リトル・まぁあめ(豆)エド

                    第7話

 

 

            


            その日、焔国の王城では、史上最悪の事態になっていた。
            「ですから!それは誤解です!!」
            朝一番で城に殴り込みをかけたリザは、これ以上はないと
            いうほど、不機嫌も露な顔で、目の前の玉座に座っている
            この国の王を睨みつける。
            エドを救出するために、乗り込んだのだが、国王に気に入られ
            てしまい、来週にでもロイとの結婚をするようにと命じられて
            しまったのだ。それには、ロイも慌ててリザを庇う。
            エドとの薔薇色の未来を潰されてたまるか!とばかりに、
            共通の敵を前に、二人は急遽同盟を組む事にした。
            「そうです!それは私も保証します!」
            リザの隣に立つ、この国の王太子であるロイも、
            リザを援護するように、王に鋭い視線を向ける。
            「ふむ。庇いあう姿の美しい事よ・・・・・。やはりこの縁組は
            成功だな!」
            ガハハハハと大声で笑い出す王に、リザとロイの怒鳴り声が
            ハモる。
            「「違う!(ます!!」)」」
            息のピッタリと合った二人の言葉に、王・・・・キング・ブラッドレイは、
            満足そうに頷くと、ゆっくりと玉座から立ち上がり、ロイに
            近づく。
            「婚約者同志の愛の語らいを邪魔するほど、私は無粋な人間では
            ないのだよ。ロイ。さて、邪魔者は退散しようかね。」
            その言葉に、ロイは眉を顰める。
            「ですから!その事は何度も断っています!」
            ロイの傍らでは、その通りだとリザはぶんぶん首を縦に振る。
            「そう照れるのものではないぞ。ロイ。そして、リザ姫。」
            だが、あくまでもマイペースなキングは、上機嫌だ。
            「嵐にあって浜に打ち上げられたリザ姫を、ロイが優しく介抱して
            愛を育んだのであろう?助けてくれた礼に嫁になる。御伽噺の
            セオリー通りだが、そこに愛があれば・・・・・。」
            キングの言葉は、リザの絶叫が遮る。
            「それが誤解です!!私を助けてくれたのは、エドワードちゃんです!
            この無能ではありません!さぁ、私の命の恩人であるエドワードちゃんを
            お返し下さい!!私は助けて頂いたお礼にエドワードちゃんを幸せに
            するのです!!」
            リザの言葉に、ロイは反論する。
            「待ちたまえ!!君を助けたのは、ハボックだ!それに、私が助け
            たのは、エディだ!よって、エディは私と結婚するのが正しいのだ!!」
            共通の敵を前に、急遽同盟を組んだロイとエドだったが、所詮
            エドを間に挟んでのライバル同士。同盟はあっけなく崩壊する。
            「しかし、お前はリザ姫と結婚する為に、準備をしているではないか。」
            驚かせる為に隠したい気持ちは判るが・・・というキングの言葉に、
            リザはギロリとロイを睨みつける。
            「王子!まさか・・・・・・。」
            「フッ。真に愛する者同士が結婚してなにが悪い?」
            不敵な笑みを浮かべるロイに、リザが文句を言おうと口を開くよりも
            先に、キングが横から口を出す。
            「ふむ。漸く認めたか。では、リザ姫、末永くロイと仲良くしてほしい。」
            キングは、ニコヤカにそう言うと、ロイの肩にチョコンと乗っている
            エドに微笑みかける。
            「海神ホーエンハイム様のご息女とは存じ上げず、ご無礼を。」
            そう言って、キングはさっさとエドを抱き上げる。
            「父上!!」
            愛するエドを奪われ、ロイの顔がサッと強張る。しかし、そんな
            ロイを無視して、キングはエドに話しかけながら、スタスタと歩いていく。
            「おお!何と愛らしい姫だ。どうかね。息子のセリムの嫁に
            なってくれないかね?」
            「ふえっ!?」
            突然の事に驚くエドに、キングはニコニコと微笑む。
            「そうだ、これからセリムに逢わせよう!」
            いい考えだ!とはしゃぐキングだったが、次の瞬間、手の中の
            エドをロイに奪われ、不服そうに顔を歪める。
            「エディは私の妻となる身。例え父上でも許しませんよ。」
            そう低く呟くと、ロイはエドを手の中に閉じ込めたまま、謁見の間を
            飛び出していく。
            「お待ちなさい!!エドワードちゃんを返しなさい!!」
            その後を、慌ててリザが追う。折角エドワードと出会えたのだ。
            逃がしてなるものかと、その表情は凄まじい。
            嵐のように二人が去っていった後、キングはニヤリと笑いながら
            玉座の方を振り向く。
            「どうやら、ロイは本気のようですが?」
            玉座の後ろのカーテンから出てきたのは、苦虫を噛んだように
            眉間に皺を寄せた、ホーエンハイムだった。
            「ふん!あの王子の気持ちなどどうでも良い!!エドワードを
            早く解放しろ。可哀想に、あんなにやつれて・・・・・。」
            やつれたのではなく、ただ単に小さくなっただけなのだが、
            眼にビッシリと鱗が張り付いているホーエンハイムには、
            エドが人間になって途方にくれた様に見えていた。
            だが、のほほんとしていても、一国の王。相手が神であろうが
            怯む事はない。
            「では、エドワード姫が承諾すれば、この婚儀を認めて
            貰えるのですね?」
            ピカリンとキングの隻眼の瞳が光る。
            「そんな事は万に一つもないが・・・・・。エドワードがそう言うので
            あればな。」
            どう見ても、エドはロイよりもリザの方に懐いていると
            言うホーエンハイムに、キングはニヤリと笑う。
            「来週が楽しみですなぁ・・・・。」
            果たして、来週のロイの結婚式でロイの横に立つのは、
            一体誰なのか。
            未来の義娘を思い浮かべて、キングは不敵な笑みを浮かべた。