その日、店に入ってきた客を一目見て、
僕は驚きに目を見張った。
高校生5人組の中でも、一際目立つ存在。
彼は、僕に気がつくと、にっこりと微笑んだ。
「いい品物が揃ってますね・・・・・。」
その時、自分はどういう顔をしたのか、全く
覚えていない。
ただ、その一言がとても嬉しいと、素直に感じることが
出来たのだけは覚えている。
彼・・・・緋勇龍麻が、その後自分の運命に深く
関わってくることになるとは、この時の僕には想像
出来なかったが・・・・・・。
店の帳簿を付け終わって、ふと時計を見上げると、
そろそろ日付が変わろうかの時間だった。
明日は卒業式。まさか、欠席する訳にはいかないだろう。
卒業式と言えば、明日は真神でも卒業式のはずだ。
ここのところ忙しくて、あまり連絡を取っていないが、
龍麻は元気だろうか。
つい聞きそびれてしまったが、龍麻は高校を卒業したら、
どうするのだろう。
緋勇龍麻。
彼は人一倍苛酷な宿星の元に生まれた。
それなのに、人を癒そうとする。人を守ろうとする。
それによって自分が更に傷つくことになろうとも。
僕に言わせれば、そんなのはただのお人好しだ。
あんなに血を流しているのに、何故見ず知らずの人間の
為に、そこまで出来るのだろうか。
何かの話で、そんな事を龍麻に言った事がある。
確か、まだ知り合ったばかりの頃だ。
「いつか、如月にも判るよ。守りたい想いに、理由なんて
いらないんだって。」
龍麻はそう言うと、微笑んだ。その微笑みを見た瞬間、
僕は龍麻の言葉が理解できた。
その時、僕は確かに思った。
この微笑みを守りたいと。
理由なんかない。ただ、龍麻を守りたいのだと。
そう、この時、僕ははっきり自覚したのだ。
緋勇龍麻を愛していると・・・・・。
今まで、飛水家の使命に捕らわれて生きていた僕に、
龍麻は本当の<生きる>ことを教えてくれたのだ。
龍麻によって、僕は<感情>というものを知った。
龍麻と共にいる喜びと楽しみ。
龍麻を傷つけられた怒りと哀しみ。
これらの<感情>は、龍麻が側にいて、初めて意味が
あることだ。
龍麻が僕を普通の<人>にしてくれる。
だから、柄にもなく、正月に花園神社で願掛けを行った
のだ。
龍麻を守ってくれるように・・・・・・。
そういえば、お礼参りがまだだったな。
明日、龍麻を誘って、二人だけでお礼参りに行こう。
これから、ずっと一緒にいられるよう、願いを込めて。