学園天獄  第2話

 

          〜 菩薩注意報。雨のちジハード 〜

 

 

         <前回のあらすじ>
            京一と龍麻がイチャついている間に、菩薩様が裏工作を・・・。不気味に笑う
            菩薩眼。「あなた達が主役よ!」という謎の言葉の意味はっ!!



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              「ちょっと待て!!一体、何のことだよっ!!」
              さり気なく、龍麻を背に庇うと、京一は美里に木刀をつきつけた。
              「何って・・・。文化祭の事に決まっているでしょ。二人とも遅刻するんです
              もの。勝手に決めさせて貰ったわ。」
              「断る!!」
              美里の言葉に、京一が即答する。
              「あら。なあぜ?京一くん?」
              うふふふと、美里の菩薩眼が異様な光を放つ。
              “う・・・流石に迫力あるぜ。だが、ひーちゃんの為にも負けられねェ!!”
              京一も負けじと美里を睨み返す。コブラとマングースの戦い。両者一歩も
              引かずに、お互いを睨みつける。
              「俺達3年生は受験生だぜ?この大切な時期、わざわざ文化祭に出ることも
              ねぇだろ?どうせ、3年は自由参加だ。」
              「あらあ、卒業も危うい人から、受験生っていう単語が聞けるなんて、驚きね。
              第一、京一君、受験しないんでしょう?」
              京一の言葉を美里は一笑する。
              「・・・俺よか、他の連中のことを・・・。」
              「うふふ。受験でも、少しは心の余裕ってのも必要なのよ。その私の考えを、
              クラスの皆は支持してくれたわ。」
              その時、醍醐がポツリと呟いた。
              「有無を言わせず、承諾させたくせにな・・・。」
              その言葉を、美里は聞きとがめる。
              「あら?醍醐クン、何か言ったかしら?」
              にっこりと微笑む美里に、醍醐は慌てて首をブンブンと横に振った。
              「うふふふ。それでいいのよ。」
              満足そうに微笑む美里を、京一は呆れたように言う。
              「・・・オイオイ。脅迫ってのは、卑怯じゃねーのか?」
              「うふふ。私の意見は常に正しいのよ。そこのところを、判ってもらえないみたい
              ねぇ・・・。そういう物覚えの悪い人は・・・・ジハー・・・・。」
              「へぇええ。文化祭、お化け屋敷をするのか・・・。」
              一触即発。危険な空気が漂う中、一人暢気に黒板に書かれた文字を見ていた
              龍麻は、感心したように呟いた。
              「そうなのよ!!緋勇君!!」
              これ幸いに、龍麻を丸め込む作戦を実行に移す美里だった。
              「私達、3年生でしょ?受験で時間がないから、劇とか練習が必要なものは
              出来ないし・・・・。お化け屋敷なら、凝った設置もしなくていいもの。それに・・・。」
              そこで、美里は言葉を切ると、わざとらしく溜息をついた。
              「今年で最後だしね・・・・。」
              「・・・そうだよな・・・。」
              しんみりとする龍麻と美里の間を、京一は慌てて割って入る。
              「騙されるな!ひーちゃん!!これは、俺達の仲を邪魔する為の作戦だっ!!
              体育祭の悪夢を思い出せ!」
              「えーっ、でも・・・・。」
              龍麻は、チラリと黒板を見ながら言った。
              「・・・京一のヴァンパイアって・・・カッコいいだろうな・・・。俺、見てみたい。」
              「ひ・・・ひーちゃん・・・。」
              真っ赤になって俯く龍麻を、京一は呆然と見つめる。
              「うふふ。決まりね!」
              嬉々として美里は、用紙に名前を書き入れる。その様子に、ハッと我に返った
              京一は、慌てて美里に文句を言う。
              「おい!俺達は、参加するって言ってないぞ!!」
              「あら、残念ね。たった今、3−C有志による「お化け屋敷」は、生徒会に受理
              されたのよ。」
              「受理って・・・お前が書いて、お前が受け取るだけだろがっ!書き直せるだろ?」
              美里は、うふふと不敵な笑みを浮かべると、次の瞬間、技を放つ。
              「神に仕える大いなる力、四方を守護する偉大なる五人の聖天使よ。
              ・・・・ジハード!!」
              「うわあああぁあぁああああああ!!」
              京一の身体が宙を舞う。
              「うふふ。緋勇君、お願いがあるの。人手が足りないから、実行委員を引きうけて
              欲しいんだけど・・・。」
              黒板を熱心に見ている龍麻に、美里は声をかける。
              「ん?いいよ。どうせ、暇だし。」
              「本当!うふふ。宜しくね。緋勇君。」
              美里は右手を差し出す。
              「ああ。こちらこそ・・・。あれ?ところで、京一は?」
              キョロキョロと当りを見回す龍麻に、美里はにっこりと微笑む。
              「さぁ?きっと、どこかで昼寝でもしているんじゃないかしら?」
              「・・・・?まぁ、いいか。こちらこそ、宜しく。」
              美里の手を、龍麻はしっかりと握り締める。
              “うふふふ。上手くいったわ。あとは、当日まで、緋勇君に悟られないように
              しなくっちゃ・・・。”
              美里は、龍麻に気づかれないように、二ヤリと笑った。




