学園天獄  第3話

             〜 熱血教師 〜

 

      <前回のあらすじ>
          イチャついていて、HRに堂々と遅れてきた京一と龍麻。そこへ、菩薩眼が不気味な
          笑みを浮かべて待ち構えていた。必死に応戦する京一だったが、敢え無く敗退。龍麻に
          期待がかけられたが、何時の間にか、二人の間で協定が結ばれていた。
          龍麻「京一のヴァンパイアって、カッコイイだろうな・・・。見たい!」
          菩薩眼「うふふ。緋勇くんなら、そう言ってくれると思っていたわ。」
          必死に嫌がる京一だが、龍麻の一言で、あっさり承諾。
          京一「おう!ひーちゃんの為に頑張るぜ!!」
          龍麻「やったー!!」
          抱き合う二人に、菩薩眼の目が怪しく光る。
          菩薩眼「うふふ。・・・・計画通りね。」
          ・・・・・さて、今回は!!【笑】


        ********************************

           「違う!違うわ!!蓬莱寺君!!」
           3−Cの教室中を、マリアの怒鳴り声が響き渡る。
           「でもよぉ・・・・。」
           名前を呼ばれた京一は、不服そうに顔を歪めた。
           「でも、じゃありません!!何なの?そのヴァンパイアはっ!!」
           「・・・・何なのって言われても・・・・。」
           京一は、助けを求めて、当りを見回したが、皆京一と視線を合わせようとせず、
           黙々と与えられた仕事を行なっていた。
           “ちっくしょー!みんな冷てぇぜ・・・。”
           「蓬莱寺君、ちゃんと聞いているの?」
           マリアの声に、京一は慌てて姿勢を正す。
           「ハイッ!聞いています!」
           「宜しい。」
           マリアは満足そうに頷いた。
           「いいですか?ヴァンパイアというのは、そもそも・・・・。」
           “ただ、驚かせるだけなのに、どうしてこうなるんだよ・・・。”
           延々とヴァンパイアの講義を始めるマリアに、京一はがっくりと肩を落とす。
           そんな京一の姿を、大道具係の醍醐と小蒔が見つめながら、こっそりとお喋りをする。
           「ねぇ、醍醐君。マリア先生、張り切っているね・・・。」
           「あぁ・・・。だが、どうも京一にだけ演技指導をしている理由が判らん。」
           腕を組んで悩んでいる醍醐に、小蒔はチョンチョンと肩を人差し指で叩くと、後を見るように
           ジェスチャーをした。醍醐が振りかえると、そこには、何時の間にいたのか、犬神杜人が、
           狼男に扮する生徒に何事か怒鳴っていた。
           「全く、その貧弱な狼男は何だ!!」
           だが、生徒も負けてはいない。ムッとして言い返す!!
           「犬神先生!他のクラスの事に口出しするのを止めて下さい!!」
           「いいか、狼男というのはだな・・・・。」
           だが、自分の世界にトリップでもしているのか、犬神は延々と狼男のレクチャーをし始める。
           「一体、何がどうなっているんだ?」
           ますます訳が判らない醍醐に、小蒔は肩を竦ませた。
           「さぁ?何でか知んないけど、マリア先生と犬神先生が急にライバル意識を燃やしちゃって
           んじゃないの?」
           「・・・・信じられん・・・。」
           ライバル意識だか知らないが、何故ここまで熱血になれるのか、醍醐には不思議だ。普段
           温厚なマリア先生の熱血ぶりも信じられないが、もっと信じられないのは、犬神の方である。
           普段、無気力なくせに、一体何が彼をそこまで熱血させるのだろうか。しかも、他人のクラスで。
           「・・・それとも・・・。」
           小蒔の呟きに、醍醐は小蒔を見つめる。
           「犬神先生、マリア先生にいいところを見せようと・・・・って感じじゃないよね・・・。やっぱ。
           いがみ合ってるとしか見えないし・・・。」
           小蒔の言葉に、再び醍醐がマリアと犬神を振りかえると、何時の間にか、京一達をほっぽって、
