1998年4月、1人の転校生が
新宿にある真神学園の門をくぐった。
彼の名前は、緋勇龍麻。
満開の桜の下、彼は校舎を見つめる。
それから約1年後、
1999年3月、同じ場所に1人で佇む者がいた。
彼の名前は、蓬莱寺京一。
満開の桜の下、彼は校舎を見つめる。
彼が3年間過ごした校舎。
だが、その脳裏には、最後の1年間が走馬灯のように
浮かんでは消えていく。
「とうとう明日で真神(ここ)ともおサラバか・・・・。」
1年前、龍麻がここで何を思ったのか、京一は知らない。
今日、京一がここで何を思っているのか、龍麻は知らない。
それでも、1つだけ言えることは、
全ては真神(ここ)から始まったのだ・・・・・・。
「一緒に中国へ行かねぇか・・・・・?」
俺の言葉に、ひーちゃんは、本当に嬉しそうに微笑むと、
大きく頷いた。
明日は卒業式という夜中、俺は真神学園に忍び込むと、
いつも昼寝をしている樹に登った。
別に意味はねぇ。ただ、ここが、俺とひーちゃんが初めて
背中合わせに戦った、思い出の場所だからだ。
ひーちゃん・・・・緋勇龍麻。
最初、俺はひーちゃんの事を、ひ弱な奴だと思っていた。
だから、佐久間のアホにひーちゃんが絡まれた時、俺は
ひーちゃんを助けようと、この樹から飛び降りたのだ。
だが、その必要は全くなかった。俺なんかが助けなくても、
ひーちゃんは1人で勝てたのだ。
それなのに、ひーちゃんは、戦いが終わると俺に礼を言った
んだ。
「蓬莱寺君、助けてくれてありがとう。」
そう言うと、ひーちゃんは嬉しそうに笑った。その笑顔を見た
瞬間、俺はひーちゃんに恋をしたのだ。
今までお姉ちゃん大好きと公言していた俺がだ。よりにもよって、
男のひーちゃんに・・・・。
だが、惚れてしまったのだから、仕方がない。
俺は緋勇龍麻を愛している。
ひーちゃんの笑顔を守りたい。
ひーちゃんの傍らにいたい。
そう思い、自分でも鍛錬していたつもりだった。
だが、実際俺はひーちゃんを守っていたつもりが、ひーちゃんに
いつも守られていた。
ひーちゃんが柳生のヤローに斬られた時も、何も出来なかった。
それが悔しい。これじゃあ、相棒失格だ。
だから、俺は1人で修行の旅に出る事に決めた。
今のままでは、俺は駄目になってしまう。
ひーちゃんの傍らにいるためには、より<強く>ならなければと、
痛感したのだ。
だから、あえて1人で中国へ行くことにしたのだが・・・・・。
ひーちゃん、それを知ったら、どうするだろう。
泣くだろうか。怒るだろうか。それとも・・・・・。
ふう。やるせなさに溜息が出る。ひーちゃんの側にいるために、今
ひーちゃんと別れなければならないなんていう矛盾に、俺は頭を
抱えた。
・・・・・・・いつまでも悩んでいるなんて、俺らしくねぇ。
明日、ひーちゃんに「さよなら」を言わなくっちゃなんねぇんだぞ!
しっかりしろ!京一!
・・・・・・そういやぁ、歌詞にあったっけ、「さよなら」別れの言葉じゃ
なくて、再び会うまでの遠い約束って・・・・・。
そうだよな。一生会えなくなる訳じゃねぇし、第一、俺が早く強く
なればいいんだよ!
強くなった俺に、ひーちゃんを惚れさせてみせるぜ!
だから、暫くの間、「さよなら」だ。ひーちゃん・・・・・・・。