ライスシャワー

                    第3話

 

    「美里写真館って、明治初期に開店した、由緒正しき写真館なの・・・・。」
    美里は、何時の間にか取り出した美里写真館のパンフレットを、俺たちの前に広げると、
    嬉々としながら説明し始めた。
    「みて、これなんか、光栄にも明治天皇を撮った写真でね・・・・。」
    さらに、秘蔵の写真なるものまで飛び出してきた。
    「あのさ・・・・。全然話が見えてきていないんだけど・・・・。」
    あまりにも延々に話す美里に、俺は恐る恐る声をかけた。
    ギロリ!!
    気持ちよく説明をしていた所を中断されて、美里は面白くなさそうに、俺を
    睨み付けた。うわああああ。メチャ怖い〜!!
    「で?話は美里写真館の自慢かよ。」
    さりげなく俺を美里から庇うように、京一は美里に文句を言う。
    「うふふふ。せっかちね。」
    菩薩眼を光らせながら、美里はニヤリと笑った。
    「私は今、いかに<美里写真館>が歴史的にも価値があるという事を
    知ってもらおうと、説明をしているのよ?」
    「その歴史的価値のある<美里写真館>と俺達とどう関係するんだ?」
    京一の言葉に、美里は一変表情を曇らせると、何時の間にか取り出した
    ハンカチで、目頭を拭った。・・・・・要するに、泣きまね。
    「その、歴史的価値のある美里写真館が、今まさに、閉館しようとしているの・・・。」
    大げさに泣きまねをする美里。でも、相手が悪かったよ。俺達そんなチャチな手に
    引っかかるほどお人よしじゃない。案の定、京一はさっさと帰り支度を始めている。
    「・・・・・街頭でチラシ配りなんてごめんだぜ。報酬として、ただで俺達の結婚式を
    させてやるって事でもな。」
    うんうん!そうだ!そうだ!こんな寒い中、外でチラシ配りしたら、風邪引いちゃうじゃん!
    だが、美里は首を傾げた。
    「チラシ配り?何それ。そんな無駄な事を、この私がすると思って!?」
    心外だというように、美里が怒り出す。その様子に、俺と京一は顔を見合わせた。
    何?違うのか?そこへ、今まで黙っていた葛城翔が、口を挟む。
    「あのさ、ここは結婚式場だよ。街頭でチラシ配ったって、それはたかが知れているだろ?
    で、どうすればいいのか・・・・・。そこで美里さんは考えた。<美里写真館>を世間に
    PRするに一番効果的な方法は、写真見本の被写体が良ければいいと・・・・。」
    葛城の目が美里同様に、ピカリーン!と光った。・・・・・嫌な予感が・・・・。
    「名誉ある結婚式の写真のモデルに、ひーちゃんと蓬莱寺君が選ばれたんだよ!
    おめでとう!!!!」
    や・・・・やっぱり〜!!嫌な予感が当たって、俺はチラリと横目で京一を見た。
    案の定、喜びに眼が輝いている。
    「・・・・・・仲間だもんな。協力してやるぜ。」
    「うふふふふ。京一君なら、絶対にそう言ってくれると思っていたわ。」
    既に京一と美里の間では、協定が結ばれてしまった。こ・・・こうなったら、
    自分の身は自分で守るしかない!そう思い、俺は急いでこの場から逃げようと
    踵を返した所、それよりも早くアン子の腕に捕まってしまった。
    「さ、緋勇君、観念して支度してね。」
    アン子のメガネが怪しく光る。
    「い・・・嫌だ!ウエディングドレスなんか、着るもんか〜!!」
    俺の絶叫を、美里は平然と受け止める。所詮、<黄龍の器>は母親の資格を有する
    <菩薩眼>には適わないのか!
    「あら、緋勇君、そんな我侭は許されなくってよ。」
    「お・・・男の俺じゃなくっても、可愛い子なら、他にいるだろ?」
    そんな俺のもっともな意見に、美里は凶悪な笑いをする。
    「うふふふふ。緋勇君。この<約束>シリーズの主旨がイマイチわかっていないようね。」
    しゅ・・・主旨?そんなモンがあるのか?
    「このシリーズでは、緋勇君の女装がウリなんだから、そんな我侭が通ると
    思っているの?」
    ガガーン!!そ・・・・そうだったのか・・・・。ちっとも知らなかったぜ・・・・。
    「それに・・・・。」
    美里はそこで言葉を切ると、急に真顔になった。
    「京一君が、他の人と、例え形でも、結婚式をあげても、いいの?」
    そ・・・そんなの・・・・・。
    「そんなの、絶対に許さない・・・・。」
    思わず呟いた言葉に、美里はにっこりと微笑んだ。
    「でしょ?さぁ、観念して、支度してらっしゃい!」
    美里がパチンと指を鳴らすと、ワラワラと3−C女生徒達が、どこからともなく沸いてきて、
    俺を控え室へと連行した。ちっくしょー!!お前ら覚えてろよ!!
    俺の叫びは、むなしく<美里結婚式場>のロビーにこだました。