学園天獄  第6話

 

         〜  花も嵐も踏み越えて 〜

 

        <前回のあらすじ>
           3−Cのお化け屋敷は、ホーンテッドマンションをイメージしたのだが、それには
           アンティークの小道具が必要になってきた。
           美里「うふふふ。使えるものは、使わなければ勿体無いわ。」
           早速、骨董品店の若旦那に無料レンタルを強要。渋る如月に、美里は菩薩笑いをする。
           美里「うふふふ。無料レンタルにしてくれれば、当日、龍麻とデート出来る時間を作って
              あげてもいいわ。」
           その一言で、如月は即決。無事小道具も揃ったし、あとは当日を待つばかり。前夜、
           いつものようにイチャついている京一と龍麻。その数時間後に、悪夢が二人を襲うと言う
           事に、まだ気づいていなかった・・・。


           ********************************



           「よし、こんなもんかな・・・。」
           一通り、チェックをしていた龍麻は、満足そうに頷いた。
           「ひーちゃん・・・。」
           背後からかけられた声に、龍麻は振り向くと、驚きに眼を見張った。
           「へへっ。どうだ?ひーちゃん。」
           「・・・すごく、カッコいい・・・。」
           ヴァンパイア姿の京一に、龍麻は素直に賞賛する。
           「・・・なぁ、ひーちゃん・・・。」
           京一は龍麻の身体を抱き締めようと、手を伸ばした途端、背後からの殺気に、
           慌てて振りかえった。
           「お前は!!」
           「フッ。僕の目の前で、いい度胸だな。蓬莱寺。」
           そこにはなんと、不敵な笑みを浮かべて、壬生が立っていた。
           「壬生?何でここに?」
           他校生である壬生が、堂々とここにいることに、龍麻も驚きを隠せない。
           「うふふふ。私が呼んだのよ。」
           お化け役に指示を与えていた美里が、壬生に気づき、微笑みながらやってきた。
           「美里が?」
           途端、嫌そうな顔をする京一。
           “こいつ、やっぱり何かを企んでいたのか!”
           やはり、昨日無理矢理でも聞き出しておけば良かった。そのことが悔やまれて
           ならない京一だった。
           「それはそうと、緋勇君。そろそろ着替えてもらいたいのだけど・・・。」
           「着替える?何に?」
           ただの受付なのに、なんでだろうと首を傾げる龍麻に、美里は相変わらず菩薩笑いを
           口許に浮かべると、パチンと指を鳴らした。その音を合図に、教室内に散らばっていた
           数人の女生徒が、龍麻の周りを取り囲んだ。
           「な・・・何を・・・。」
           以前、これと同じようなシュチュエーションで、酷い眼に合わされていた龍麻は、知らず
           後ずさりをしようとするが、既に取り囲まれているので、一歩も動けない。仕方がない
           ので、美里に眼で訴える。
           「み・・美里さん・・。俺、ただの受付けなんだけど・・・。」
           「うふふふ。そんなの判っているわ。だから、着替えてもらうんじゃない。さぁ、時間が
           ないわ。始めて。」
           美里の言葉に、女生徒達の手が、龍麻に襲いかかる。
           「うわああああ〜!!」
           もみくちゃにされる龍麻を救おうと、京一が動こうとした時、背後から肩を壬生に掴まれた。
           「離せ!壬生!!」
           「待つんだ。そうすれば、いいものが見れる。」
           美里と同じ不敵な笑みを浮かべる壬生に、京一は怪訝そうな顔をして、問いただそう
           とした時、サッと龍麻を取り囲んでいた人の輪が、崩れ左右一列に並んだ。
           「ひ・・ひーちゃん・・・か・・・?」
           中から出てきた人物を、京一は信じられない面持ちで眺める。
           「ほう。やはり、良く似合うな。」
           「あら。良く似合うわ!緋勇君。」
           龍麻を一目見て、壬生と美里も絶賛する。
           「・・・・なんで・・・。こんな格好・・・。」
