戦う、大佐さん!シリーズ 番外編
                戦う、恋する乙女! 中編

 

 

               近道しようと、中央図書館の庭を横切っていた
               エドは、ふと手に持ったバスケットの存在を思い出した。
               「・・・・ところで、これどうしようかな・・・・・。」
               ロイに食べて貰おうと、一生懸命に作ったのだが、
               渡せずに持って帰ってしまったお弁当の処分に、
               エドは途方に暮れる。
               「1人で食べるにも、限界があるし・・・・・・。」
               かと言って、捨てるのは抵抗がある。
               折角キッチンを貸してくれたホークアイに対しても、
               失礼だ。
               「こんな事なら、ハボック少尉に渡せば良かった・・・・。」
               そんな時だった、背後から声が掛けられたのは。
               「エド?」
               その声に、驚いて振り向くと、穏やかな笑みを浮かべた、
               フレデリック・ホークアイ大佐が立っていた。



               「まさか、ここでエドに逢えるとはね。」
               ニコニコと嬉しそうな顔をするリックとは対称的に、エドは
               どこかぎこちない笑みを浮かべる。
               「お久し振り。ホークアイ大佐。」
               ペコリと頭を下げるエドに、リックは少し悲しそうな顔を
               しながら、丁度近くにあったベンチにエドを座らせると、
               自身もその横に腰を降ろす。
               「・・・・ところで、今日も図書館に調べ物?」
               リックの質問に、エドはピクリと身体を竦ませると、
               ぎこちなく頷く。
               「ん・・・ま・・まぁ、そんなトコかな?」
               あははははと乾いた笑いをするエドに、リックは
               苦笑する。
               「エド・・・・確かに俺は君に振られた。でも、恋人には
               なれなかったけど、友達だとは思っているから。」
               「・・・・リック・・・・。」
               困った顔のエドに、リックはニッコリと微笑む。
               「だから、そんなに警戒しないでくれ。」
               「・・・・・ごめん。リック。」
               シュンとなるエドに、リックはただ黙って、エドの頭を
               ポンと叩くと、ふとエドが手にしているバスケットに
               気づいた。
               「エド、それは?」
               「あ・・・これは・・・その・・・・。」
               まさか、ロイに作ったものとは言えず、エドは必死に
               誤魔化した。
               「これは・・・その・・・今日は天気がいいから、外で
               食べようかと思って・・・・・。」
               「ふーん。見てもいいかい?」
               そう言って、エドからバスケットを取り上げると、リックは
               嬉々として蓋を開ける。
               「へぇ〜。美味しそうじゃないか!」
               感嘆の声を上げるリックに、エドは真っ赤な顔で
               リックからバスケットを奪い返す。
               「ひ・・久し振りだから、上手く出来なくて・・・・。」
               半分泣きそうな顔のエドに、リックはキョトンとした
               顔を向ける。
               「は?何でそんなに悲しそうな顔をするんだい?
               こんなに美味しそうなのに。」
               多少歪な形になっているが、それを差し引いても、
               彩りなど鮮やかで、見た目も香りも食欲をそそる。
               「それにしても、随分量があるね。まさか、1人で
               全部食べるのか?」
               途端、エドの顔が真っ赤になる。
               「これは、その・・・作りすぎちゃって・・・・・。」
               視線を逸らすエドに、リックはクスクス笑う。
               「誤魔化さなくてもいいよ。マスタングと食べるんだろ?」
               リックの言葉に、エドは悲しそうな顔で俯く。
               「・・・ロイにあげないもん・・・。」
               「それって、どういう・・・・・。」
               様子がおかしいエドに、リックは心配そうな顔で、
               肩に手を置こうとするが、ふいに聞こえてきた声に、
               動きを止めた。
               「・・・・・随分と仲がいいんだな。」
               ハッと顔を上げると、不機嫌な顔をしたロイが、立っており、
               その後ろには、青褪めた顔のヒューズと何も分かっていない
               ローズが立っていた。
               「いつ、こちらへ?」
               冷たいまでのロイの視線に耐え切れず、エドは顔を背ける。
               ロイを驚かせたくて、昨日ヒューズに自分がここにいる事を
               口止めしたことが仇になった。ここで昨日の昼過ぎだと
               正直に告白すると、何故自分の元に来なかったのかと
               責められるだろう。そうなれば、必然的にロイに作った
               お弁当の事まで話さなければならない。直ぐ近くに
               ローズがいるこの状況で、それは避けたいエドは、
               どう誤魔化そうかと俯く。そんなエドの様子に、苛立ちも露に
               ロイはツカツカと近寄ると、じっとエドを見下ろす。
               「・・・・・手作りの弁当か。」
               エドの膝の上に乗っているバスケットを一瞥すると、ロイは
               吐き捨てるように言った。
