学園天国 第1話

 

                 〜 嵐の予感 〜

 

 

             「ふう・・・。もう、こんな季節なのね・・・。」
             真神学園に君臨する、女帝、美里葵は、生徒会室の机の上に置いてある
             カレンダーを見つめながら、溜息をついた。
             「美里ちゃん、いる!!」
             そこへ、新聞部部長の遠野杏子こと、アン子が、息を切らせながら、生徒会室に
             駆け込んで来た。
             「どうしたの?アン子ちゃん。そんなに慌てて・・・・。」
             「これが、落ち着いていられますかっ!!」
             アン子は、葵の両肩を掴むと、揺すぶった。
             「で?これはどう言う事なの!!」
             「何が?」 
             訳が判らず、首を傾げる葵に、アン子は手にしていた紙を、葵に付きつけた。
             「これよ!!」
             一目見て、葵は微笑んだ。
             「あぁ、これね・・・。」
             「これね。じゃなーい!!」
             バンと大きな音をたてて、アン子は持っていた紙を机に叩きつけた。それを、美里は
             微笑みながら手に取ると、タイトルを読んだ。
             「学園天国。うちの文化祭のコピーのどこが気に入らないっていうの?」
             アン子は、チッチッチッと、人差し指を振った。
             「ちーがーうって。この、一番下の小さい文字の所。」
             アン子が指差した所を、美里は目で追う。
             「うふふ。いいアイディアでしょ?」
             「いい・・・アイディアねぇ・・・。」
             アン子は、美里の手から、紙を奪うと、しげしげと見つめた。
             「これ、本人に、了解とってあんの?」
             「これからよ。」
             美里の言葉に、やっぱしと、アン子は肩を落とした。
             「・・・・京一に殺されても知らないから・・・。」
             「うふふ。返り討ちよ・・・。」
             その時、美里の不気味な笑い声に、お昼休みが終了するチャイムが重なった。



             「うー。HRに出たくねェ・・・。」
             お昼休み、二人だけで昼食を屋上で取っていたのだが、終了のチャイムを
             聞いた途端、京一は龍麻を引き寄せると、有無を言わさず押し倒した。
             「京一〜!!」
             非難の色も濃い龍麻の顔に、京一は、にっこりと微笑むと、そっと唇を重ね
             合わせた。
             「ちょ・・・京・・・。」
             だんだんと激しくなるキスに、龍麻は無意識のうちに、京一の首に腕を回す。
             そんな龍麻の態度に、京一は内心ニヤリとする。
             「きょういち・・・・。」
             既に呂律が回らず、潤んだ瞳で自分を見上げている龍麻に、京一の無け無しの
             理性は、ぶち切れた。
             「へへっ。どうせHRは、文化祭の事を決めるだけだし。サボってもいいだろ?」
             嬉々として、龍麻の服を脱がせようとして、詰襟に手をかけた瞬間、京一の
             身体は宙に舞った。
             「秘拳 黄龍!!」
             龍麻の技が炸裂したのだった。
             「ひ〜ちゃ〜ん。そりゃないだろ〜。」
             京一の言葉に、真っ赤になりながら、龍麻は俯くと呟いた。
             「・・・だって・・外なんて・・・。」
             その言葉を聞きつけた京一は、ニヤニヤと笑いながら復活すると、
             何時の間にか龍麻を引き寄せていた。
             「判った。・・・・続きは今夜だな。」
             耳元で囁かれる京一の言葉に、龍麻は真っ赤になってさらに俯いた。
             「・・・・馬鹿・・・。」
             「へへっ。ひーちゃん、可愛いぜ!」
             更に抱き締める腕に力を込める京一に、龍麻は上目遣いで睨んだ。
             「京一、早くしないと・・・。」
             「ヘイへイ、遅れるっていうんだろ?わかってますって。」
             途端、疑わしそうな目を向ける龍麻。
             「本当に、判っているのか?」
             「ひーちゃん・・・俺の目を見てくれ!!」
             真剣な表情の京一を、真剣な表情で見つめる龍麻。だが、次の瞬間、
             二人は爆笑する。特に龍麻は、身体をくの字に折り曲げて、爆笑している。
             「さっ、そろそろ行くぞ!京一。」
             なんとか笑いを収めると、笑いすぎて出た涙を拭きながら、龍麻は京一を
             振り返った。
             「京一?」
             京一は、真剣な表情で龍麻の手を取ると、キッパリ言った。
             「いいか。美里には気をつけるんだぞ。」
             「美里さん・・・?何で?」
             訳が判らず首を傾げる龍麻に、京一は不機嫌そうに言った。
             「あいつ、俺とひーちゃんの邪魔ばかりしている・・・。」
             「まさか。そんなの、京一の思い過ごし・・・。」
             笑う龍麻を、京一は思いっきり引き寄せた。
             「思い過ごしじゃねぇ。体育祭の時もそうだった。その後のディズニーランドの
             デートの時も・・・・。絶対にわざとだっ!!」
             本気で怒っている京一に、龍麻はクスリと笑うと、ポンポンと軽く背中を叩いた。
             「わかった。わかった。とにかく、美里さんに気をつければいいんだろ?」
             「そうだ。絶対に美里の口車に乗るなよ!いいな。」
             龍麻は溜息をつくとポツリと呟く。
             「・・・前回、口車に乗ったのは、京一だったくせに・・・。」
             「なんか言ったか?」
             「いいえ。なんにも!ところで京一!!HR、完全に遅刻だ!!」
             時計を見ると、何時の間にか時間が10分過ぎていた。
             「ほら!行くぞ!京一!!」
             「待てよ!ひーちゃん!」
             慌てて、教室に戻った二人だったが、時既に遅過ぎていた。決定項目が
             書かれた黒板の前に立って、葵が笑顔で二人を待ち受けていた。
             「うふふ。おめでとう!二人が今回の主役よ。」
             途端、教室中が割れんばかりの拍手が沸き起こる。そんな中、教室の後に
             座っている醍醐が、気の毒そうに二人を見つめていた。