第2幕   悲しみのお姫様

 

 

              あるところに、両親を喪った、可哀想なお姫様がおりました・・・・。





              お姫様は悲しみのあまり、両親が眠る柩の真ん中に柩を置き、
              その中に入りました。柩の中は薔薇がひき詰めてあり、その香りに、
              気分を良くしたお姫様は、何時の間にか眠ってしまいました。
              どのくらい時が経ったことでしょう。ふと、自分を見つめている視線に
              気が付きました。ですが、悲しみのお姫様は、目を開けることはしません
              でした。何故なら、目を開けてしまった瞬間、哀しい現実が待って
              いるからです。
              「何をしているんだい?」
              優しく尋ねられ、お姫様は目を閉じたまま答えました。
              「私が瞬き1つする間、お父様とお母様が亡くなって、私の世界は
              変わってしまった。だから、こうして目を閉じていれば、世界は変わらない
              んだわ。」
              「現実は君に残酷なんだね。だからって、逃げてはいけないよ。」
              あまりにも哀しそうな声なので、悲しみのお姫様は、思わず目を
              開けてしまいました。そこには、小麦色の肌をした少年が、静かに
              佇んでいました。
              「王子様なの?」
              お姫様の問いに答えず、少年は哀しそうな目をすると、その場を
              立ち去りました。慌てて悲しみのお姫様も、その後を追います。
              暫く歩くと、少年は巨大な薔薇の彫刻がしてある、奇妙な空間で
              立ち止まりました。不思議そうに辺りを見回す悲しみのお姫様に、
              少年は薔薇の彫刻を見つめながら呟きました。
              「どんなに願ったって、現実から逃れることは出来ない。もし、仮に
              出来たとしても、それはさらに苦しむ結果となる・・・・・。」
              何気なく、少年が見つめている薔薇の彫刻を見て、悲しみのお姫様は
              声にならない悲鳴をあげました。何時の間にか、そこには無数の剣を
              突き立てられた、小麦色の肌をした少女がいたのでした。
              「あ・・・あの子は・・・・・。」
              「“薔薇の花嫁”」
              お姫様の問いに、少年は静かに答えました。
              「“薔薇の王子様”を救うため、全ての罪を被った“魔女”さ。愛する
              王子様が傷ついていく、辛い現実から逃れるため、彼女は王子様から
              力の源を奪った。そして、世界は“薔薇の王子様”という光を失い、
              闇に覆われてしまった。彼女は、世界から光を奪った罪で、こうして
              未来永劫、苦しみ続けなければいけない・・・・・。」
              「そんな・・・・・。あの子が可哀想よ!お願い、助けてあげて!」
              お姫様は、必死に少年に頼みました。ですが、少年は首を横に
              振るばかりです。
              「僕には、彼女を救えない。」
              「何故?」
              「僕は彼女の“王子様”では、ないから。ここにいるのは、ただの
              “抜け殻”なのさ。」
              「だったら・・・・。」
              お姫様は、涙で濡れた顔で、少年を睨みました。
              「だったら、私が“王子様”になる!そして、あの子を助ける!」
              少年は、フッと微笑むと、お姫様の左の薬指に、薔薇の刻印が
              入った、指輪を嵌めた。
              「優しい子だね、君は・・・・。もし、その気高い心を、いつまでも
              持ち続けることが出来たら、この指輪が、再び君をここに導く
              だろう。」
              そこで、お姫様は目を覚ましました。慌てて辺りを見回しても、
              少年の姿は何処にもありません。
              「夢だったのかしら・・・・・。」
              やがて、お姫様は気付きます。左の薬指に嵌められた、薔薇の
              刻印の指輪に・・・・・・。、