「さて、次はいよいよ、龍麻の出る騎馬戦か・・・・・。」 壬生は、鳴滝に提出用のビデオカメラをバックの中に入れると、入れ替わりに、 自分専用のビデオカメラを取り出した。そして、アン子の姿を確認すると、アン子に 気づかれないように、その背後へと移動した。 「なんや、壬生はん。今までどこにおったんやー!」 壬生が驚いて横を見ると、劉、雷人、紫暮の3人が立っていた。 そして、その右斜め前方には、霧島とさやかもいて、劉の声に、後ろを振り返って、 壬生に軽く会釈した。 “し・・・しまった。元の場所に戻ってしまったのか・・・・。” 壬生大ピーンチ。本当の事を言う訳にはいかない壬生は、適当に誤魔化そうと、口を 開きかけたその時、如月と村雨が壬生の姿を見つけて、駆け寄った。 「壬生、急にいなくなるから、心配・・・・。ゲッ!!」 「如月サン!!」 だが、忍者大好き人間、雷人の姿を一目見て、如月は逃げ出したくなる衝動を なんとか堪えた。 “よりにもよって、なんで龍麻を見る絶好のポイントに、雨紋がいるんだ〜!!” 悪い奴ではないのだが、どうも苦手なのだ。 「どうした?顔色が悪いぜ?」 知っていてわざと村雨は如月に聞く。この状況を面白がっている村雨に如月は 無視を決め込む。 「いよいよ、アニキの出番やな〜!なんや、ワイまで緊張してきたわー。」 劉の言葉に、雷人も頷く。 「よし、今度こそ気合入れて、龍麻サンの勇姿を写真に収めるぜ!」 二人は気合も新たに、使い捨てカメラをポケットから取り出すと、構えた。 「なぁ、さっきから妙な視線を感じるんだけど・・・。」 騎馬戦に参加するため、3年男子は入場門に集まっているのだが、どうも先程から 視線を感じる龍麻だった。 「それは・・・多分・・・・・。痛い!!」 龍麻の言葉に、醍醐が答えようとするのを、横にいた京一が思いっきり醍醐の足を 踏む。そして、代わりに龍麻の肩を引き寄せると、耳打ちした。 「ひーちゃん。もう戦いは始まっているんだぜ。周りの連中、ひーちゃんにガンつけ てんだよ。」 「そうかなぁ・・・?」 だったら何故、みんなは目が合うと恥かしそうに下を向くのだろうか。 「そうなんだ!俺が言うから間違いはない。まっ、ひーちゃんの身はこの俺が必ず 守るから、心配すんな!」 ポンと肩を京一に叩かれても納得がいかない龍麻だったが、集合の合図に、所定の 位置へ急いだ。その後ろ姿を眺めながら、醍醐は京一に言う。 「いいのか?龍麻に嘘ついて。みんなは龍麻のチアガール姿を見たから、注目して いるって、教えないつもりか。」 そんな醍醐の言葉に、京一は不敵な笑みを浮かべる。 「へっ、俺のひーちゃんをジロジロ見やがって。騎馬戦のドサクサに、全員まとめて ぶっ飛ばしてやる!100万年早いんだよっ!ばーか。」 その言葉に、醍醐は無事この競技が終了するのか、本気で心配になった。 「アニキー!!」 「龍麻サン!!」 騎馬戦を開始して、数分後、異常が起こった。なんと開始の笛の合図と共に、 龍麻目掛けて人が殺到したのだった。 「ひーちゃん!!ったく、この野郎!」 京一は龍麻と敵の間に素早く立ちはだかった。そして、味方に向かって、的確な 指示を出す。 「A組は左から来るF組を、B組は右から来るD組を押さえろ!!それから、C組! ひーちゃんの周りを取り囲め!絶対にひーちゃんを守りきるぞ!!」 「おう!!」 龍麻が唖然とするなか、味方であるA組の騎馬隊は左からくるF組の騎馬隊の 進入を阻止すべく壁となり、同じく味方のB組の騎馬隊は右から進入してきたD組を 阻む為動く。