              「京一〜。まだ、怒っているのか?」
              夕飯を食べ終わっても、まだ不機嫌に黙り込んだままの京一に、龍麻は、
              恐る恐る尋ねる。
              「・・・・・。」
              「ねぇ・・・。京一〜。」
              「・・・・・・。」
              「京一君♪」
              「・・・・・。」
              黙ったままの京一に、龍麻の怒りが爆発する。
              「もう!いい加減に・・・。」
              その時、いきなり京一は龍麻を抱き寄せた。
              「ちょ・・・京一!!」
              慌てて京一から離れようと、もがく龍麻を、京一はますます抱き締める腕に
              力を込める。
              「・・・・京一、拗ねてんの・・・?」
              龍麻は、もがくのを止めると、呆れたように呟いた。
              「・・・・・悪ぃかよ・・・。」
              拗ねている京一が可愛くて、龍麻はニコニコしながら、京一の背中をポンポンと
              軽く叩く。
              「・・・折角、ひーちゃんと二人っきりで過ごそうと思っていたのに・・・。」
              京一は、子供が大きなクマのヌイグルミを抱き締めるように、龍麻をギュと抱き
              締めた。そんな京一に、龍麻は微笑みながら言った。
              「ごめん。京一。でも、俺今年が最初で最後の真神での文化祭だから・・・・。
              ちゃんと参加したかったんだ・・・。」
              その言葉に、京一はハッとして龍麻を見つめた。龍麻は悲しそうな瞳で京一の
              頬に軽く口付けする。
              「本当にごめん。京一。」
              項垂れる龍麻の唇を、京一は荒々しく塞ぐ。
              「・・・・俺の方こそごめん。ひーちゃん。」
              キスの合間に、京一は龍麻に謝りつづける。
              「ごめんな。お詫びに、ひーちゃんが俺に惚れ直すくらい、カッコイイヴァンパイアに
              なって見せるぜ・・・。」
              その言葉に、龍麻はクスクス笑い出す。
              「それは、無理だよ。絶対・・・。」
              「なんでだ?俺、そんなにカッコ悪ィか?」
              情けない表情の京一に、龍麻は違うと頭を払う。
              「違うって。俺、京一に惚れ直す必要ないもん。・・・・ただ・・・、ますます惚れ
              ちゃう・・・。」
              「へへっ。ひーちゃん!文化祭、成功させような!!」
              龍麻の言葉に、機嫌を良くした京一は、嬉々として、龍麻を押し倒した。



              「うふふふ。お久し振りね・・・。」
              その頃、美里は自宅の自分の部屋で、電話を掛けていた。机の上には、
              アドレス帳が広げられており、その上に真神学園の学園祭のポスターを
              無造作に置いていた。
              「そう・・・龍麻の事で、おいしい情報があるんだけど・・・・。」
              美里は、机の上のポスターを手に取ると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。