「だーかーら、俺は嫌だって言っただろう!!」 プログラムは既に前半部分が終わり、今はお弁当タイム。午後からのプログラムに 備えて、英気を養う最重要な時間帯であるにも関わらず、龍麻はクラスの女子数人に 囲まれ、3−Cの教室へと連行されていた。 「うふふふ。緋勇くん。往生際が悪いわよ。」 菩薩様が不気味に笑いながら、手にチアガールの服を持って、ジリジリと近寄ってくる。 「なんで・・・俺が・・・・。美里がやるはずだろ!」 恐怖に引きつりながら、龍麻は何とか逃げ出そうとするが、両脇を既に固められている ため、身動き一つ出来ない。 「ごめんなさいね。ちょっとしたプログラムの手違いで、応援合戦に出ちゃうと、次の種目に 出れなくなっちゃうのよ。」 にっこり微笑む菩薩様に、勇敢にも、龍麻は必死の反撃を試みる。 「あのさ、チアガールって、普通女の子がやるもんだろ?俺なんかがやらなくっても、 うちのクラスには美里の他にも綺麗どころが揃っている訳だし・・・。」 「あら、京一君とピッタリ息の合う人間なんて、緋勇くんだけじゃない。この前の、 練習の時の要領でやればいいのよ。」 ますますニッコリと菩薩様は微笑む。だが、その眼は私に逆らうことは許さなくってよ!! とばかりに、凄んでいた。 「あれは、美里が生徒会の仕事があるっていうから、代わりにやっただけで・・・。」 菩薩様は無言でチアガールの服と、鬘を龍麻に差し出す。 「せめて、京一と同じ学ランを・・・・・。」 「却下!!」 その場にいた女生徒全員が口を揃えた。 「絶対に、似合うから〜。」 「お願い!お願い!この通り!」 「緋勇大明神様〜!」 女生徒達は、龍麻の周りを取り囲むと、一斉に両手を合わせて拝み始めた。 「ちょ・・ちょっと待てよ・・・・。」 その異様な光景に飲まれ、龍麻はおろおろするばかりだった。 「うふふふ。みんな、大丈夫よ。」 菩薩様は、微笑みながらみんなを見回した。 「3−Cが優勝するためですもの。緋勇くんは喜んで、この大任を果たしてくれるはず。」 勝手な事を言うな〜!という龍麻が怒鳴り声は、女生徒の歓声に消されてしまった。 「流石、緋勇くん!物分りがいいわね!!」 「じゃあ、時間が勿体無いし、さっさと着替えさせちゃおう!」 「うわあああああ!!よせぇえええええ!!」 その場にいた全員にもみくちゃにされ、気が付いた時には、龍麻はチアガールの格好を させられ、茫然と立っていた。しかも、ロングの鬘も被らされ、薄化粧まで施されていた。 「うふふふ。思った通り。良く似合うわ!」 満足そうに菩薩様は微笑むと、手早く龍麻の着替えを持つと、他の女生徒を引き連れ、 教室を出て行った。 「じゃあ、またあとでね♪緋勇くん。」 その言葉に、ハッと我に返った龍麻は慌てて追いかけようとしたが、自分の格好に 気が付き、教室のドアから廊下に向かって叫ぶことしかできなかった。 「美里〜!!服を置いてけ〜!!」 だが、返ってきたのは、美里の高笑いのみだった。 「ど・・・どうしよう。こんな格好・・・・。」 途方に暮れた龍麻は、肩を力なく落として、自分の席に立つ。校庭に椅子を持ち 出している為、仕方なく龍麻は机に座ろうとした時、教室の後ろのドアがガラリと 開いた。 「ひーちゃん!早く弁当を食べないと、時間がなくなる・・・・。」 聞き覚えのある声に、龍麻が後ろを振り向くと、そこには、弁当箱を二つ持った京一が、 口をポカンと開けて立っていた。 「ひ・・・ひーちゃん・・・か・・?」 「京一〜!!」 茫然と立っている京一に、龍麻は思いっきり抱きついた。 「美里が〜。」 「あぁ、そうか。」 ポンと京一は手を打った。 「?」 訳が判らず首を傾げる龍麻に、京一はニコニコと笑いながら、龍麻を抱き締めた。 「俺の相手役、やっぱひーちゃんだったんだ。」 「やっぱ?どういうことだ?」 嫌な予感に龍麻は恐る恐る尋ねる。 「美里が、相手は当日のお楽しみよ!なんて意味深な事を言うからさ。」 「相手って、美里だろ!」 龍麻の言葉に、京一は首を振った。 「いや。決まっていなかったぜ。・・・・もしかして、ひーちゃん知らなかったのか? 3−Cの応援合戦で俺の相手が誰か、全校でトトカルチョしてたって。」 「はぁああああ?何それ。」 これって、完璧に仕組まれた事だったのか・・・。がっくりと肩を落とす龍麻を、 京一はぎゅっと抱き締めた。 「へへっ。午後の応援合戦、楽しみだな!」 「あっ、美里ちゃん!さっきはありがとう!」 校庭に戻った葵を、目聡く見つけたアン子は、カメラ片手に近寄ってきた。 「美里ちゃんが、借り物競争に裏工作してくれたおかげで、もうバッチリいい写真を 撮る事が出来たわ!」 「うふふふ。大したことはしていないわ。それよりも、次の応援合戦も頼んだわよ。」 アン子は、カメラ片手にウィンクした。 「まっかせて!年に数回あるかないかの稼ぎ時だもの。絶対にいい写真を撮るわよ。 売上の2割は、今度生徒会の方に持っていくわね。」 「ええ。期待しているわ。」 「それにしても、今年の体育祭は、例年に比べて凄いわ。全校はもとより、他校にまで 関心を集めているんだもの。写真の売上に、全校巻き込んでのトトカルチョで、かなり 生徒会は潤うんじゃない?」 そんなアン子の問いに、美里はただ笑うだけであった。 |