               漸く逢えた恋人が、よりにもよって、かつての崇拝者と共に
               いれば、誰だった面白くない。おまけに、恋人である自分ですら
               未だにエドの手料理を食べたことがないのに、何故リックに
               食べさせるのかと、ロイは嫉妬の為、自分の感情がコントロール
               出来ず、エドに冷たく当たる。
               「・・・・ほう。君の手料理は初めて見るが・・・・。」
               ロイはじっとバスケットの中身を見つめる。多少不揃いだが、
               栄養のバランスを考え、なおかつ彩りも綺麗で、何よりも、
               食欲をそそる香りに、ロイの嫉妬心は更に煽られる。
               自分だけがエドと恋人同士になれたと舞い上がっていたのかと、
               エドに憎しみすら覚える。
               「これが料理なのか?仮にも女の子だろ?錬金術もいいが、
               少しは料理を勉強しようと思わないのかね?君と同い年のローズの
               料理は絶品だったよ。」
               その言葉に、エドは真っ青な顔でギュッとバスケットを握る。それとは
               対称的に、喜びに頬を紅く染めたローズが、ロイの腕に自分の
               腕を絡ませる。
               「それじゃあ、明日もお弁当を作りますね!何がいいですか?」
               これから食料を買いに行きましょう!と、ロイの腕を引っ張るローズに、
               ロイはエドに心を残しながら、ローズに促されてエドに背を向ける。
               「ちょっと待てよ!大佐!!」
               本気で怒っているエドの声に、ロイは顔だけを向ける。
               「何だね?鋼の。」
               エドは怒りも露な眼でロイを睨みつけると、ベンチから立ち上がり、
               ツカツカとロイに近づく。
               「見た目は確かに悪い!それは認める。だがな、一口も食べないのに、
               そこまでボロクソに言われる筋合いはない!!」
               エドはバスケットの中から左手でクラブサンドを取り出すと、ロイに
               突きつける。
               「食え!そして、正当な評価をしろ!」
               エドも意地だったが、ロイも意地になっていた。エドの手作りが食べられる
               事はすごく嬉しい。だが、自分の為ではなく、他人の為に作られたものを
               食べなければならない事に、ロイの怒りは頂点へと達する。
               これでは、自分が惨め過ぎる。そう思い、ロイは冷たく言い放つ。
               「生憎、私はお腹が一杯なのでね。君の下手な料理を口にする
               つもりはない!」
               「・・・・・ロイ?」」
               動きが止まるエドに、ロイは苛立ったように、軽くエドの手を振り払う。
               「っ!!」
               だが、左手に怪我を負っているエドには、それが激痛を伴い
、              思わずクラブサンドを落としてしまった。
               「マスタング!!」
               「ロイ!!」
               あまりにも酷いロイの仕打ちに、リックとヒューズの叱咤が飛ぶ。
               「・・・・・エディ・・・・。」
               流石に遣りすぎたと、ロイは顔を青褪めながら、左手を右手で
               庇いながら、落ちたクラブサンドをじっと見つめるエドを、抱きしめようと
               手を伸ばすが、その前に、キッとエドは顔を上げると、持っていた
               バスケットをロイに投げつけると、泣きながら走り去ってしまった。
               「おい!エド!!」
               「待て!!」
               エドを追いかけようとしたリックとヒューズだったが、惚けているロイに
               気づくと、舌打ちをする。
               「何ぼさっとしているんだ!早く追いかけろ!ロイ!!」
               ヒューズの言葉に、慌ててエドを追いかけようとしたロイだったが、
               直ぐに立ち止まる。
               「マスタング!!」
               唇を噛み締めて俯くロイに、リックは怒りも露な顔で、ロイの胸倉を掴むと、
               力一杯殴りつける。
               「ロイさん!!」   
               倒れこむロイを、ローズが慌てて駆け寄ろうとするが、その前にヒューズが
               彼女を止める。
               「・・・・・あんた、なんか勘違いしてるんじゃないか?」
               リックの言葉に、ロイはギロリと睨みつける。
               「言っておくが、彼女とはさっき偶然会っただけだ。」
               「何?」
               息を呑むロイに、ヒューズは無言で近づくと、下に落ちたバスケットを
               拾い上げる。
               「なぁ、この弁当。もしかしてロイの為に作ったんじゃねーのか?」
               ヒューズは弁当の中身を見ながら、ロイに渡す。
               「まさか・・・・・。」
               掠れた声のロイに、ヒューズは真剣な目で言う。
               「弁当の中身、全部ロイの大好物ばかりじゃねーか。」
               「!!」
               ヒューズの言葉に、慌ててバスケットの中身を確認すると、
               確かに自分の好物ばかりだった。
               「早く追いかけろ!ロイ!!」
               ヒューズの言葉に、ロイは弾かれたように立ち上がると、
               慌ててエドを追いかけた。
               「エディ!!」
               だが、その後ロイはイーストシティの心当たりを全て探したが、
               エドを見つける事は出来なかった。