいなくなる理由が
ない。絶対に何かがある!そう確信したマリアは、慌てて
ホーエンハイムへと報告したのだ。
すぐさまエド捜索隊が組まれたのだが、ようとして、エドの
行方は分からなかった。そんな中、焔国の砂浜で、
エドの幼馴染でもある、ヤドカリのピットが保護された。
空ろな目をしており、様子がおかしいピットに、もしかしたら
エド失踪と何か関係があるのかと、急いでホーエンハイムの
元へと送られた。すぐさま海の魔女である、イズミも
駆けつけて調べた結果、驚くべき事が判明した。
なんと、ピットと思われていたものは、実は、練成によって
作られた人形で、作り主の意思に通りに動くものだった。
「これほど見事なからくり人形を作れるほどの錬金術師と
言えば、ロイ王子しかないだろうな。」
人形ピットを繁々と見つめながら、そうイズミは断定した。
「つまり、ロリコン王子が、ピット人形を使って、エドワード
ちゃんを言葉巧みに連れ出したと・・・・・。」
ギリリリと唇を噛み締めながら、リザは悔しそうに呟く。
そして、次の瞬間、ハッと青褪めた顔になった。
「ということは、もしかして、既に手遅れになっているのでは!!」
何という事だ。あの可愛いエドワードが既に変態の毒牙に
かかっているのかと思っただけで、リザは目の前が真っ暗に
なった。
「ご安心を!リザ姫!今の姫様は、手のひらサイズです!!」
いくらロイ王子でも、手は出せないでしょう!と胸を張って
答える使者に、ホッと胸を撫で下ろしながら、ふとリザは
疑問に思う。
「手のひらサイズ?」
「はい!姫様がどうしても人間になりたいとおっしゃったので、
万が一の事を考えて、錬成陣に細工を。」
期間限定で、身体を手のひらサイズにしたのだという言葉に、
リザはピクリと反応する。
「期間限定ですって?それはどれくらいなの?」
「確か、二週間ほどと聞いております。」
その言葉に、リザは青くなる。
「なんですって!エドワードちゃんが失踪してから一週間という
事は、元に戻るまであと一週間しかないってことじゃない!!」
急に叫びだしたリザに、使者はオロオロし始める。
「こうしてはいられないわ!一刻も早くあの変態ロリコン王子から
エドワードちゃんを救わないと!!」
きっと術が切れた瞬間、手を出すに決まっているのだ。
大事な妹分を、あんな変態にやる訳にはいかない!!
リザは俄然闘志を燃やした。
「今すぐ焔国へ行きます!!支度を!!」
リザの声が城中に響き渡った。
「・・・・ロイ・・・・。」
「ん?どうしたんだい?エディ?」
パクンと小さな口を開けて、ロイのスプーンで、一緒に
クリームシチューを食べていたエドは、深いため息と
共に、肩をガックリと落とす。そんなエドの姿に、
ロイは、慌ててエドの顔を覗き込む。
「オレ・・・・。元の身体に戻るかなぁ・・・・。」
あれから一週間が過ぎても、元の身体に戻る糸口さえも
見つけられず、エドは精神的にもかなり参っていた。
「すまない。私が不甲斐無いばかりに・・・・。」
途端、悲しそうな顔をするロイに、エドは慌てて顔を上げると、
ふるふると首を横に振った。
「違う!ロイはお仕事忙しいのに、オレの為に、
一生懸命してくれているじゃないか!!」
そう言って、エドはロイの指にしがみ付く。
「エディ・・・・・。」
「ごめん・・・。オレ、弱音を吐いた。でも、もう大丈夫だから。」
涙で濡れた瞳を見上げて、ニッコリと微笑むエドに、ロイは
罪悪感で一杯になるが、これも全て自分とエドの結婚の為と
心を鬼にする。
「あと少しなんだ。あと少しで完成するんだ。」
もう少し待てるね?と優しく問いかければ、愛しい少女は、
コクンと首を縦に振る。
実際、ロイは既にエドを人間にする為の錬成陣をイズミの
書いた錬成陣を参考にして、既に完成させていた。
後は、術が切れるのを待つだけだ。術が切れた時、素早く
エドを自分が作った錬成陣の中に放り込み、そのまま結婚式を
挙げてしまう計画を立てており、全て手配済みだ。
後は、エドをこの城に引き止めれば、完璧だ。
「そうだ。気分が滅入ったのなら、少し遠乗りにでも行かないか?
気分転換は大事だよ?」
ただ単に、エドとデートがしたくて、ロイはそんな事を言う。
「でも・・・ロイ、お仕事忙しいでしょ?」
不安そうな顔で見上げるエドの瞳に、ロイはそのまま
押し倒したくなるが、流石に今のエドの大きさでは、あーんなことや
こーんなことは出来ない。
”くそーっ!!あと一週間の我慢だ!!”
あと一週間もすれば、この黄金の存在は、自分のもの。
それまでの辛抱だ!!と、必死に心の中で言い聞かせながら、
ロイは、エドの身体を引き寄せると、その耳元で囁いた。
「仕事は大丈夫だよ。それよりも、折角地上にいるんだ。
君に少しでも地上の事を見せてあげたいんだ。」
「ロイ・・・ありがとう。」
パッと花が綻ぶように笑うエドに、ロイは気づかれないように、
ニヤリと笑う。
”絶対に手放さないけどね。”
地上の美しいものを見せ、海の底に帰りたくないと思わせる
作戦だ。勿論、自分との親密度を上げるためにも、是非とも
明日のデートを成功させようと、ロイは決意を新にした。