「変態王子ぃぃぃぃぃいいいいいいい!!」
夜が明けた瞬間、ロイの寝室を、大きな鎧と完全武装した
リザが襲撃する。ライフル銃を両手に抱え、足でドアを
蹴り飛ばすリザ姫の凛々しさに、鎧姿のアルは、
うっとりと見つめる。
「リザ姉様って、かっこいい〜。」
姉さんが夢中になるのも、わかるよ。
手をパチパチさせてアルが感動していると、リザは
舌打ちをしてアルを振り返った。
「やられたわ!変態王子に先手を打たれたわ!」
「ええええっ!!」
驚いて部屋を覗き込むと、ベットの中はものけのからだ。
「きっと、僕が姉さんの救出に失敗したからだ・・・・。」
ロイの事だ。警戒して、あの後直ぐに場所を移したに
違いない。あの時、姉の爆弾発言に取り乱さなければと、
アルは己を責める。
「アルフォンス君は、何も悪くないわ。」
落ち込むアルを、リザは優しく頭を撫でる。
「リザ姉様・・・・・・。」
「悪いのは、ぜええええええんぶ、あの変態ロリコン王子よ。」
リザはニッコリと微笑むと、ギュッとアルの両手を握り締める。
「落ち込んでいられないわ!早く変態王子からエドちゃんを
救い出しましょう!!」
「でも・・・・どうすれば・・・・・。」
途方にくれるアルに、リザは安心させるように、大きく頷くと、
パンパンと二回手を叩く。
「リザ姫!お呼びですか!!」
ドタドタドタと地響きを立てて現れたのは、血走った目をした
ハボックだった。よほど急いでいたのだろう。トレードマークで
ある咥えタバコすらない。
「ジャン。王子の乳兄弟でもあるあなたなら、王子がどこに
いるかご存知よね?」
ニーッコリと笑いながらも、目だけは決して笑っていないリザ
だったが、ハボックは、それすら気づかないようだ。リザが
じっと自分を見つめているという事実に、頭の中はお花畑で
一杯だ。うふふふ〜。あはは〜。捕まえてごらんなさ〜い。
待て〜。と、いつの間にか、ハボックの頭のお花畑では、
リザと二人追いかけっこをしている妄想まで生まれている。
「も・・・勿論ですとも!!リザ姫がお命じになられるのならば、
この、ジャン・ハボック!どこへでもご案内致します!」
ハボックは、真っ赤になりながら、見えないシッポを懸命に
振っている。
「では、私をそこへ案内して下さい。」
満足そうに頷くリザに、ハボックは、こちらです〜!!と
リザの手を引くと、駆け出した。
「あっ!待ってください!!」
ボクも行きます!!と、慌ててアルもその後を追う。
ガッションガッションと遠ざかる足音に、壁の一部が
ボコッと左右に開き、中から、両手に大事そうに籐の籠を
持ったロイが、不敵な笑みを浮かべで出てきた。
「フッ。うまくいったな。」
ロイは愛しそうに、持っている籐の籠の中を覗き込む。
あれだけの大騒ぎにも、エドは目を覚ます様子もみせずに、
幸せそうに、籐の籠の中で眠っている。
「さて、リザ姫達のお守りは、ハボックに任せて、術が
解けるまで、私とデートしようね。エディ。」
ロイは、そう囁くと、未だに眠っているエドの額に、
チュッと軽く唇を押し当てた。
「なんだ!これはっ!!」
リザとアルフォンスがロイに奇襲をかけた、同時刻、同じ
王城内の謁見の間では、早朝にも関わらず、国王の
キングが、ニコニコと笑いながら、突然の来訪者と
対峙していた。
「何とは?」
食えない狸親父は、相変わらずニコニコと笑っているだけで、
のらりくらりと来訪者の怒りを受け流している。それが
ますます来訪者の怒りに油を注いでいた。
「何とは?これは、一体どういうことだ!!」
怒り心頭の来訪者は、バンと手にした親書をキングに
突き出す。
「はて?海王様の怒りに触れるようなお話では
ありませんが?」
あくまでも惚けるキングに、来訪者・・・・・海王ホーエンハイムは、
ブチ切れた。
「これのどこがっ!!」
キーッと地団駄を踏むホーエンハイムに、キングはニッコリと
人の悪い笑みを浮かべる。
「しかし、いずれこうなるのでしたら、早い方が・・・・・。」
「いずれだと!?ありえん!絶対に認めん!!」
ホーエンハイムは、親書を床に叩きつけた。
「お前のトコの王子と我が姫が結婚!?絶対に認めん!!」
ガルルルと吼えるホーエンハイムに、キングは深いため息を
つく。
「しかし・・・・・生まれてくる子供には、ちゃんと両親が揃って
いたほうが良いと思うのですが・・・・・。」
「何?子供・・・・・・・・?」
ピタッと動きを止めるホーエンハイムに、キングはニッコリと
微笑みながら、爆弾発言をする。
「エドワード姫は、ロイの子供を身篭っ・・・・・・・・・・・。」
「うううう嘘だぁあああああああああああああああああ!!」
キングの言葉を遮るように、ホーエンハイムは絶叫すると、
滂沱の涙を流しながら、謁見の間から飛び出していく。
その姿は、つい数時間前のアルと酷似していた。
「フフフ・・・・後はお前の頑張り次第だぞ。ロイ。」
キングは、不敵な笑みを浮かべると、ゆっくりと謁見の間を
後にした。