恋唄・・・・。 遥かなる昔・・・。 想い、想われ、幸せになるはずだった二人。 運命の悪戯か、それとも宿命(さだめ)だったのか。 想い伝えられず、散ってしまった恋一つ。 時を越え、今再び巡り会いし、魂達。 前世と同じ過ちを繰り返すのか・・・。 それとも・・・・。 「・・・比良坂・・・。」 夕闇に染められた教室で、一人唄を口ずさんでいた比良坂は、遠慮がちに かけられた声に、ゆっくりと振り返った。 「き・・綺麗な歌だね。」 頬を紅く染めながら歌を賞賛する男子生徒に、比良坂は、にっこりと微笑んだ。 「・・・この歌はね、綺麗だけど悲しい歌なの。昔・・・、お互いが想い合っている 事を知らずに、擦れ違ってしまった挙句、片方が死んでしまうの。残された人は、 狂気に走ってしまう・・・。悲しい歌なのよ・・・。」 溜息をつく比良坂に、男子生徒は、意を決したかのように口を開いた。 「ひ・・比良坂って、好きな奴いるのか?」 その言葉に、比良坂は窓の外を眺めながらポツリと呟いた。 「・・・恋してるっていうのかな・・・。気が付いたら、その人の事が気になって、 どうしようもないの・・・・。」 「・・・そうか。じゃあ。」 比良坂の言葉に、男子生徒はがっくりと肩を落として、教室を後にする。 後に残された比良坂は、溜息と共にたった一人の名前を呟いた。 「・・・・緋勇さん・・・・。」 「・・・・学校、行きたくないな・・・・。」 その日、何度目かの溜息をつきつつ、龍麻は重い足を引き摺って、学校へと 歩いていた。いつもなら、京一に逢えるというだけで、早足で学校に通っていた のだが、今日は、その京一と逢うのが気まずいのである。 “ま・・まさか、両想いだなんて、思ってもみなかった・・・。” はぁあああああ。 またしても、溜息をつ龍麻。 一体、何が悲しくて、好きな相手から告白されて、断らなければならないのだろうか。 “恨むぞ〜!運命!!” 「学校、行きたくないな・・・。サボろうかなぁああああ。」 “そう言えば、体調もなんだか優れないみたいだし、よし、サボろう!決めた!!” そう決断して、元来た道を引き返そうとした時、女性の悲鳴が聞こえた。 「!!」 慌てて声のする方へ駆け出すと、そこには一人の女の子を数人の不良たちが 取り囲んでいた。 「何してんだ!!」 龍麻の声に、不良達は慌てて逃げていく。その引き際の良さに、龍麻は訝しく 思ったが、女の子は大丈夫かと、振り返った。 「君、大丈夫か?」 「ええ。助けてくれて、ありがとうございます。」 一礼して、顔を上げる少女に、龍麻は驚いた。 「き・・君は・・・。」 「あなたは!確か・・・緋勇さんだったかしら・・?」 にっこりと微笑む彼女に、龍麻は頷く。 「えっと・・・君は・・・。」 「比良坂です。比良坂沙夜。」 比良坂は、にこにこと微笑みながら答えた。 「緋勇さん!助けて頂いて、本当にありがとうございます。ところで、今日の 放課後お暇ですか?」 「放課後・・・。暇と言えば暇だけど・・・。なんで?」 首を傾げる龍麻に、比良坂は、ただ微笑むだけである。 「じゃあ、今日の放課後、真神学園の校門で待っています!それじゃ!!」 言うだけ言うと、比良坂は龍麻の返事を聞かずに、比良坂は駆け出して行った。 「・・・俺、今日学校をサボるつもりだったのに・・・・。」 一方的とはいえ、約束をしてしまった手前、学校をサボるわけにはいかなくなって しまった。龍麻は深い溜息をつくと、トボトボと学校へと歩き出した。 「おはよう!!緋勇君!!」 教室に入った途端、小蒔が龍麻を見つけ、声をかけてきた。 「おはよう。桜井さん。」 自分の席にカバンを置きながら、龍麻はにっこりと微笑む。 「なかなか来ないんだもん。欠席かと思って、心配したんだよ。」 「はははは・・・。」 まさか、サボろうとしたとは言えず、龍麻は笑って誤魔化した。 「全くだぞ。龍麻。」 そこへ、腕組をしながら、醍醐も現れる。 「京一と美里が風邪で欠席だから、お前もかと思って心配したぞ。」 「きょ・・京一が風邪って・・・。」 「あぁ、たいした事ないそうだが・・・。」 キーンコーン カーンコーン その時、丁度予鈴がなった。 ガタガタと席につき始める教室内で、龍麻は呆然と立ち尽くした。 「?緋勇君?」 訝しげな小蒔の声に、龍麻はハッと我に返ると、のろのろと席につく。 “京一が風邪って・・・。具合はどうなんだろう。” その日一日、京一の事が気になって、ずっと上の空の龍麻だった。 放課後、チャイムと同時に、教室を飛び出した龍麻は、校門の所で呼び止め られた。振り向くと、比良坂がニコニコと笑って手を振っていた。 そんな比良坂に、龍麻は済まなそうな顔で言った。 「比良坂さん・・・。実は・・・。」 京一のお見舞いに行くと言いかけて、ハッと我に返った。 “そう言えば、俺京一の家が何処にあるのか知らない。それに・・・・、京一に どんな顔で逢えばいいんだ?” 黙り込んでしまった龍麻に、比良坂は、首を傾げる。 「緋勇さん・・・?」 「い・・いや、何でもない。ところで、俺に何か用なんだろ?」 途端、比良坂は頬を染めながら俯いた。 「実は・・・。今朝助けてもらったお礼に、これからデートしてほしいなぁ・・・って 思って・・・。」 “家に帰っても、京一の事が頭から離れないし、ここは気分転嫁も兼ねて、デート でもしようかな。” 「いいよ。デートしようか。」 龍麻の言葉に、比良坂は嬉しそうに微笑んだ。 「ありがとうございます!!」 比良坂は嬉々として、龍麻の腕を取ると、自分の腕を絡ませて歩き出す。そんな 比良坂に、龍麻はちょっと困った顔をしたが、こんなに喜んでいるのだからいいか と、そのまま歩き出す。 「・・・そういうことか・・・。」 だが、龍麻は知らない。その光景を、京一が嫉妬の眼差しで見つめていた事を。 学校をサボったが、やはり龍麻に逢いたくて、学校まで来たが、仲睦まじい二人の 姿を見せつけられ、京一の心は乱れた。 “彼女いるのか・・・。” 京一は踵を返すと、そのまま振り返らずに、もと来た道を引き返す。その後姿を、 比良坂は勝ち誇った笑みで見つめた。 「どうかした?比良坂?」 後ろを振り返る比良坂に気づき、龍麻は尋ねる。後ろがどうしたんだろうと、振り 返ろうとする龍麻を、慌てて比良坂は止めた。 「いえ、何でもないんです!行きましょう!緋勇さん!!」 慌てて龍麻を引っ張りながら、比良坂は口許に笑みを浮かべていた。 ねぇ・・・緋勇さん。 奇跡って信じますか・・・? |