「あのさ・・・・。」
目の前をズンズン歩く美里に、俺は恐る恐る声をかけた。
「何かしら?」
クルリと振り返って微笑み姿は、第三者から見ると、聖女に相応しい。
だが、本性を知っている俺にとっては、悪魔の微笑みに見えるから不思議だ。
あぁ、早く助けに来てくれ〜!京一〜!!
「えっと・・・その・・・京一を置いてきて良かったのか?」
確か、俺達二人に協力して欲しいって言ってなかったっけ?
「ええ。心配しなくっても、直ぐに追いついてくるわよ。だって・・・・。」
うふふふと、例の不気味な菩薩笑いをしながら、俺に近寄ると、ガシッと俺の
腕を掴みながら、また歩き出した。
「こっちには、緋勇君っていう、強力なエサがあるんですもの。」
ひぇえええええ。メチャメチャ怖い〜。俺は、引きつった笑みを浮かべながら、
助けを求めて、視線を醍醐とアン子に向けるが、二人とも薄情にもあらぬ方向を向いて、
俺とまともに視線を合わせようとしない。お前ら、後で覚えていろよ〜!!
「さぁ、着いたわ!ここよ!!」
美里の声に、俺はのろのろと視線を前方に向けた。
「美里写真館・・・・?」
ここが・・・なのか?どう見ても、結婚式場みたいだぞ?ほら、名前も「美里結婚式場」って・・・。
え?「美里」?
「うふふふ。この「美里結婚式場」の中に、「美里写真館」は、あるのよ。さぁ、行きましょう!」
そう言って、美里は、俺を引き摺るように、ズンズン中へ入っていく。美里さん。ドアの所に、
定休日って札がかかっていましたけど・・・・・。
「やぁ、お帰り!」
俺達の姿を見つけ、ニコニコと近寄ってくる人物に、俺は回れ右をして、そのままダッシュで
家に帰ろうとしたが、いかんせん、美里にしっかり腕を掴まれている為、逃げられなかった。
だいたい、何でお前が<ここ>にいるんだ!葛城翔!!
初めての人には、一応ここで簡単に説明すると、目の前で、ニコニコ笑っている人物は、葛城
翔と言って、俺の幼馴染だったりする。こいつの従兄妹の「上杉」っていう女と二人して、俺を
オモチャにして遊んでいる節がある。過去、何度辛い目にあった事か・・・・。とても口では
言えない。詳しい事は、「上杉書店」のキリ番の部屋にある、「First Impression」を読んでくれ。
・・・ちょっと待てよ・・・。これって、違うシリーズなんじゃ・・・・。
「うふふふ。葛城君。どう?準備は。」
美里は、にこやかに、俺の幼馴染の葛城と話し始めた。お・・・お前ら、知り合いだったのか?
まさか、母方の従兄妹とか、遠い親戚って訳じゃないだろうな。気のせいか、二人とも思考回路とか、
行動パターンとか、似ているような・・・・。
「フッ。完璧だ。あとは、ひーちゃん達の仕度だな。」
何?俺達の仕度?
「うふふふ。そろそろ京一君も来る頃ね。じゃあ、先に緋勇君の仕度をしちゃいましょう。
時間かかるし・・・・。」
ピカリ-ン!美里の両目が光った。こ・・・怖すぎる・・・・。
「ちょ・・・・ちょっと待ってくれよ・・・・。」
俺は二人の会話に割って入った。
「何で、葛城がここにいるんだ?それに、仕度って・・・。」
「うふふふ。葛城君とは、利害が一致したから、今回手伝ってもらうことにしたの。」
な・・・なんだよ・・・その・・・利害が一致したって・・・・。
「さぁ、緋勇君。「美里写真館」の存続のため、協力してもらうわよ。」
うふふふ。と、どこかで聞いたような台詞を吐く美里に、俺は恐る恐る尋ねる。
「協力って・・・俺は一体何をするんだ?」
さらに凶悪な笑みになり、美里は口を開いた。
「そんなの、決まっているでしょう!京一君と緋勇君の二人で・・・・・。」
「ひーちゃん!無事かっ!!」
愛用の木刀を片手に、京一がドアを蹴破る勢いで、乱入してきた。
「京一!!」
やっぱ、助けに来てくれたんだ!俺は感動のあまり、京一に抱きついた。
ううううう・・・。メチャメチャ怖かったよぉ〜。京一〜。
「もう、大丈夫だ!ひーちゃん!」
京一は、優しく俺を抱き締めてくれた。
「うふふふ。相変わらず、バカップル、もとい、ラブラブね・・・・。」
「いやー。仲良き事は、美しき事也かぁ。」
目を凶悪に光らせている美里の横で、葛城がウンウンとニコニコしながら頷いている。
「さぁ、主役二人も揃った事だし、さっさと仕度してもらいましょうか。」
「ちょっと待て。俺達は、協力するなんて、一言も言ってねぇぜ。」
勇敢にも、京一が美里を睨みつけながら言った。
「あら、駄目よ。もう決定事項なのよ。」
さすが菩薩眼。私に逆らうなんて許さないわ!ってトコかな。
「兎に角、今日は俺の誕生日なんだぜ。仲間だったら、俺の意見を聞いてくれたって
いいだろ!」
「うふふふ。仲間だから、私が困っているのを黙って、見過ごせないんじゃないの?」
京一は、不敵な笑みを浮かべる。
「へっ。お前だったら、1人でも平気だろ?」
「うふふふ。一応、誉め言葉と受け取っておくわ。」
両者の間で、火花が散る。このまま睨み合いが続くかと思われたが、以外にも引き下がったのは、
美里の方だった。
「・・・・わかった。京一君がどうしても嫌だと言うのなら、無理強いはしないわ。」
「嫌だ。」
即答する京一に、美里は大袈裟に溜息をつく。
「・・・そう。折角、緋勇君と京一君の結婚式をタダでしてあげようと思ったのに・・・・。」
その言葉に、俺と京一は顔を見合わせた。
「なっ・・・どういうことだ・・・・。」
訝しげに問いかける京一に、美里はにっこりと微笑んだ。
「嫌なら仕方ないわ。緋勇君の相手は、別に捜すから・・・・。誰にしようかしら・・・。
壬生君かしら、やっぱり。それとも、如月君も捨てがたいわねェ。いっそのこと・・・・。」
「ちょ・・・・ちょっと待て!」
美里の言葉を遮ると、京一は探るような目で美里を見つめた。
「・・・・・・訳くらいきいてやる。」
その言葉を、待ってましたとばかりに、美里はにっこりと微笑むと、近くにあるソファーを、俺達に
勧め、自分はその向かい側に座った。その美里の横に、葛城も腰を下ろす。
「で?一体どういう理由なんだ?」
京一の再度の問いかけに、美里と葛城はニヤリと笑うと、口を開いた。