           半泣き状態の龍麻の側まで寄ると、壬生は最終チェックをする。
           「よし。大丈夫だ。」
           満足そうに頷く壬生に、美里も感心したように頷く。
           「流石壬生君ね。緋勇君の学ランで、採寸しただけで、ここまでピッタリの服を作る
           なんて・・・。どう?暗殺者なんて、ケチな商売よりも、デザイナーとして、華々しく
           デビューするっていうのは。」
           「フッ。龍麻が専属のモデルになってくれれば、考えてもいいな。」
           龍麻を無視して、談笑なんかを始めた二人に、龍麻の怒りが爆発する。
           「ちょっと!何で受付けの俺が、こんな格好をしなきゃ、なんないんだよ!!」
           だが、美里の器は、黄龍の器よりも遥かにでかい。怒りの龍麻に、美里は
           にっこりと微笑む。
           「あら?洋館には、メイドでしょ?」
           「う〜。」
           上目遣いで睨む龍麻に、壬生はそっとその手を握り締めた。
           「大丈夫だ、龍麻。良く似合っているよ。」
           龍麻は、キッと壬生を睨むと、乱暴に手を振り払った。
           「とにかく、こんな格好は嫌だ。着替えさせてもらう!!」
           フリルの入った、真っ白のエプロンを、脱ぎ捨てると、黒のミニのワンピースを脱ごうと
           ファスナーに手をかけた時、美里の鋭い声が飛んだ。
           「駄目よ。もう、ポスターにも書いちゃったもの。」
           その言葉に、龍麻の動きが止まる。そんな龍麻に、美里は学園祭のポスターの一番
           下に書かれている、極小の文字を指差した。龍麻が眼を凝らして見ると、そこには、
           なんと、“3−Cのお化け屋敷。メイドに扮した緋勇龍麻が、あなたを恐怖の旅に
           ご案内します”と書かれていた。
           「ちょっと待て!一体、何時の間に書いたんだ?第一、このポスターって、夏休み前に
           刷られたやつじゃ・・・・。」
           「うふふふ。そんなことはどうでもいいのよ。」
           美里は極悪な笑みを浮かべると、龍麻が脱ぎ捨てたエプロンを、素早く龍麻に着せた。
           「さぁ、みんながお待ちかねよ。そろそろ営業をしなくっちゃね。」
           「あのさ・・・美里さん・・・。」
           龍麻の事を思いっきり無視して、美里は最終指示を皆に出していた。
           「あと、10分で始まるから、みんな、頼んだわよ!」
           「おう!」
           次々と、教室の黒いカーテンが引かれていき、電気さえ消せば、即、お化け屋敷の
           完成である。
           「きょ・・京一、どうしよう・・・。」
           着々と準備を始めている皆の姿に、龍麻はどうしたら、いいか判らず京一に助けを求め
           ようと、その姿を捜したが、何時の間にかその姿が見えなかった。
           「きょ・・京一!!」
           慌てる龍麻の耳に、小蒔ののんびりとした声が聞こえてきた。
           「ねぇ、葵、倒れている京一どうしょうか?」
           その言葉に、龍麻が振りかえると、小蒔の足元に、大量の鼻血を出してぶっ倒れている
           京一の姿があった。
           「きょ・・京一!!」
           慌てて駆け寄ると、何やら京一はブツブツ呟いていた。
           「何?京一!!」
           耳を口許に寄せる。
           「ひーちゃん・・メイド・・・。スッゲー可愛い・・・。ひーちゃん・・・。」
           「京一〜。お前は〜。」
           ヒクヒクと顔が引きつる龍麻に、美里は容赦ない一言を吐く。
           「あっ、京一君なんて、棺桶にでも入れちゃったら?それよりも、緋勇君、打ち合わせ通り、
           受付けをしっかり頼んだわよ!」
           「では、また。」
           美里と壬生は、教室の明かりを全て消すと、不敵な笑みを浮かべながら、二人は教室を
           後にする。
           「・・・主役って、この事だったのか・・・。」
           まんまと、美里の計略に嵌ってしまった龍麻は、暗闇の中、半分泣きながら、京一を
           ギュッと抱き締めた。