そして、C組は龍麻を取り囲み、前方から来るE組の攻撃に備えた。 全て京一の指示通りに、陣が組まれていく。 「ちょ・・ちょっと待て!なんで俺が守られなきゃなんないんだっ!!これは、ただの 騎馬戦だろ?」 だが、龍麻の主張は皆に黙殺される。龍麻のチアガール姿は、皆の心にアイドル として位置付けるには、充分過ぎるほどの効果を発揮した。敵は龍麻の狂信的な FANで、無理矢理龍麻に近付こうとしている。それを阻止して、龍麻を守るのだっ!! と、何時も間にか、皆の心が一つになっていた。 「お前ら!ひーちゃんに指1本触れさせねぇからなっ!!」 京一の言葉に、龍麻は頭を抱えてしまった。 「もう・・・勘弁してくれよ!!」 さて、龍麻のFANは、何も真神の生徒ばかりではない。自分の所の体育祭を堂々と サボって見学に来ている他校生も、龍麻が襲われている所を目撃して、平静でいられる 訳はなかった。 「ア・・アニキがー!!なんて、卑怯な奴らなんやっ!!かよわい(?)アニキをよって たかって・・・・。もう、我慢できへんわ!!・・・・ホァタァァッ!天吼前刺!!」 技をかけられたF組の大半が吹っ飛ぶ。 「オレ様の力、見せてやるぜ。・・・・ライトニング・ボルトォッ!」 辛うじて劉の技から身を守ったF組の残りは、間髪置かずに繰り出された雷人の技を 諸に受けてしまい、再起不能になった。そのおかげで、労せず、鉢巻を回収するA組。 「飛水流の名にかけて、龍麻に害をなす者は滅すまでッ!フフフフ。飛水流の奥義、 とくと、見よッ!!飛水流奥義、瀧遡刀!!」 D組に向かって如月は技を放つ。途端、D組の騎馬隊は鯉の瀧上りのように、大空に 華麗に舞う。 「先生に手を出そうとするなんてな。死にてぇ奴はどいつだ?青短・吹雪!」 落下してくる全員に向かって、村雨の技が炸裂する。途端、凍りつくD組の騎馬隊に、 B組の騎馬隊が鉢巻を取ろうとしたが、凍ってしまってたため、鉢巻が取れずに悩むと いう一幕があった。 「あぁああ!!!京一先輩が危ない!!行くよ!さやかちゃん!!」 なんで?とも思ったが、条件反射とは恐ろしいもの。つい、さやかは霧島に返事をして しまった。 「はいっ!!霧島くん。」 「霊歌剣乃舞!!!!」 京一の前にいた敵が、次の瞬間、吹っ飛ぶ。その隙を逃さず、素早く鉢巻を奪い取る 京一。 そして、まだ残っているE組の騎馬隊を睨みつけながら、壬生は手にしたビデオカメラを 紫暮に預けると、ポツリと呟いた。 「如月さん、村雨さん。お二人の力・・・・お借りしますよ。」 「あぁ。用意はいいか?村雨。」 「へッ。・・・いつでも来な。」 「では・・・・参る!!北の将、黒帝水龍印!!」 「南の将、赤帝火龍符!!」 「今ひとたび、相克の理を違え、我が愛のもと、相応となさん!!」 「紫龍黎光方陣!!」 ドッカーンという爆音と共に、E組は全員再起不能になった。 そして、鉢巻を回収するC組の面々。 終了の笛がなる頃には、校庭に佇むのは、A・B・C連合の騎馬隊だけであった。 「ねぇ、美里ちゃん。これって、あり?」 アン子の言葉に、美里はにっこりと微笑んだ。 「局地的に大雨、洪水、突風、雷があったみたいね。巻き込まれた人が無事なら いいわね。うふふふ。」 がっくりとアン子は肩を落とした。どうやら菩薩様は、自分の所が1位になれば、 それでいいようだ。 「聞いたあたしが馬鹿だったわ・・・・。」 溜息をつくアン子に、美里は声をたてて笑った。 |