出会ったのは運命・・・・・。 「新宿へ行きたまえ。」 実の父の親友である鳴瀧の言葉に従い、新宿にある真神高校へ 転校してきた龍麻だったが、その理由については、結局教えてもら えなかった。 「それが君の<運命>だからだ。」 鳴瀧は、ただそう繰り返すのみだった。 “何が<運命>なんだろう・・・・。” <運命>、その言葉で龍麻は、ある男を思い出す。 そいつは、自分は人の<運命>を操れると言った。 龍麻は溜息を洩らす。 <運命>・・・・本当に人の運命は、初めから定められているのだろうか。 それなら、人は未来も希望もないではないか。その想いから、龍麻は男と 戦い、見事勝利した訳だが、それすらも、<運命>だと言う。 “訳わかんないよ。<運命>ってのは、一体なんだ?” そう言えば、男は妙な事を言っていた。龍麻の<運命の糸>が見えないと。 そんなことがありえるはずがないのだと。 そのことを鳴瀧に言うと、やはりという顔をしたのを思い出した。 だが、それだけで、決して鳴瀧は多くを語ろうとは、しなかった。 その代わり、龍麻に告げたのだ。新宿へ行けと。 そして、<仲間>を見つけろと。 <仲間>・・・・。<人ならざる者>との戦いにより、龍麻は既に自分が普通の 人間でないことは自覚している。あの<戦い>によって、自分の中の、大きな 力が目覚めたのを、感じた。それと同時に、普通の人間ではないという、一種の 疎外感も感じていた。だから、鳴瀧の<仲間>という言葉が、龍麻にとって、 救いにも似た響きに聞こえたとしても、仕方がないことだと言える。 冷静に考えれば、自分には、更に過酷な運命がまっている事に気がつくのだが、 自分と同じ者が、他にいるという事が嬉しかった。それに、避けられない<運命> ならば、一人よりも<仲間>と共にいた方が、確実に可能性が増える。 そう思い、龍麻は真神学園に転校することを決めたのだが・・・・。 「ふう。」 その日、何度目かの溜息をつく龍麻だった。 よくよく考えれば、どうやって<仲間>を見つければ良いのだろうか。鳴瀧の言葉を 聞いた時は、すぐに見つかる予感があったのだが、こうして、実際に真神学園に来て みると、どこにでもある平凡な学校で、とても、<人ならざる者>と対峙できるほどの、 <力>を持つ者がいるようには、思えない。名札でもつけてくれれば判るというのに、 まさか、そんなことがあるわけがない。早くも諦めモードの龍麻の脳裏に、養父母の 言葉が蘇った。 “出会うのが<運命>なら、会えば判るだろう。” 養父は、穏やかな笑みを浮かべて、そう言った。 “そうよ、龍麻。それに、これだけは覚えていて頂戴。例えどんな<運命>が待って いようとも、あなたは私達の大事な息子で、ここが、あなたの<帰る家>だということを。” 養母は目に涙を溜めながら、それでも微笑んで、自分を送り出してくれた。 “父さん・・・母さん・・・・。” 「・・・緋勇くん?どうかしたの?」 ハッ、と我に返ると、担任のマリア先生が、心配そうに龍麻の顔を覗き込んでいた。 「い・・・いえ。何でもありません。ただ、少し緊張して・・・・。」 龍麻の言葉に、怪訝そうな顔をしつつも、マリア先生はそれ以上何も言わなかった。 「さぁ、ここが教室よ。」 マリア先生に続き、龍麻も教室に入る。途端、教室中が沸き返る。その熱烈な歓迎に、 多少驚きながらも、龍麻は何とか自己紹介を終えると、自分の席につくべく、歩き始めた。 “この≪氣≫は・・・・。” 数歩行きかけた所で、暖かい太陽のような≪氣≫を感じ、思わずその方向を見た。 そこには、まるで太陽のような暖かな≪氣≫に包まれた、一人の男の姿があった。 そして、それと同時に、何故か泣きたいほど懐かしい気がした。 “出会うのが<運命>なら、会えば判るだろう。” 脳裏に養父の言葉が蘇る。 “そうだね、父さん。その通りだ・・・・・。” 一瞬、男と目が合う。そして、龍麻は初めて仲間を見つけた喜びに、微笑んだ。 “見つけたよ。<仲間>を・・・・・・。” 龍麻が、彼、蓬莱寺京一の名前を知るのは、それから数分後のことである。 |