ライスシャワー

                第1話

    「大変よ!大変よ!大変よ!!」
    そう叫びながら、俺の家に駆け込んで来たのは、魔神学園唯一の新聞部員件部長の、遠野アン子だった。
    「どうしたんだ?そんなに慌てて。」
    そう、言いながら、俺はチラリと時計を見た。あと少しで京一が来るのに、面倒な用事じゃなければ
    いいけど・・・。
    「落ち着いて、聞いてね。あの【美里写真館】が、閉店するんですって!!」
    ・・・・・・は?ミサトシャシンカン?
    「・・・何?それ?」
    俺の問いに、アン子は、呆れた顔をした。
    「ちょっと、仮にも真神に通っていて、【美里写真館】を知らないなんて・・・・。」
    「仕方ねぇだろ?ひーちゃんは、転校して来たんだから、知らなくって当たり前だ。」
    その声に、俺とアン子が玄関を振り返ると、京一が腕を組みながら不機嫌そうに言った。
    「・・・そっか。そうだったわね。ずっと緋勇君と一緒って感覚があるから、すっかり忘れていたわ。
    ごめんね。緋勇君。説明不足で。」
    素直に謝るアン子を押しのけるように、京一は俺の家に上がり込むと、俺をさり気なくアン子から隠すように、
    俺達の間に割って入った。
    「さっさと帰れよ。俺達はこれから用があるんだから。」
    「・・・・・・・・そう言いたいのは、私も同じなんだけどね・・・・。」
    溜息をつくアン子に、俺は嫌な予感を覚えた。
    「うふふふふ。お二人に、協力をお願いしたいのよ。」
    その時、アン子の後ろから、不気味な笑みを浮かべた、美里が顔を出した。
    「「うわあああああ!!」」
    俺と京一は、同時に叫び声を上げた。それが気に食わないのか、美里は“ジハード”の印を結ぼうと
    したが、慌ててアン子が止めに入ってくれて、事無きを得た。サンキュー!アン子!!
    「とにかく、二人とも来て頂戴。」
    有無を言わさず、美里は俺と京一の腕をガシッと掴んだ。
    「ちょっと、待てよ!」
    京一は慌てて振り払おうとしたが、何故かピクリとも動かない。恐るべし、菩薩眼。
    「うふふふ。逃がさないわよ。」
    不気味に笑う美里に、俺は圧倒されて声が出せなかったが、果敢にも、京一は負けじと美里を
    睨み返す。昔見た、ゴジラ対メカゴジラの戦いを見るようで、俺はますます身を強張らせた。
    「今日は、俺の誕生日だぜ!絶対にひーちゃんと二人だけで過ごすんだッ!」
    「うふふふ。そう言えば、京一君、今日で18歳になったのね。うふふふ。おめでとうを言わせて
    もらうわ。」
    京一は、空いている方の腕を伸ばして、俺を抱き寄せた。
    「判ってんなら、さっさと消えろよ。」
    お前が来ると、ロクな目に合わねぇ。という京一の抗議に、美里は例の菩薩笑いで一笑する。
    「うふふふ。これは、双方にとっても、良い話なのよ?」
    「信用できねェな。」
    京一の言葉に、俺も無言でコクコクと頷く。
    「うふふふふ。私が嘘をつくと思って?」
    パチンと、美里は指を鳴らす。すると、申し訳なさそうな醍醐が、美里の背後から現れた。
    「だ・・・醍醐?お前、親友を捨てて、悪魔の手先になったのかよ!!」
    憤慨する京一に、醍醐はますますすまなそうな顔をする。
    「うふふふ。聖女たる私を悪魔ですって?まぁ、京一君たら、冗談がお好きなのね。」
    美里は、後に控えている醍醐に声をかける。
    「醍醐君。時間が勿体無いわ。二人を【美里写真館】に連れていくから、手伝って頂戴。」
    醍醐は無言で、美里から俺を受け取った。
    「ひーちゃん!!てめぇ・・・。醍醐!許さねぇぞ!」
    暴れる京一を尻目に、美里は、俺達の先頭に立って、歩き出す。
    「うふふふふ。緋勇君を返して欲しくば、ベルサイユ・・・じゃなかった、【美里写真館】へいらっしゃい。」
    高笑いしながら、美里は京一を1人置いて、振り向きもせず歩いていく。醍醐に引き摺られながら、
    俺はこれからの事に不安を覚え、そっと身震いした。