リトル・まぁあめ(豆)エド

                    第10話

 

 

            「うぎゃあああああああああ!!」
            「アル!?」
            いきなり飛び起きたアルに、側についていたウィンリィは、
            慌ててアルの顔を覗き込む。
            「こ・・ここは・・・ボクの部屋・・・?」
            大量の汗を流しながら、ぼんやりと、部屋を見回している
            アルに、ウィンリィの容赦のないスパナが振り下ろされる。
            「あ・・・危ないじゃないか!!ウィンリィ!!」
            間一髪でウィンリィの攻撃を避けたアルは、ベットの影に
            隠れながら、ウィンリィに抗議する。
            「危ないじゃない!!エドは一体どうしたのよ!!」
            ウィンリィの言葉に、アルはハッと我に返ると、ブルブルと
            震え出す。
            「ねえ・・・さん・・・は・・・・・・。」
            「ア・・・アル・・・?」
            真っ青な顔のアルに、ウィンリィは訝しげに眉を顰める。
            「姉さん・・・・・うわぁあああああああああああ!!
            ウソダァアアアアアア!!」
            「アル!!」
            急に両手で頭を抱え込んで、嘘だ嘘だと絶叫するアルに、
            ウィンリィは、驚いて、アルの身体に触れようとするが、
            その前に、アルの頭をサンダルが直撃する。
            「うるさいぞ!アル!!エドはどうした!!」
            部屋の入り口で仁王立ちしているのは、魔女イズミだ。
            イズミは、ツカツカとアルの目の前まで近づくと、
            アルの目の前をプカプカ漂っている自分のサンダルを
            掴み、再びそれでアルを強打する。
            「せ・・・師匠〜。」
            酷いです!!と、涙目のアルに、イズミは、冷やか眼で
            見下ろす。
            「言え。一体、何があった?」
            低く呟くイズミの声に、アルは漸く冷静になった頭で、
            ポツリポツリと話し出す。
            何とか姉を見つけ出し、連れ出そうとしたが、
            ロイに見つかってしまった事。
            そして、姉の爆弾発言。
            「ね・・・ねえさん・・・・既に妊娠・・・・・。」
            エグエグと泣き出すアルの頭を、再びイズミのサンダルが
            直撃する。
            「あほか!そんなに早く妊娠している事が発覚するかっ!
            第一、今のエドは文鳥サイズだ!!」
            そこで、漸く自分が騙された事に気づいたアルは、
            今度は別の意味で青い顔をする。
            「ど・ど・ど・ど・どうしましょう!!早くしないと、術が解け!!」
            「とりあえず、もう一度鎧にお前の魂を定着させるぞ!」
            イズミは、舌打ちすると、両手をパチンと鳴らしてから、
            床に手を置く。すると、床から鎧がムクムクムクと出現する。
            今度は、文鳥サイズではなく、2mはあろうかという、
            巨大な鎧だった。
            「せ・・・師匠・・・。これは・・・・。」
            あんぐりと、大きな鎧を見上げるアルに、イズミは、頭を
            ガシガシ掻きながら、ため息をつく。
            「明日、エドの術が解けて、元の人魚に戻るからな。
            もしも、王子が何かを仕掛けるとしたら、その直後だろう。
            そうなった時、いち早くエドを担ぎ上げて海に戻るには、
            このサイズでなければならん。」
            イズミは、ポンとアルの両肩に手を置く。
            「エドがここに戻ってこれるかは、全てお前に掛かっているんだ。」
            頑張れるな?と真剣な眼差しのイズミに、アルは神妙な顔で
            大きく頷く。
            「はい!任せて下さい!必ずや姉さんを連れ戻します。」
            頼もしいアルの言葉に、イズミは満足そうに頷きながらも、
            心を覆い隠すような不安は、晴れなかった。
            「エド・・・・。何事もなければいいが・・・・。」
            再び鎧に魂を定着させたアルが、頑張るぞー!と片手を振り上げながら、
            ガッションガッションと走り去っていく後姿を見送りながら、イズミは
            低く呟いた。





            「エディ・・・。いよいよ明日だ・・・・。」
            スピョスピョと眠っている、可愛らしいエドの寝顔を見ながら、ロイは
            うっとりと呟く。明日はいよいよエドの術が切れる日。
            その前に、何としてでも自分に都合の良いように、事を運ばなければ。
            「エディ。私の花嫁・・・・。」
            そっとエドに口付けしながら、ロイは明日の決戦を見事制してみせると、
            不敵に笑った。
            


             




             「あの無能なんかに、私のエドワードちゃんを渡すものですか。」
             月明かりの中、リザは愛用の銃を念入りに手入れをする。
             話によると、明日は、エドの術が切れる日だという。
             あの無能王子が、絶対に何かを仕掛けるはず!
             この銃にかけても、絶対にエドワードちゃんを守りきる!!
             不気味に笑うリザを、月だけが見ていた。



             それぞれの思惑を秘めて、決戦の朝が訪れた。