「美里写真館って、明治初期に開店した、由緒正しき写真館なの・・・・。」
美里は、何時の間にか取り出した美里写真館のパンフレットを、俺たちの前に広げると、
嬉々としながら説明し始めた。
「みて、これなんか、光栄にも明治天皇を撮った写真でね・・・・。」
さらに、秘蔵の写真なるものまで飛び出してきた。
「あのさ・・・・。全然話が見えてきていないんだけど・・・・。」
あまりにも延々に話す美里に、俺は恐る恐る声をかけた。
ギロリ!!
気持ちよく説明をしていた所を中断されて、美里は面白くなさそうに、俺を
睨み付けた。うわああああ。メチャ怖い〜!!
「で?話は美里写真館の自慢かよ。」
さりげなく俺を美里から庇うように、京一は美里に文句を言う。
「うふふふ。せっかちね。」
菩薩眼を光らせながら、美里はニヤリと笑った。
「私は今、いかに<美里写真館>が歴史的にも価値があるという事を
知ってもらおうと、説明をしているのよ?」
「その歴史的価値のある<美里写真館>と俺達とどう関係するんだ?」
京一の言葉に、美里は一変表情を曇らせると、何時の間にか取り出した
ハンカチで、目頭を拭った。・・・・・要するに、泣きまね。
「その、歴史的価値のある美里写真館が、今まさに、閉館しようとしているの・・・。」
大げさに泣きまねをする美里。でも、相手が悪かったよ。俺達そんなチャチな手に
引っかかるほどお人よしじゃない。案の定、京一はさっさと帰り支度を始めている。
「・・・・・街頭でチラシ配りなんてごめんだぜ。報酬として、ただで俺達の結婚式を
させてやるって事でもな。」
うんうん!そうだ!そうだ!こんな寒い中、外でチラシ配りしたら、風邪引いちゃうじゃん!
だが、美里は首を傾げた。
「チラシ配り?何それ。そんな無駄な事を、この私がすると思って!?」
心外だというように、美里が怒り出す。その様子に、俺と京一は顔を見合わせた。
何?違うのか?そこへ、今まで黙っていた葛城翔が、口を挟む。
「あのさ、ここは結婚式場だよ。街頭でチラシ配ったって、それはたかが知れているだろ?
で、どうすればいいのか・・・・・。そこで美里さんは考えた。<美里写真館>を世間に
PRするに一番効果的な方法は、写真見本の被写体が良ければいいと・・・・。」
葛城の目が美里同様に、ピカリーン!と光った。・・・・・嫌な予感が・・・・。
「名誉ある結婚式の写真のモデルに、ひーちゃんと蓬莱寺君が選ばれたんだよ!
おめでとう!!!!」
や・・・・やっぱり〜!!嫌な予感が当たって、俺はチラリと横目で京一を見た。
案の定、喜びに眼が輝いている。
「・・・・・・仲間だもんな。協力してやるぜ。」
「うふふふふ。京一君なら、絶対にそう言ってくれると思っていたわ。」
既に京一と美里の間では、協定が結ばれてしまった。こ・・・こうなったら、
自分の身は自分で守るしかない!そう思い、俺は急いでこの場から逃げようと
踵を返した所、それよりも早くアン子の腕に捕まってしまった。
「さ、緋勇君、観念して支度してね。」
アン子のメガネが怪しく光る。
「い・・・嫌だ!ウエディングドレスなんか、着るもんか〜!!」
俺の絶叫を、美里は平然と受け止める。所詮、<黄龍の器>は母親の資格を有する
<菩薩眼>には適わないのか!
「あら、緋勇君、そんな我侭は許されなくってよ。」
「お・・・男の俺じゃなくっても、可愛い子なら、他にいるだろ?」
そんな俺のもっともな意見に、美里は凶悪な笑いをする。
「うふふふふ。緋勇君。この<約束>シリーズの主旨がイマイチわかっていないようね。」
しゅ・・・主旨?そんなモンがあるのか?
「このシリーズでは、緋勇君の女装がウリなんだから、そんな我侭が通ると
思っているの?」
ガガーン!!そ・・・・そうだったのか・・・・。ちっとも知らなかったぜ・・・・。
「それに・・・・。」
美里はそこで言葉を切ると、急に真顔になった。
「京一君が、他の人と、例え形でも、結婚式をあげても、いいの?」
そ・・・そんなの・・・・・。
「そんなの、絶対に許さない・・・・。」
思わず呟いた言葉に、美里はにっこりと微笑んだ。
「でしょ?さぁ、観念して、支度してらっしゃい!」
美里がパチンと指を鳴らすと、ワラワラと3−C女生徒達が、どこからともなく沸いてきて、
俺を控え室へと連行した。ちっくしょー!!お前ら覚えてろよ!!
俺の叫びは、むなしく<美里結婚式場>のロビーにこだました。