壬生 紅葉之章

 

 

              

              鳴瀧館長から、話は聞いていたが・・・・・・。
              これほど、真っ直ぐな瞳に出会ったのは、初めてだ。
              仲間が帰ってくる事を疑わない龍麻を、
              僕は羨望の眼差しで見つめた。
              それが、僕と龍麻の出会いだった・・・・・。

 

 

 

              悪人の絶叫が、深夜の新宿に響き渡る。
              僕がこの仕事を選んだのは、決して正義感からじゃない。
              母の治療代欲しさの為だ。
              今、目の前に倒れている悪人と、今の自分。
              果たして、どちらが<悪>なのだろうか・・・・・・。



              以前、龍麻に聞いたことがある。
              人が人を裁けるのかと。
              龍麻は首を傾げながら唸った。
              「難しい事を言うんだな。壬生は。」
              やがて龍麻は真剣な表情で答えてくれた。
              「悲しむ人が癒されるためには、どうしたらいいか
              考える事が大事だと思う。それに、人間はやって
              しまった事の責任は取るべきなんじゃないかな。」
              だったら、僕も裁かれるのだろうか。悪人とは言え、
              かなりの人数を殺してきたのだから。
              すると、龍麻は悲しそうな顔をした。
              「でも、壬生は自分の私利私欲の為に、殺したんじゃない
              だろう?その<心>の痛みが証拠だよ。」
              <心>の痛み?
              「だから、もう泣くな。」
              その一言で、自分が泣いていることに気がついた。
              そっと僕の涙を払ってくれた龍麻の手の暖かさに、
              僕は救われたのだ。
              龍麻・・・・。
              愛している。
              愛している。
              愛している。
              僕は心の中で何度も叫んだ。



              龍麻にこの想いを伝えるつもりはなかった。
              だが、伝えられない<想い>は、どこへ彷徨うのだろうか。
              伝えられなかった<想い>は、<負>のエネルギーとなり、
              この新宿を覆い尽くしてしまうのかもしれない。
              そうなれば、<黄龍の器>である、龍麻を苦しめて
              しまうかもしれない。
              それだけは、絶対に避けなければならない。
              だから、この<想い>を浄化するためにも、明日、龍麻に
              告げよう。
              「愛している」そして、出会ってくれて「ありがとう」を・・・・・・。

 

 

 

 

 

              村雨  祇孔之章