           お互いの罵り合いに発展していた。
           「すると、犬神先生は、ヴァンパイアよりも、狼男の方が優れていると・・・そう、仰りたいのですか?」
           「フッ。所詮、人型と同じ魔物。人間と同じ俗物的だと言ったんだ。その点狼男は・・・・。」
           「・・・ただの低俗な動物でしょう。」
           途端、二人の間に、激しく火花が散った。
           「只今〜!!」
           一触即発の危機に、文化祭実行委員会に出席していた龍麻が、菩薩眼を伴って、3−Cの
           教室に帰ってきた。そこで、教室中に漂う険悪な雰囲気に、龍麻は首を傾げる。
           「どうしたんだ?みんな。」
           アイドル龍麻の登場で、一瞬場が和みかけたが、いかんせん、マリアと犬神の睨み合いは
           まだ続いていた。再び教室を緊張の空気が流れる。その場の雰囲気を、即座に把握した美里は、
           ニコニコと微笑みながら、犬神に近づいた。
           「犬神先生。さっき、廊下でA組の人達が探していましたけど。」
           「ん?そうか?」
           犬神はマリアから目線を逸らさずに、傍らに立っていた、狼男役の生徒に、言葉をかける。
           「いいか。当日俺も見に来るからな。下手な狼男をやったら、お前には、絶対に単位はやらん!!」
           そう、捨て台詞を吐くと、犬神はピシャリと扉を力いっぱいに閉めた。
           「ひっでぇ〜!!」
           ガックリと項垂れるクラスメートに、京一が肩をポンポンと軽く叩く。
           「まっ、可哀相だが、相手が悪かったな・・・。」
           慰めの言葉になっていない言葉を、クラスメートにかける京一に、今度は、マリアの叱咤が飛ぶ。
           「蓬莱寺君も、人の事心配している場合じゃないわよ!!」
           驚いてみると、マリアはもの凄い形相で立っていた。
           「おお・・・。マリア先生が燃えている・・・。」
           周りからは、そんな声が聞こえてくる。
           「いいですか!蓬莱寺君。さっきみたいにふざけたヴァンパイアをやってご覧なさい。あなたに
           英語の単位はあげないわよ!!」
           「ひでぇ!!横暴だ!!」
           京一の抗議は、マリアの冷たい一瞥に、黙される。
           「では、先生。」
           その時、二人の間に龍麻は割って入ると、マリアに極上の笑みを浮かべながら言った。
           「無事、ちゃんと京一がヴァンパイアを演じれば、無条件で英語の単位をくれますか?」
           龍麻の思ってもみなかった提案に、一瞬、マリアは返答に窮する。クラス中が固唾を飲んで
           見守る中、暫くの逡巡の後、マリアは溜息をつきつつ、同意した。
           「わかったわ。ちゃんと蓬莱寺君が演じたら、無条件で英語の単位をあげるわ・・・。」
           「・・・だ、そうだ。がんばれよ!京一!!」
           「ひ〜ちゃ〜ん!!」
           龍麻は振り返ると、京一専用の超極上の笑みを浮かべる。そんな龍麻に、京一は感極まって
           思わず抱きついた。
           「やるぜ!ひーちゃんのためにも!!」
           何とか納まりがついたので、クラス中がほっと安堵のため息を漏らす。
           その中で、菩薩眼は不気味な笑みを浮かべると、そっと龍麻に近づいた。
           「あら?緋勇君。大変!後がほつれているわ。」
           えっ?と振り返る龍麻に、有無を言わさず龍麻から学ランを剥ぎ取る。
           「ちょっと、貸してね。急いで縫ってくるから・・・。」
           そう言うと、美里は慌てて教室を出ていく。
           「・・・美里さんて、優しいな・・・。」
           そんな美里の行動に、龍麻は素直に感謝の目を向ける。
           「うふふ。上手くいったわ・・・。」
           だが、龍麻は知らない。廊下を歩きながら、美里がそう呟いたことを。美里の真意を知る
           のは、文化祭当日の事である。


           ・・・・・こうして、文化祭は、刻一刻と近づいてくるのである。