素直なままで


                 第2話


           出会ったのは運命・・・・・。


           「新宿へ行きたまえ。」
           実の父の親友である鳴瀧の言葉に従い、新宿にある真神高校へ
           転校してきた龍麻だったが、その理由については、結局教えてもら
           えなかった。
           「それが君の<運命>だからだ。」
           鳴瀧は、ただそう繰り返すのみだった。
           “何が<運命>なんだろう・・・・。”
           <運命>、その言葉で龍麻は、ある男を思い出す。
           そいつは、自分は人の<運命>を操れると言った。
           龍麻は溜息を洩らす。
           <運命>・・・・本当に人の運命は、初めから定められているのだろうか。
           それなら、人は未来も希望もないではないか。その想いから、龍麻は男と
           戦い、見事勝利した訳だが、それすらも、<運命>だと言う。
           “訳わかんないよ。<運命>ってのは、一体なんだ?”
           そう言えば、男は妙な事を言っていた。龍麻の<運命の糸>が見えないと。
           そんなことがありえるはずがないのだと。
           そのことを鳴瀧に言うと、やはりという顔をしたのを思い出した。
           だが、それだけで、決して鳴瀧は多くを語ろうとは、しなかった。
           その代わり、龍麻に告げたのだ。新宿へ行けと。
           そして、<仲間>を見つけろと。
           <仲間>・・・・。<人ならざる者>との戦いにより、龍麻は既に自分が普通の
           人間でないことは自覚している。あの<戦い>によって、自分の中の、大きな
           力が目覚めたのを、感じた。それと同時に、普通の人間ではないという、一種の
           疎外感も感じていた。だから、鳴瀧の<仲間>という言葉が、龍麻にとって、
           救いにも似た響きに聞こえたとしても、仕方がないことだと言える。
           冷静に考えれば、自分には、更に過酷な運命がまっている事に気がつくのだが、
           自分と同じ者が、他にいるという事が嬉しかった。それに、避けられない<運命>
           ならば、一人よりも<仲間>と共にいた方が、確実に可能性が増える。
           そう思い、龍麻は真神学園に転校することを決めたのだが・・・・。
           「ふう。」
           その日、何度目かの溜息をつく龍麻だった。
           よくよく考えれば、どうやって<仲間>を見つければ良いのだろうか。鳴瀧の言葉を
           聞いた時は、すぐに見つかる予感があったのだが、こうして、実際に真神学園に来て
           みると、どこにでもある平凡な学校で、とても、<人ならざる者>と対峙できるほどの、
           <力>を持つ者がいるようには、思えない。名札でもつけてくれれば判るというのに、
           まさか、そんなことがあるわけがない。早くも諦めモードの龍麻の脳裏に、養父母の
           言葉が蘇った。
           “出会うのが<運命>なら、会えば判るだろう。”
           養父は、穏やかな笑みを浮かべて、そう言った。
           “そうよ、龍麻。それに、これだけは覚えていて頂戴。例えどんな<運命>が待って
           いようとも、あなたは私達の大事な息子で、ここが、あなたの<帰る家>だということを。”
           養母は目に涙を溜めながら、それでも微笑んで、自分を送り出してくれた。
           “父さん・・・母さん・・・・。”
           「・・・緋勇くん?どうかしたの?」
           ハッ、と我に返ると、担任のマリア先生が、心配そうに龍麻の顔を覗き込んでいた。
           「い・・・いえ。何でもありません。ただ、少し緊張して・・・・。」
           龍麻の言葉に、怪訝そうな顔をしつつも、マリア先生はそれ以上何も言わなかった。
           「さぁ、ここが教室よ。」
           マリア先生に続き、龍麻も教室に入る。途端、教室中が沸き返る。その熱烈な歓迎に、
           多少驚きながらも、龍麻は何とか自己紹介を終えると、自分の席につくべく、歩き始めた。
           “この≪氣≫は・・・・。”
           数歩行きかけた所で、暖かい太陽のような≪氣≫を感じ、思わずその方向を見た。
           そこには、まるで太陽のような暖かな≪氣≫に包まれた、一人の男の姿があった。
           そして、それと同時に、何故か泣きたいほど懐かしい気がした。
           “出会うのが<運命>なら、会えば判るだろう。”
           脳裏に養父の言葉が蘇る。
           “そうだね、父さん。その通りだ・・・・・。”
           一瞬、男と目が合う。そして、龍麻は初めて仲間を見つけた喜びに、微笑んだ。
           “見つけたよ。<仲間>を・・・・・・。”
           龍麻が、彼、蓬莱寺京一の名前を知るのは、それから数分後のことである。